第71話 暗黒街の真の姿だお
僕はアオイの嘘泣きに騙されて、ライザと一緒に大迷路に巻き込まれる。ライザは勇ましいことに僕の前に出て、獣人としての五感をいかんなく発揮し――僕たちはものの七分で迷路のゴールにたどり着いた。
「素晴らしい、二人とも、これまでの最高記録だよ」
「おめでとうございますライザ殿、タケル殿、これは報酬になります」
ゴールにたどり着くと迷路から解放されるよう、暗黒街の路上にいた。どうやら僕たちは最速記録を叩き出したらしく、アオイは褒め、ザハドから報酬のメツバキノコを頂戴する。
「アリガトウゴザイマス、オオ、コレハメツバキノコジャナイデスカ」
棒読みながらも二人の店に幸あれと言いたげに賞賛を贈り。
そそくさとその場を立ち去る。
「アオイ殿も中々に珍奇なことをするなタケル」
「珍奇と言うか、なんというか」
僕の反応にライザは苦笑を浮かべて、自分の一家とは違った兄妹の様子を楽しんでいるみたいだ。
「でも、スキルによるものだからと言って、アオイの開発力には舌を巻くよ」
「生まれ持った好奇心が強いのだろうな」
「そうだと思う、たぶんね」
その点で言えばアオイはグウェンの弟子をやっていて。
グウェンはアオイを弟子に取って、良かったんだと思う。
「時間取らせてしまってすみませんケイトさん、これお詫びの印にどうぞ」
今貰ったメツバキノコを差し出すと、彼女は手に取って匂いを確かめる。
「いいのか? このキノコは珍しく、中々市場に出回らないのに」
「大丈夫です」
「ありがとうタケル、君の厚意に感謝する」
そう言い、彼女は腰元に携えていたポーチにキノコをしまう。
ふと、空に影が差した。
先ほどまで晴れ晴れとした快晴を誇っていた空が、巨大な雲に……違う。
「ケイトさん、あれは?」
僕たちに影を差したのは巨大な雲などではなく、密度の高い何かだった。
「ん? ああ、タケル殿は知らないのだな……あれは私たちの祖の楽園にして、今は敵である神たちが住まう国。私たち、暗黒街の騎士はあそこに住むエルフと日夜戦っているのだ」
それは、空に浮かぶ大地だ。
巨大な大地が、天空を悠々と移動している。
「……何故、この街や、私たちの領地が暗黒街と呼ばれているか、ご存知か?」
「何故だ?」
ケイトの質問に、ライザは素直に聞き返す。
「アレが、私たちの街から光を奪っていくからだ。その様相は一切の光を持たない闇の中に孤立した街、故に暗黒街。我々は古くから光を奪い合い、結果的にアレの前になす術もなく、こうして地上から見上げるにとどまっている」
すると天空に浮かんでいる大地は、ゆっくりと街の上を通過しようとし、街に降り注いでいた陽光はあの大地に浸食されるように消えていく。ケイトさんを始めとし、祭りに興じていた民衆は恨めしそうに、だけど、どこか憧憬するかのように、その大地を見上げている。
ひょっとすると、あれもこの世界に存在するアーティファクトの一種なのかな?
なんて考えている内に、僕自身もまた光を奪われる。
これこそが、暗黒街の真の姿だった。
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