第69話 キノコ大臣その二、だお

 メツバキノコを始めとし、露天商からずいぶんとキノコを譲って貰った。

 キノコ料理の相棒として、お酒も薦められたので一応試飲する。


「旦那、そのお酒は世にも珍しい、キノコから作られた酒なんだぜ?」

「ちょっと辛口なんですね」

「おお! そうよ、ひょっとしなくても旦那けっこう行ける口だな」


 まあ、こちとら酒場で働いていた経験もあるので。


 よくハリーから強引に飲まされてたしなぁ。


「とりあえずこんな物でいいよ、ありがとう」

「まーたのお越しをー!」

「二度と来るか屑! 次来る時までにその性格直しておくのよ」


 ケヘランはツンデレ志向の強い女性なんだな。


 問題は今日購入した食材を、ライザやイヤップが気に入るかどうか。

 二人は狐を前身とした獣人だし……一応肉も買っておくか。


 ◇ ◇ ◇


 食材を購入した後は、即座にライザが見つけた宿に向かった。


「いい宿見つけたね二人とも」

「運が良かった、この街では近々祭りが行われるらしいから」


 広々とした部屋に、畳が敷かれている、和式の部屋。

 窓からは軒先の街道が覗け、情緒ある風景が一望出来ていた。


「ライザ、イヤップ、君たちってキノコ食べられる?」

「むしろ大好物ですよタケル」


 イヤップはキノコ料理が得意なようだ、なら彼女に調理してもらおうかな。


「じゃあ食材は置いておくから、イヤップの方で調理してくれないかな?」

「私一人でみんなの分を賄うのは難しい、出来ればタケルに手伝って欲しい」

「お安い御用だよ、雑務ぐらいならこなすよ」


 では、そういうことで、僕とイヤップは宿のキッチンを借りて、イヤップの調理アシスタントとして揃えたキノコを楽しみつつ味付けしていった。イヤップは中でもひときわ高級な品であるメツバキノコをまじまじと観察すると。


「いい匂いね、甘くて、肉厚で、これなら酒蒸しにしてみるか」


 イヤップはよどみない感じでメツバキノコをスライスし、酒蒸しにしていた。


 メツバキノコが酒蒸しにされている様子に、僕はステーキ肉を焼き始めた。


 二つの料理は合わせ食いにベストマッチすると思うし、合わせ酒も旨くなる。


 ◇ ◇ ◇


 そして僕らのご飯の用意が出来た頃、アオイに早く帰って来いとメールした。


「ただいまよー、ご飯だよザハド、よかったね」

「たしかに普段の二倍は疲れました、貴方のせいでねアオイ」

「く、殺せ! って、おお! キノコグルメが満載だぁああああ!!」


 アオイやザハドも揃ったことだし、みんな食卓に集めて頂くとしよう。


「うんうん、メツバキノコの酒蒸しは何個食っても最高よ」


 ケヘランは人間の姿でキノコ料理をよく味わっていた。

 ライザも負けじとメツバキノコの酒蒸しに箸を伸ばす。


「……甘くて、口の中でキノコの繊維が蕩けていく、これは凄いなタケル」

「調理したのはイヤップだよライザ、褒めるのならイヤップだ」


 イヤップは自然体で料理を吟味していた。


「どうやら好評のようで、次の機会があればまた作るよ兄さん」

「ありがとうイヤップ、お前もお前で大きくなったな」

「先を行く兄さんの後を追うのに必死なだけだよ」


 とすると、元々欲しがりな体質のアオイにとって、メツバキノコは垂涎の的で。


「どれどれ、私にもそのキノコ頂戴な、はむ……これはッ、お兄ちゃんどこで入手したの?」


「ケヘランに薦められて露天商で購入したんだ、店主曰く、地元の山に自生する天然物のメツバキノコの中でも、このくらい立派なのは数年に一個取れるかどうかってぐらいらしい」


「もちろん、ストックしてあるんだよね?」


「当然だな、もしかしたら何か遭った時に換金出来そうだし」


 僕はアオイの手によって魔改造されたステータスウィンドウのチート機能を使い、件のメツバキノコの所持数を500個ほど増やしていた。それを知るとアオイはおねだりするようにメツバキノコを要求するんだ。


 アオイの要求に従い、メツバキノコを一個、手渡す。


「ありがとう……ふむふむ、これも私のコレクション入り確定っと」

「アオイは今日は何をして来たんだ?」

「新スキルの導きに従うまま、色々なパーツを集めてただけだよ?」

「クラフトだっけ? 何か作れそうなのか?」

「ちょっと何言ってるかわかりませんね」


 なぜ急にはぐらかし始めたし。


 その日はこんな感じで、僕たちは新大陸のキノコ料理に舌鼓した。

 和気あいあいとした団らんの中で、一時の幸福に授かった気分で。

 畳に敷かれた布団の上でキノコ大臣になってみるのもいいかもなって夢を見た。

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