第77話 土掘りだお

 ゼクスの確認に、何を思ったのか僕は、ちょっとだけ体験させてもらおうかなと答えてしまった。


 すると現場監督の軍曹――ガルルは声高らかに整列していた新兵に伝える。


「喜べお前ら! 新しい豚が性懲りもなくやってきたみたいだぞ! 歓迎してやれ!」


 整列していた新兵は無造作に押し寄せ、まず僕の衣服をはぎ始めた。


「クソガキが、綺麗な洋服着てるじゃねぇか半人前以下のテメエ等には見合わねぇぜ」

「生っちょろい肌しやがって、お前らどこの国のものだ? 俺はノンケでも食っちまうぜ」


 ちょ、やめ、嗚呼!


 ◇ ◇ ◇


 そんなこんながあり、僕は今、両手にマメを作ってつるはしを振るっています。

 土堀りは楽しいか? 楽しいよなぁ!? と現場監督のガルルは叫ぶ。


「いいか、効率は求めるな」


 えぇ……。


「俺たちがなんのためにここで働いているのか、言ってみろ」


 と問われると、現場にいる新兵は声を合わせる。


「「「生きて帰るため!」」」


「そうだ! 夢や希望を持つのは生き抜いてからにしろッ! 生きるために俺たちは土を掘っているんだからな」


 僕が血迷ってこの現場に参加してから一週間は経つ。

 アオイはザハドを連れて一目散に逃げたけど、他は僕と一緒に訓練に参加していた。


「タケル、水だ」


 ライザが水を持って隣にやって来ると、生き心地がした。


「そろそろ限界なんじゃないかタケル」

「はは、だってさ、終わりが見えないんだもの」


 いっそのこと死んだ方が早いんじゃね? って思う。

 何が早いというのだろう、人は生まれながらにして終わりを求めているのかな……。


 ある種の真理に行きついた時、休憩を報せるベルがジリリリリと鳴る。

 僕たちは作業を引き上げて、現場の階層から一つ上の宿泊施設に向かう。


 これから八時間の休憩を各人で取った後は、また土堀りが待っているのだ。


 土肌が目立つ現場とは違い、宿泊施設の壁や天井、支柱にはモルタルのような固い塗装が施されている。この世界ならではの魔法の照明が各所に点在していて、光の色は白だけでなく、淡い水色や橙色のものまでさまざまだった。


 一緒に巻き込まれたウルルやイヤップの業務の一つが、照明器具の点検だった。


 僕とライザは宿泊施設にある飯屋に入り、豚のもつ煮定食を一緒に頼んだ。


「やぁタケル、その後の首尾はどうかな」


 そこに、首長のゼクスがお忍びでやって来て、首尾とやらを聞いてくる。


「その顔は大分やられてるね」


 えぇ、今の僕は虚無です。

 あの時ゼクスの誘いに乗ってしまった後悔など、もはや過去の産物。

 今はただ明日の作業を想像して、憂鬱になっている。


「ライザはさほど変わらない目つきだね」

「私は元々ここより殺伐とした世界で生きていたからな」

「なら君にはこの訓練は不要だったみたいだな、それよりもタケル」


 ふぇ?


「タケルには特別な任務が入った、今から僕について来てくれ」

「せめて食事終わってからにしてくれ」


 と言うと、ゼクスは僕たちと同席し、周囲を驚かせていた。

 ゼクスは首長として、周囲のエルフたちにとっては一目置く存在だった。


 その影響から、今日のもつ煮定食は二倍盛りになっていた。


 普段の僕ならこんなに出されても遠慮してしまうけど、今はありがたいと感じる。


 新兵いじめの訓練が早速効果し始めたみたいだった。




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