第58話 魔王は去りとて、だお
魔王がこの世を去ると同時刻。
「者ども!! 魔王はここに敗れ、彼の軍勢も敗着した!! 長きにわたる我らの戦争はたった今! 終わりを告げたのだ!!」
総司令は中央広場から勝どきをあげ、戦場ジャーナリストのような出で立ちをした人間が彼の姿を写真に収めていた――翌朝、飼い主をなくし、行き場を失った雌鶏が路上でいなないた頃に配られた新聞にはその写真が一面を飾っていた。
「これは抗議を入れに行かないとね」
一方の僕と言えば、雌鶏のいななきよりも先に我が家の軍鶏ことエレンの絶叫によって起こされ、今は半眼状態でゾンビのように家をさまよっていた、うぼぁー。
「……お早う」
「あ、君か、お早う」
ゾンビ化した僕の下をウルル、ドラゴンの化身だった彼女が訪れる。ウルルは素性を隠し、ヒュウエルと一緒に病院に送っていたのだが、歩いて僕の家まで来た所を見るに問題ないようだ。
「タケル、今朝ごはん作る」
「へ? いや、大丈夫、ですよ? まあ、とりあえず座って、落ち着いて」
なんで、彼女は僕の名前を知っているのだろう?
いや待てよ、なんで僕は彼女の名前を知っていた?
あるぇ?
「……あんた、もう動いて平気なの?」
新聞片手にエレンが問うと、ウルルは素面で頷く。
「ヒュウエルは? といっても、誰のことかわからないか」
「あの人なら、私と同じタイミングで目を覚まして、家に帰っているはず」
「な!? ヒュウエル、なんで貴方ってばそう無茶するのよ」
エレンがヒュウエルのたくましさに頭を抱えている。
何はともあれ、ここ最近、激動気味だった僕たちに平和が訪れたようだ。
……超久々に、自慰、でもしようかな。
異世界サタナに来てからと言うもの、ストレスが溜まりまくってぇ。おまけに、僕をとりまく環境はエレンやリンと言った美人に囲まれて、鼻先にはいつも女性フェロモンが香るようになっていた。
「エレン、ヒュウエルのお見舞いに行きませんか?」
「じゃあお見舞いの品を持って行かないとね」
しめしめ。
「じゃあ僕、お見舞いの品見繕ってから向かうんで、先に行ってて貰えます?」
「了解」
ぬは! これでこの家は一時の間、僕が占有できる。
僕は一階へと向かい、魔王討伐隊に入る前にハリーから貰ったポルノ雑誌を――
「タケル」
「え……」
僕はポルノ雑誌を持ち、三階にあるリンの部屋で逸物を勃〇させ、左手は添えるだけ! の状態だった。そんなみじめで恥ずかしい格好をしていた僕の所に、ウルルが乱入する。
「自慰?」
たまらずズボンを手で引き上げるが、逸物が引っかかって上手く穿きなおせず。
さらに落としたポルノ雑誌に足をすくわれ、僕は盛大に転んでしまった。
どうして君がここに? まさかエレンやリンも一緒?
羞恥心だったり、エレンたちに見つかるんじゃないかという不安だったり。
以前もこんなことあったような、というデジャヴよりも先ず思えたことがある。
「……死にたいお」
僕の人生、オワタ。
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