第63話 モンスターハウスだお

「うわーん、離してよ離してぇー」


 神、グウェンによる修行を前にして、アオイは逃走を図った。

 アオイを心配したイヤップは後を追い、結果的に二人は易々とグウェンに捕まる。


「アオイ、逃げるにしたって、せめて地元圏内でやれよ」


 アオイとイヤップの二人が捕まったのは隣国ヴァルハラの都だった。


 ヴァルハラの王家血筋のスキルは、他者を隷属化するスキルだと記憶している。


 万が一の事態にならなくて良かった。


「お前のせいでヒュウエルにまともな挨拶も出来なかったぞ、猛省しろ」


 このことで、グウェンも多少は理解してくれただろう。

 アオイはこれでいて結構な困った妹であることを。


「うわーん、好き好んで修行するのなら別だけど、私のはパワハラだよ」


 しかし、隣国にまで逃げ込んだ妹を、何の手掛かりもなしに容易く捕まえるとはさすがは神の一柱だと思えた。聞く所によるとグウェンは一度目にしたスキルを自由に扱えるらしく、彼はこんかい転移を使ってアオイを捉えた。


「では行くぞ」


 して、僕たちは修行場所である神域へと向かう。


「ここが、修行場所?」


 そこは、雲に手が届きそうなほど高い場所にあるみたいだ。

 僕たちは無作為に生えている円柱状の土壌の上にいる。


「秘境・神々の楽園と呼ばれる場所だ。私がお前たち全員に修行をつける訳じゃないから注意しておけよ。ここでは先ず、お前たちの属性を判断する。もしもこの中に神の属性に適した奴がいれば、私と一緒に過ごしてもらう」


 属性を判断する? その言葉を聞いた僕はステータスウィンドウを開いた。


 ステータスウィンドウには妙なポップアップメッセージが出現していた。


『・隠しステータスが解放されました』


 なるほど、隠しステータスね。

 あっても不思議じゃないけど、実際目にするまでその可能性を失念していた。


「みんな、ステータスウィンドウを開いてみて、隠しステータスだってさ」

「隠しステータスぅ? ステータスウィンドウ、マジかー」


 アオイに続き、ライザやイヤップ、ウルルもステータスウィンドウを開く。

 すると今までなかった属性値という項目が増えている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 プレイヤー名:竹葉タケル

 スキル:ステータスウィンドウ付与

 レベル:28

 属性値

 光属性:0

 闇属性:100

 火属性:100

 水属性:0

 風属性:100

 土属性:0

 神属性:0

 魔属性:100

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕の場合で言えばこんな感じ。

 0か100といった偉い極端な数字だけど、何か理由があるのだろうか。


「おお、そうか、タケルのスキルは属性値も教えてくれるのだな、褒めてやろう」

「グウェン、僕の神の属性値は0でした」

「とすると、タケルの修行をつける相手は私じゃない方がいいという事だ」


 そうなのか。

 グウェンの無駄のない体格に一目おいていただけに、ちょっと残念だ。


「じゃあ誰が僕に修行をつけてくださるんですか?」

「その前に、お前らの属性傾向を確かめさせて貰うぞ」


 グウェンはそう言い、一人一人の横に並び、一喜一憂していた。

 先ほど迷惑掛けたアオイの横に立ち。


「……ふむ」


 アオイを僕の横につけ、次にライザのステータスウィンドウを見て。


「お前と、イヤップはこっちだろうと思っていた。そこに並べ」


 ライザとイヤップを、僕ら二人とは違った区分に分別している。


「残ったのはウルル、ドラゴン種のお前だが……ほほう、お前もこっちだな」


 ウルルは僕の隣に並ばされる。


「以上だ、タケルとアオイ、ウルルの三名は魔の者だった。魔の者、などとの呼び方をしているが、魔属性の連中は世界の探求を宿命として背負った者という意味であるから、そう卑下することはない。一方のライザとイヤップは神の使徒、これはより神の恩恵に預かり、総じて戦闘力が高めの傾向にあるものを指す」


 と一口で言われても……世界の探求を宿命とした、ねぇ?


「それでグウェン、僕らの修行は何をどうすれば」

「ライザとイヤップの二名は私の方で面倒見るが、他の三人はまた別の者に預かってもらう。今から紹介してやる、ついて来い」


 グウェンは土壌の中に埋まるように存在していた下り階段へと向かう。

 僕らは彼の神の後ろについて行き、円柱状の建物の中に降りるよう入って行った。


「お兄ちゃん、なんかかび臭いねここ」

「アオイ、ここは神の寝床、我々の楽園なのだ、鼻を摘まむのはやめろ」


 アオイの失礼な発言をすぐさまグウェンは訂正させようとするが、アオイの言う通り、グウェンに先導された建物の内部はかび臭かった。ここは、僕たちが異世界サタナに召喚された場所に酷似している。


 内部は白塗りの壁面を基調としているが、カビによって所々腐蝕している。表面の白い塗装も長久の歳月により経年劣化し、ずいしょにわたって剥げていた。


「ダランはいるか」

 と、グウェンが呼んだ時、謎の影がうごめいた。


「私ならここに、お帰りなさいませグウェン」


 ダラン――銀色した長髪を後ろで三つ編みに結っている長身痩躯の美女がグウェンを出迎える。彼女の相貌はグウェンとよく似ているよう思えるが、彼との関係性は何なのだろうか?


「紹介しようダラン、今回の違和感の元凶だった兄妹、タケルとアオイだ」

「初めまして、アオイって言います、犯人は兄のタケルでしたー」


 そゆことでしゃしゃす。と、アオイが露骨に責任をなすりつけてくると。


「面白い言葉を使うのですね、アオイ」

「ダランお姉さまにそう言ってもらってうれしゃしゃす」


 アオイは、ひょっとしなくても緊張しているのではないだろうか?

 兄である僕だからこそ、アオイの違いを見抜ける、僕はアオイマイスターだお。


「こやつらは今日から私の弟子となった、ダランにはこの三人を任せたい」

「仰せのままにグウェン」


 そう言うと、グウェンとダランは二手に別れた。


 呑み込みの早い僕はダランの後をついて行くなか、ライザに手を振った。


「ライザ、また後で」

「タケル、辛くなったらメールしてくれ」


 了解だお。


「ダランお姉さま、そのー、修行? って何をするんでしょうか」


 アオイが先行くダランに尋ねると、彼女は振り向きもせず言う。


「貴方達は私と同じで、魂の源流が魔です、魔の魂が決して悪しきものだとはグウェンも仰っていなかったと思いますが……ですが、俗世では魔の魂を持つものをこう言い表します――モンスターと」


 誰がモンスター兄妹じゃ。


 冷静を保つため、心の中でツッコミを入れて、そのまま彼女について行くと開けた場所に出た。その広い部屋の光景に、アオイと僕は一瞬身構える。何せ、ダランは僕たちを。


「ここが当面の修行場所になります。ここは魔の魂を持つ、モンスターの住処です」


 ダランは僕たちを、モンスターハウスに案内したのだから。


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