第65話 新スキルと褐色のエルフだお

「ファンタジーの代名詞、エルフ!! だってお兄ちゃん」


 アオイの言う通り、エルフはもはや日本人にとってのファンタジーそのものだ。ダランの言葉を借りるのなら、僕たちはこれからエルフが存在する大陸に向かい、魔の本質を見極めに行く。


「なんだったら、四百年余り続く連中の大戦に終止符を打ってやってもいいんだぞ?」


 グウェンは声高らかに言うと、アオイはその場にへたり込んだ。


「はぁ、早くお家に帰りたい」

「気持ちはわかるけど、立てよアオイ。ダラン、いつからその試練は始めるつもりですか?」


 問うと、ダランは静寂な眼差しで僕を見詰め返した。


「いつがよろしい?」

「いつでもいいよ、もぉー!」


 ダランになかばヤケになったアオイが返事すると、僕らは見知らぬ街道に居て。


「……え? もしかして、私のせい?」


 その場に居た誰しもがアオイに視線を集中させるのだった。


「タケル、ここは一体どこだ?」

「ライザ、君たちも飛ばされたのか」


 気付けばライザもエルフの大陸に同行している。オーク種のザハドがアオイをいさめると、く、殺せ! と言い、たわむれている。あの二人は放っておくと永遠にあのやり取りを繰り返す。ちょっとした嫉妬心を覚えていると、――耳にステータスウィンドウによる通知音が鳴った。


「ステータスウィンドウ」


 僕はその通知が何なのか知るべく、流れるようにステータスを表示すると。


『・スキル【変幻自在城】を獲得しました』


 と、表示されている。


「ライザ、アオイ、イヤップ、ウルルも、ステータスウィンドウ開いてみてくれないか?」

「ステータスウィンドウ? お、新しいスキルゲットー」


 アオイの反応から察するに、新しいスキルを獲得したのは僕だけじゃないようだ。


 しかし何故このタイミングで新スキルが?


 もしかしたらダランやグウェンがせん別のつもりでくれたのかな。


「いいわよね勇者は、先天的にスキルの恩恵に授かってるんだから」


 アント種のケヘランはすねた感じで言うと、蟻の姿に戻る。


「タケル、こっちよ」

「そっちに行くと何が? ちょっと待ってくれケヘラン、今道を調べる」

「その必要はない、この大陸は私の故郷だから」


 ケヘランの故郷? エルフの大陸が?


「にしてもケヘラン、僕らをどこに案内するつもりだ」

「早くしなさいよ、私も数十年振りに故郷に帰って来れて、気が気がじゃない」


 前を行くケヘランは浮足立つかのように、足を速めた。


「お兄ちゃん、私疲れたからザハドにおぶってもらうね」

「僕はケヘランの後を追うけど、余りザハドに迷惑掛けるなよアオイ」


 急ぎ足でケヘランを追おうとすると。


「待ってタケル、私も行く」


 ウルルも僕の後を追い始めた。


 新大陸に着いて間もなく、僕たちはメンツを分散させる結果となってしまうのだった。


 ◇ ◇ ◇


『お兄ちゃん、道に迷った。迎えに来て』


 日が暮れ、ケヘランの後を追っていた僕にアオイからメールが届く。

 向こうはアオイを中心とし、すっかり迷子になっちゃったみたいだ。


『ステータスウィンドウで位置ぐらい確認出来るだろ?』


 と返信し、とりあえず今の所問題はないと判断する。


 して、ケヘランの後を追って来た僕とウルルは現在、ある天然温泉に浸かっていた。ケヘランは街道からおもいっくそ外れ、私の故郷だから、という理由でずかずかと道なき道を進んでいたのだ。


 彼女は森林に連なる渓谷へと進み、この天然温泉でようやく止まってくれた。


「タケル、背中流して」


 今は恋人のウルルと混浴しています、サーセン。


「ところでケヘランは何を焚いてるんだ?」


 見ると、彼女は天然温泉の脇で焚いた火に、特殊な草花をくべていた。

 赤く染まった煙が渓谷の下流へと流れていく。


「これで気付いてくれればいいんだけどね、あれは私と彼女しか知らない特殊な煙よ。彼女は薬師でもあって、気の優しい人で、瀕死の状態だった私を看病してくれたの」


 一見はアント型のモンスターにしか見えないケヘランを、治療したのか。とすると、ケヘランの言う彼女とやらは人間じゃないだろうな。人間はモンスターに嫌われるのが当たり前だし、逆もそうだ。


「……月が綺麗だね」


 ウルルは空に向かって視線を泳がすと、上空にそびえる雄大な月をたたえていた。


「死んでもいいわ」

「死ぬの?」


 僕の雑学から来る返事は、十全とウルルに伝わってはくれないみたいだった。


「そこの三人……まさかケヘランなのか?」


 と、天然温泉の先にある渓谷の影から声がした。


「この声は、ケイト様なのでしょうか? 私が、かつて貴方に命を救って頂いたケヘランになります」


 ケヘランはそう言うと、褐色美人の姿から蟻の姿に転じると。


「やはり君だったか、まさか恩返しに来てくれたのか、嬉しいよ……」


 そう言うと、声の主は姿を現した。外耳は尖っていて、肌は美人姿のケヘラン同様に褐色で、瞳はライザと同じ感じで紺碧色だった。短く整えられた黒髪はオリーブのように光沢があって、体躯は細身だ。


「ケヘラン、そこの二人は?」

「私の夫と、私の妹弟子になります」


 ケヘランが僕を夫として紹介すると、エルフの姿をした彼女は柔らかい微笑みを浮かべるのだった。

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