第66話 天然温泉の城が建ったお

 ケヘランは僕とウルルの兄弟子であることは間違いない。

 しかし、彼女がエルフの麗人にした夫、との説明は虚偽なので訂正を求むお!


「私はケイト、まさかその昔助け、よくしていたケヘランが夫を連れ帰って来るとは想像もしてなかったよ。見た所、ケヘランも君たちも、腕が立ちそうだな」


「あ、よろしくお願いします。僕の名はタケルで、彼女はウルルと申します」


 握手を求めるとエルフのケイトは手で視界を隠した。


「タケル、服を着ないと」


 ウルルの指摘で僕は逸物をさらしていることに気づいた、サーセン。

 それから僕たちが着衣を済ませた数分後。


「タケル、ここに居たのか」


 後方で迷子になっていたライザたちも合流する。


「疲れたぁー、さっさと温泉に入ろう」

「アオイ殿は終始私におぶさっていただけではないですか」

「く、殺せ!」


 アオイをここまで背負って来たザハドの忍耐力に感心してしまう。


「それでタケル、そちらの方は?」


「君が狐面のライザか。タケルから説明は受けてるよ。私の名はケイト、この大陸に古くから住んでいて、今は暗黒街の騎士をやっている。ケヘランともども歓迎する」


 暗黒街、いかにも魔って感じの響きだ。


 ケイトは僕やアオイで言う所のダークエルフだと思っていたが、その呼び方は通用しないみたいだ。アオイがすぐそばで「ダークエルフだー」と言った声に彼女は反応しなかった。


「婦女子の湯あみが済み次第、君たちを暗黒街へ連れて行ってあげるよ」

「ケイト、こうして貴方の御傍に仕えるのは何よりの夢でした」

「君は忠義深いね……ありがとう」


 ということで、男性陣である僕とライザ、ザハドの三人は渓谷の影に隠れて。

 女性陣の温泉タイムを待つことになった。


「タケル、例の新しいスキルだが、使い方は解かったか?」

「いいや、ライザはどんなスキル名だったの?」

「私のスキルはまた攻撃に特化した代物だったようだ、スキル名は『嵐遁』」

「ふーん、僕のスキル名は『変幻自在城』だったよ」


 オーク種であるザハドは僕たちが新たに覚えたスキルを聞き、ケヘラン同様羨んでいるようだった。


「羨ましい話ですな、この世界ではスキルの有り無しは大きなハンデですから」

「多少、使い勝手が悪いがな。ザハド殿は、他とは違った得能か何かないのか?」


 ライザの問い掛けに、ザハドは瞑想しながら答えた。


「私はこれでも魔法に長けていまして、属性値の四大元素全てに適正があるみたいです」

「私はザハドの持つ魔法の才の方が羨ましい」


 ライザは気の優しいザハドと会話を弾ませていた。

 僕は二人からちょっと距離を取って、新しいスキルを確かめようとした。


 先ず、大事なのは発動の仕方だよな……ここは直感で。


「――建城」


 と言うと、目の前の渓谷が盛り上がり、見る見るうちに城の形を取り始めた。


「タケル、やはりお前は非凡な才能の持ち主だな、もう新しいスキルの使い方を体得してしまったのか」


 ライザは出現した城を見て立ち上がり、僕を褒めてくれた。


「二人とも、城の中に入ってみようか。どんな構造になってるのか確かめたい」


 して、二人を連れて恐る恐る城の内部へと続く階段を昇る。浅い入り口を右に向かうと、そこには渓谷の上を走るような吹き抜けの廊下があった。廊下はオレンジ色の淡い照明が付いていて、部屋も三つ四つあるみたいだ。


「タケル、部屋自体は王都の寝室みたいな内装だった」

「こっちもそうだよライザ、今日はここに泊まろうか?」

「タケル殿の今度のスキルは衣食住を満たす力ですか、便利でいいですね」


 して、肝心の城の玉座だけど、渡り廊下から渓谷の向こう側にあった。

 天井こそ備えられているもの、南国風味な感じで風通しが良さそうだ。


 赤いビロードで仕立てられた玉座に腰掛けると、妙な高揚感がみぞおちをかける。


「お兄ちゃん……一応温泉空いたけど、何これー?」

「アオイ、これが僕の新しいスキルみたいだ」

「どうしてお兄ちゃんに優秀なスキルが!?」

「まるで僕は屑スキルしか引かないみたいに言うなよ、アオイの新スキルはなんだよ?」


 問うと、アオイは意味深な笑みを浮かべ、僕の玉座を奪う。


「私の新スキル、万能クラフトは一味違うよー、試しにこの石を手に持つと、私だけに見えるクラフトメニューが表示される。そこには石器道具から、半導体やらなんかよく分からないオーパーツの名前まで載っててね? 不足している材料をそろえれば、項目通りのアイテムが作れるのだよ」


 素直に感嘆した。


 僕とアオイの今回のスキルは、当たりじゃないか。


「……タケル、私の新しいスキルも知りたい?」

「もちろんだよウルル」

「私の新しいスキル名は『退化の唄』、恐らくスキルを発動させると相手の能力値が退化するんだと思う」


 僕らはそれぞれのスキルを大雑把に理解し、関心を持つよう、おおーと感嘆し、夜の澄んだ渓谷にちょっとした賑わいを見せるのだった。

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