第75話 魔導エンジンだお

 白髪の短毛を持つ褐色肌のエルフ、ゼクス。


 彼? だったか、それとも彼女? だったか。

 性別がわからないので、僕は内心でフェイバリットフレンドと呼称している。


 僕たちが今いる暗黒街の一番偉い人がフェイバリットフレンドだったらしい。


「タケル殿、僕の隣に座って欲しい」


 そう言うゼクスはエスパニックな嗜好をした部屋の最奥手にいて。

 僕は言われるがまま、ウルルと一緒にゼクスの隣へと向かった。


「二人はどういう関係なのかな?」


 ゼクスをはじめとした首長達がその光景を不思議がっていた。

 僕と手をつないでいたウルルはゼクスの質問に秒で返す。


「夫婦」


 夫婦!? ふ、夫婦!? FUWAFUWA!


「へぇ、ドラゴンの化身が人間を見初めたのか、それは平和的でいいね」

「この大陸にいるはずの彼女は?」


 ウルルが細い声で聞くと、ゼクスは数秒ほど口を噤んだ。


「ヴィヴィアンなら、この大陸の神を滅ぼし、彼女の配下と一緒に空島で安寧を取っているはずだよ。つまり、今は僕らの宿敵と言ってもいい。彼女と、彼女の軍門に下ったエルフ連中が僕らの標的」


 何やら知らないがスケールがでかい。

 神を滅ぼしただって? 僕みたいな屑にはとうてい無縁の神話だと思えた。


 するとゼクスは他のダークエルフが見せないようなフレンドリーな笑みを取る。


「それは置いといて、タケル殿は絶賛恋人募集中だって聞いてるよ」


 え? そんなこと言った例ないし。

 隣にいるウルルはその台詞に少し苛立ちをあらわにしていた。


「タケルには私がいる」


「まぁ、この話も今は置いておこう。二人が倦怠期に入った時にでも、改めて。タケル以外のご来客も好きな席に座ってもらって、ケイト、彼らにお飲み物を用意してくれないか?」


 ゼクスにお願いされたケイトはかしこまった態度で部屋を出て行った。


 ちゃっかり者の妹のアオイはザハドと一緒に僕から向かって右手側に座り。


 ライザとイヤップの二人は左側の空いている席に座っていた。


 ゼクスの隣に腰を下ろした僕とウルルは、やはりゼクスと親睦を深める。


「君たちは何故ここにやって来たのかな?」

「僕達は皆同じ師匠を持っていて、師の言いつけでやって来ただけです」

「その師匠とやらがグウェン様、という認識でよかったかな?」


 ゼクスの解釈に首肯して返したあと、僕からも質問した。


「ゼクス様は」

「敬称をつける必要はないよ、君たちは僕の配下でもないんだし、呼び捨てでいい」


 じゃあ、改めて。


「ゼクスは僕たちと会って、何をするつもりだったんですか?」


「特に目的もなく会っちゃ駄目なのかな、そもそも僕たちは君たちの情報を満足に得てない。さっきからタケルに積極的なのは、一目見た瞬間、雷に打たれたような心境になったからで……わずかに期待していたのは、君たちが僕らの意志と共感し、一緒に戦う同士になってくれることだ」


 僕らはグウェンとダランの言いつけで、ここには修行にやって来た。なぜ修行しているのかって、未来の僕の力が巻き起こしたちょっとした事案が理由だ。魔王リィダとの戦争によって生まれた悲しみを、僕やアンディは克服できなかったことが起因して例の八年のさかのぼりは起きたんだと思う。


 なら今回の僕らの修行の目的がおのずと見えてきた感じがする。


 僕が鍛えるべきものは、心の強さだ。


「……ゼクス、一つお聞きしますが」

「何だい?」

「貴方達の訓練の一環で、心を強くするものってありますか?」

「あるにはあるけど、軍部の教練のものになるかな」

「それを少し見学させてもらうことは可能ですか?」

「いいとも」


 と言うわけで、僕たちはダークエルフの軍隊の教練を見学することになった。


 首長達と一緒に宮殿を抜け、街の一角にある長い地下通路の入り口に差しかかると、アオイが手でみんなを制止した。


「お兄ちゃん、ここから先は長くなりそうだし、私が作った魔導エンジンに乗っていこう」

「魔導エンジン? 何それ美味しいの?」


 アオイはその場にいたみんなを下がらせると、ステータスウィンドウを開き、黒々とした大きな四駆の自動車らしきものを出して見せた。その場にいたほとんどが驚いた様子だったが、アオイにずっと付き添っていたザハドは慣れた様子で運転席に乗り込む。


「アオイ、これは?」

「MPを動力にしたエンジンを搭載させた自動車だよ」


 自動車だって? マジか。


「例のクラフトスキルで作ったのか、凄いな」

「褒めるな褒めるな、一応お兄ちゃんにも渡しておくね」


 ああ、ありがとう……でもお前、もしかしてやり過ぎたんじゃないか?

 アオイが出した魔導エンジン自動車を、首長達がまじまじと確かめている。


 一部は――ごくっと、固唾を飲み込みながらその自動車を見ていた。


「素晴らしい、魔導エンジンはアーティファクト級の代物だったはず……これを戦場に投入できれば、形勢は逆転するやもしれない」


 ほら見ろ、首長達が恐ろしい内容を口にし始めたぞ。


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