第61話 神に弟子入りだお
「あれ、このおっさんは?」
「アンディの知り合いじゃないの、知らんけど」
「屑様、あんたどうしてそう無責任なんだよ」
やはりと言うか、アンディには以前のような無邪気さが足りない気がする。言うなれば、今のアンディは社会を知り始め、世間に対し斜に構えて辛辣なことをよく口にするような、腐ったみかんだ、あいや、中高生みたいな?
「この子がそのアンディか? なるほどな」
「……俺、なんか嫌な予感がするぞ」
アンディがそんなことを口にしたので、僕はかまをかけてみることにした。
「――だからと言ってアンディは、悪戯に時間を戻すのか?」
僕の指摘にアンディは目を逸らした、そこで僕はいつものようにアンディの両脇に手をやり。
「ビィイイイイインゴ、prpr、この味は、嘘を吐いてない味だ」
「気持ちわり……そうだよ、今回の件は、俺の一存でやったことだ」
「アンディが俺の一存で、とかって言うと気色悪いな」
「いいから離せよ屑!」
「今まで誰に面倒見てもらったと思ってるんだ!? おおん!?」
とは言ったが、僕はアンディの面倒見てたんだっけ?
「冷静になれ二人とも――アンディ、俺は貴様がどうやってそんな禁忌に迫ったのか知りたいが、素直に教えてくれるな?」
背後でグウェンが静かに怒ると、隣に居たライザが毛を逆立てていた。
ライザをビビらすほどの迫力なのか。
「……屑様のスキルだ」
「あ、じゃあ僕はこの辺でお暇します、さよならー」
君子危うきには近寄らず! グウェンに何かされる前に逃げ!
「痛っ!」
ようとしても、僕の目の前に透明の壁が現れ、行く手を遮られる。
「逃げるな。アンディ、この炭酸メロンジュースフロートマシマシでも飲んで、詳しく話してくれるな」
「それはいいけど、結局あんた誰だよ」
「私の名はグウェン、六つの大陸を司る神々の一柱だ」
その後、アンディは大人しく店の長椅子に座り、全てを話し始めた。
「俺は、屑様のスキルを使って、時間を遡った。これは八年後の屑様と蒼天様が考案した機能の一つで、ステータスウィンドウに時計をつけて、さらに時間設定の機能をオプションとしてつけてみたのが発端で、実際に時間を移動出来たのは偶然の産物だったと、本人たちも驚いてた」
アオイの顔をみやっても、顔の前で手を横に振り、知らないとアピールしている。
「アンディ、その機能って、記憶もなくなるんじゃないのか?」
「使用者本人には適用されないみたいだけど、他は忘れるみたいだ」
ならグウェンは? 彼は神の一人だったから、例外的だったのかな。
「何故、お前は八年も遡った?」
グウェンが慧眼を向けて問うと、アンディは唇を震わせる。
「祖母ちゃんや、母さんを守るためだった、他にも、戦争によって悲しんでる人たちがいたんだ、俺はその人たちのためにも、時間を遡って、世界に平和を取り戻したんだ」
アンディの志は、尊いものだと僕は考える。
実際、アンディのおかげで王都はほぼ被害を受けていない。
心の底に沈殿していた、豊かさを失った王都の光景が泡沫と化して消えていく。
「確かに、お前たちは王都の平和を守ったようだ。しかし、アンディが時間を遡ったせいで、失われたものがあるのもまた事実。気づけなかったとは言わせんぞ、八年の間に生まれた新たな命の芽吹きに」
アンディが守った『世界平和』は、規模が小さすぎたのも否めない。
アンディは自分の認識する世界のことしか考えず、他の世界のことを犠牲にした。
神であるグウェンは、時間を遡ることによる負の連鎖が起こりかねないと警鐘を鳴らす。
「じゃあどうすればよかったんだ! 祖母ちゃんや、母さんを守るためには!」
「強くなることを怠らなければいい、例え貴様が幼少の小童だったとしても、守れたはずだ」
グウェンは絶対的な力を保持しているから、僕たちのような力なき平民の苦しみを理解出来ないみたいだ……でも、僕は反論する気になれずにいた。グウェンの言っていることは究極的な答えだと思えたからだ。
「アンディは現状、もう時間を遡ることは出来ないのだな?」
「ああ、そうだよ」
「しかしタケルのスキルがあれば、出来る可能性もあると?」
「それとアオイちゃんのスキル魔改造な」
アオイも戦犯のやり玉にあがり、コークフロートをストローで逆噴射していた。
「お兄ちゃん、私、悪くないのに悪者扱いされて腹立つんだけど」
「よろしい、ならば今ここに集いし者よ、私の弟子になってみる気はないか?」
グウェンはスキルも才能も見掛けもバラバラな僕らに打診した。
神の一柱である――グウェンの弟子になってみないかと。
「ちなみに私の提案を断った者、そいつには疫病神を憑りつかせてやると知れ」
こうして僕たちは半ば強制的に、神に弟子入りすることになったんだ。
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