第73話 耳朶に響く声、だお

「というわけで、じゃあねタケル。そっちはそっちで上手くやるのよ」


 というわけで、僕たちはケヘランとお別れすることになった。

 とんとん拍子に話が進んでしまい、何が起きているのかさっぱりだお。


 今僕たちは赤土の肌が目立つ街のはずれにある馬車駅の前に居て、ケヘランとミレーヌを見送っていた。二人はキノコ商の店主と一緒に彼が所有する山へと向かってしまったんだ。


 出来の悪い妹アオイを始めとして、みんな好き勝手やってんねぇ!


 ケヘラン達を乗せた馬車が丘向こうへと消えると、ケイトが踵を返しながら聞いた。


「タケルとライザはこの後どうする?」


 暗黒街の上に浮かんでいた空島は通り過ぎ、街の中にはまた活気が戻っている。


「私はどこかで一息つきたいと思っている、この大陸に来てから話の展開が早くて少々頭が疲れてしまった」


「ライザに同感だお、僕もどこかで涼みたい」


 するとケイトは「なら、このまま街の宮殿に向かおう」と言っていた。


「祭りの最中は宮殿も一般開放され、涼を取るのにはうってつけの場所だし……最初に言ったと思うが、君たちを私の上司や同僚に会わせたいのだ。できればアオイさんもご一緒に」


 ケイトは気品高いダークエルフだと思う。

 しかし彼女の言動は物腰が柔らかく感じる。

 だから僕とライザはケイトの打診を二つ返事で承諾した。


「じゃあ今アオイに連絡取ります、ステータスウィンドウ」


 ステータスウィンドウを開き、アオイにDMを飛ばすと、ケイトが目を丸くさせている。


「それも君の勇者スキルなのか?」

「えぇまぁ、でもこれは余り使えないというか」


 最近になってその真価を発揮し始めたというか。

 まぁそこはあえて内緒で。


 アオイには『街の宮殿前に集合』とだけ伝え。

 ウルルとイヤップにも『街の宮殿前に来て欲しい、道中気を付けてね』とDMして、さりげなく違いをアピールした。


「……」

「……もしかしてケイトさんもステータスウィンドウが欲しかったりしますか?」

「そのようなことが可能なのか?」


「えぇ、僕のこれは付与系のスキルですので、ケイトさんはケヘランの恩人ですし、ステータスウィンドウ付与、これで使えるようになりました。使い方については道中で説明しますよ」


「かたじけないな、タケル殿」


 街のはずれから再び検問をくぐり、僕たちは宮殿へと向かう。

 道中ステータスウィンドウの使い方を説明していると、隣にいるライザが微笑んでいた。


「何?」

「ん? 何とは?」

「口が緩んでるけど、どうしたの?」

「……タケルは凄い、と思っていただけだ」


 え? そ、そんな、照れるな。


「この世界、サタナで出会った私の親友が評価され始めて、まるで自分のことのように嬉しく思う」


 おだておって、そんなライザちゃんにはちゅーしても、いいんだお。

 いかんいかん、僕も少し酒が回っているな。


 キノコ商の店主のような失態を見せないよう気を付けよう。


 暗黒街の宮殿は地球で言うところのベルサイユ宮殿と似ていた。

 嗜好が施された巨大な庭の隣には、天井の高い立派な宮殿だ。


 その宮殿を一目見て僕は儲かってんねぇ~! と感嘆している。

 宮殿前で待っていると、道中でアオイ達と合流したウルル達がやって来た。


「へい、そこのお兄ちゃん、私をこんな場所に呼んで、どう役に立とうって言うんだい?」

「アオイは出世欲ばりばりだな、ケイトさんが僕たちに会わせたい人がいるらしい」


 だから今ぐらいはザハドの背中から降りろ、降りるんだおら。


「助かりますタケル殿」

「家の妹が迷惑かけてごめんザハド」

「これも自分の修行の一環ではありますから」


 ザハドって、MかSで言ったらMなのは間違いないよな。


「全員そろったようだな、ではこれより首長達に会って頂くとしよう」


 といい、僕らを先導しているケイトもMであって欲しい邪念が思い浮かぶ。


 宮殿内部に入ると、ほのかな光源が贅沢な造りをした壁や天井に点在して。

 宮殿の構造を僕はまじまじと観察し、網膜に焼き付かせる。


 その時、誰かが僕の手を握った、ひんやりとしてすべすべの肌だ。


「将来はこんなお家に住みたいと思ってる?」


 ウルルだった。

 その確認を取ってから僕は彼女の手を握り返す。


「こんな豪華な家は、手に余るよ。逆にウルルは将来どんな家に住みたいの?」

「タケルの隣なら、どこだっていい」


 く……! 思いがけぬ愛の告白に、人生頑張ろうと思った。


 僕たちはケイトの案内で宮殿の奥へと向かう。彼女の言う首長達とやらは、祭りのさなかでも一般公開されてないエリアにいるようで、ケイトの部下らしき精悍なダークエルフの警備兵が敬礼している脇を通る。


「ご苦労」

「ご苦労様であります(`・ω・´)ゞ」


 彼らに向かって敬礼し返すと、厳しい目つきで見られた、サーセン。


「すまないタケル殿、あいつらの仕事は首長達の護衛がその役目なのでな。怪しい奴には炯眼を光らせるよう訓練されているんだ」


 なちゅらるに不審者あつかい受けた気がするけど、気のせいか?


 そういえば日本に居た頃、深夜コンビニに向かうと決まって警察に職務質問されてたな。


 あの時毎回のように、無職ですって答えるのが辛かったお。


 どうでもいいことを思い出していると、僕たちは深い藍色の観音開きの扉にやって来た。


「さぁ、ここに君たちに会わせたい連中がいる。君たち勇者一行に会わせるために今回ご足労頂いた各街の首長達だ。できれば彼らの話を親身になって耳を貸してやって欲しい。では入るぞ」


 ケイトはそう言うとノックをして、室内にいるお偉いさん達に確認を取り。


「どうぞ」


 室内からは不思議な威厳を持った中性的な声が、僕たちの耳朶に触れるのだった。

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