神の弟子入り 編

第59話 八年の時遡り、だお

 ふぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!


 僕の嬌声が街中に響くと、路上で餌をつついていた雌鶏が鳴く。


「……もう一回する?」

「いや、もういいっす……」


 これが、異世界サタナか、これが、世界の真実か……ふつくしい。


 ウルルに自慰を目撃されたあと、何があったかは割愛させてもらい、僕は彼女を連れて酒場に向かった。


「ヒュウエルはいます?」

「俺ならここだよ――いらっしゃいタケル」


 店内を見ると、いつもと変わらない光景が広がっていた。

 オールバックの髪と、立派な口髭姿のヒュウエルが普段通りカウンターに居る。


「お邪魔しますお」


 酒場にある観音開きの扉を、力を籠めて開ける――ズバーン!


「やっと来たのね、お見舞いの品はどんなものよ?」

「……失礼しましたお」


 エレンに件の嘘に使ったお見舞いの品を聞かれ、踵を返すと。


「待ちなさい、なんで逃げ足なの?」


 エレンに首根っこ掴まれ、無理やりヒュウエルの前に連れて行かれた。


「タケル、今回はご苦労さん」

「いや、それはこっちのセリフですよ」

「俺は、何もしちゃいねーよ。魔王を討ち取ったのは総司令のダグラスだしな」


 ヒュウエルは淡々と語ったが、それでいいのか?


「なぁんで! ヒュウエルの手柄があの無能の物になるのよ」

「エレン、お前」


 と、ヒュウエルが抗議姿勢のエレンを見詰める。


「……何、ヒュウエル?」

「夢でも見てたんじゃねぇのか?」


 例え、それがヒュウエルの処世術の一環だったとしても、やるせないっす。


「いいわ、ヒュウエルがそのつもりなら、私にも考えがある」

「何するつもりだ?」

「今から王都を支配下に置いて来る、異存はないわね?」


 ありありだわ。


 もしもこの街がエレンの政権下に治まったとしたら、それはそれで一大事ですお。隣国のヴァルハラと騒動起こすだろうし、その点、王室に在籍するモニカの政治は見事なものだと思います……お?


 なんか喉元に小骨が引っかかる違和感がする。


「タケル、私街の様子を見て来る、お見舞いの品も調達して来る」

「あ、うん、いってらっしゃい」


 ウルルはそう言うと、すたすたと酒場を後にした。

 いまだに得体のしれない彼女ではあるが、後姿もふつくしいな。


「あの娘はどこの誰だ?」


 そう言えばヒュウエルとウルルは初対面に近かったか。


「あの子の名前はウルル、まあ、い、一応? 僕の恋――」


 人ってことに。と言おうとすれば、酒場の観音開きの扉をズバーン! と乱暴に開ける奴がいた。


「失礼するぞ! これは一体どういうことだヒュウエル!」

「……お前は、グウェンか?」


 その人を一言で形容するなら、イケメンだった。長く艶のかかった黒髪は後ろで三つ編みに結われ、短い柳眉は凛々しく、端整な顔つきは活気に満ちている。引き締まった肢体は服の上からでも手に取れるほど見事なものだ。


「ヒュウエル、お知り合い?」


 エレンが尋ねると、ヒュウエルは困った顔をしている。


「んー、こいつは一応、俺の師にあたる人だな」


 ヒュウエルの師匠? 道理で、人間離れしていると思った。


「……この気配、原因はお前か!?」

「え? もしかして僕に言ってます?」


 たしかグウェンさんだっけ? いきなり来て人を元凶呼ばわりしないで頂きたい。


「グウェン、物事に達観しているお前に無理言うが、訳がわからねぇよ」


 ヒュウエルが僕に代わりそう言うと、グウェンは「いいだろう」と言葉を継いだ。


「説明してやる、どうやら何者かの手によって」


 ――この世界の時が、八年ほど戻されたみたいだ。

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