第76話 地下現場だお
拝啓姉さん、妹のアオイがまたやらかしました。
アオイは好奇心が昔から強く、五歳の頃には僕の股間についているチンチンを玩具にして遊ぶほどの問題児だったかと記憶しております。僕のチンチンは妹の手によって様々な目に遭いました。
そんなアオイですが、今回は戦争の道具に転用できそうな魔導エンジンを勇者スキルで作ってしまい、今はダークエルフの首長達から我よ我よと求められています。
「お兄ちゃん、逃げるよ!」
「逃げるな、お前が考えもなしに魔導エンジン出したのが悪いんだろ?」
「うわーん」
アオイの首根っこをつかまえて、首長達の交渉役を兄である僕が引き受ける。
王都でステータスウィンドウの店をやっていたから、対客は慣れたものだった。
「とりあえず、首長様お一人につき魔導エンジン自動車を一台差し上げますので、この場は収めください。それ以上の交渉があるようでした後日おうかがいしますので、今は軍部の教練を素直に見学させてくれませんか?」
首長の中でも今回のまとめ役のゼクスが一歩前に出て、何かを言いたげにしていた。
「君たちは凄い兄妹だね、僕らはぜひとも君たちの協力を仰ぎたい」
「……ゼクス、残念ですが、僕たちはこことはまた違った戦争の被害者だ」
だから、僕たちが戦争に加担することはない。
そう断じると、ゼクスは口元をゆるませて、微笑んでいた。
首長達に魔導エンジン自動車を献上し、その場を収めてもらい。
ザハドが運転するものを先頭に、後続として僕も自動車を運転してみた。
MPを媒介にしているからか、エンジンの駆動音がまるでしない。
助手席に乗っていたライザは自動車みたいな乗り物に初めて乗るようで。
「あとで私にも運転させてくれないか?」
首長達と同じく好奇心からこう言っていた。
「いいよ、僕より君の方が上手く扱えると思う」
「やはり、タケルやアオイのようなスキルこそが、世界から求められるのだな」
「確かに君のスキルは戦闘に特化してるみたいだけど、ライザは出来る男だから」
今にきっと、僕やアオイよりも凄い存在になる。
普通にそう思えた。
暗黒街の一角から地下通路に入り、自動車で進むこと二十分。
お目当ての軍部の教練所が見えてきたんだけど、この地下空間、かなり広大だな。
空島に住む敵と戦うために作られた施設だろうけど、ここは要所なんだろうなぁ。
目的地にたどり着くと、先頭車のザハドが降りたので、僕たちも車から降りる。車は邪魔なのでステータスウィンドウのアイテム欄にしまう。ゼクスは近場にいた兵士の一人に話を通して、僕たちをさらに地下へと続く階段に案内した。
「足元滑るから気をつけてくれ」
「ゼクス、心を鍛えるための軍部の教練はこの先で行われているんですか?」
「そうだよ、軍隊に入った新兵の通過点さ」
嫌な予感がする。
胸に凶兆を抱いていると、アオイがざわざわしていた。
「ざわ……ひょっとしなくても、その教練って地下施設の工事だったりしない?」
「ああ、その通り。敵に侵攻されても簡単に落とされないよう、ここは日々拡充されてる」
って、ゼクスはへらへらとした顔で答えるけどさ。
こんなのノーカンだよ、ノーカン! ノーカン! ノーカン!
「タケルは、軍への入隊希望だったよね?」
「話を捏造しないでくれませんか?」
僕がいつ軍への入隊を希望したし!?
そして地下施設の現場にたどり着くと、現場監督していた軍曹が全員を集めた。
「今回、特別に首長様がご見学にいらっしゃった、無礼のないようにな」
すさまじい光景だったよ。
土汚れが目立つ作業服を着た褐色肌の美男美女が、引き締まった筋肉と鋭い目つきで僕たちの前に整列しているのだから。僕らとは目の色がまるで違う。
ゼクスは現場監督のダークエルフに近づき。
「軍曹、彼らは僕のご友人でね、なんでも心を鍛えたいそうなんだ」
「心をでありますか? なるほど、その一環でここに」
「そうなんだよ、そう。ぜひ軍曹の手で僕のご友人を鍛えてやって欲しい」
ふぁ!?
「それで問題ないかなタケル?」
え……えっと、怖い。
何が怖いかって、ゼクスからその話が出された時、新兵たちがにやけた光景がだ。
彼らは皆一様に怨嗟をあげているようだ―――自分だけ助かろうと思うなよ、みたいな。
怖いお。
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