第53話 八年後、だお

 それからと言うもの、王都の復興は南地区を中心に広がって行った。


「たっだいまー!」

「あ、エレンの姐さんや、おかえりなさーい」

「出て行く前と見違えたわね王都、どういうわけ?」


 ある日のこと、エレンが長いダンジョン攻略の旅から帰還する。


 アオイからそのことをメールで伝えられ、仕事を一段落してから帰ると。


「……お帰りなさいエレン、それからリンも」


 長い間二人に会ってなかった僕は、何となく気恥ずかしかった。

 かれこれ一年間ぐらいは会ってなかった気がする。


「お帰りタケル、あんた凄いじゃない、出逢った頃と比べると見違えるわね」

「本当にそう」


 二人と出逢った頃か……懐かしいよ。


 確か、二人はこの家に帰って来た僕を不法侵入者と誤解して。


 大仰に僕をボッコボコにし、毒蛇を使って脅迫してさ。


「ハハハ、あったあった」


 あったあった、じゃないですお!


「あの時はエレンたちに酷い目に遭わされた記憶しかないですお」

「ごめんね?」


 するとリンが僕の頬に手をやり、少し斜に構えて謝る。

 これは、女子が一番可愛く見えるポージングの一つじゃないか!?


「タケル、そのままリンを連れて抱いて来ていいわよ」


 抱く!?


「エレンさん知らないんですか? お兄ちゃんにはもうお嫁さんいますよ」

「な!?」


 その報告にエレンは見るからに驚き。


「相手はだれ?」

「王家の人ですね、モニカ様です」

「ふぁ――――――――――っ!?」


 ついでに相手の素性を知ると、オタクのような驚嘆をあげていた。


 魔王の襲撃以来、エレンやリンと言った、王都から離れて行った人たちも徐々にだけど戻って来て、王都が以前見せていた賑わいを取り戻すのも、夢じゃないと確証を持てた。


 恐らく、それが僕の生涯にわたる大仕事なんじゃないかと、思えるんだ。


 親友のライザに、ここ一年で起こった出来事をメールにしたためて送り。


「そう言えばエレン、ちょっと僕に付き合ってくれますか」

「唐突ね、こっちは長旅で疲れてるのに、何か用?」


 エレンを、新しく作り直した中央広場に連れて行った。


「……もしかして、これを見せたかったの?」

「ええ、ちなみにここではこうやって――お金を投げて願いを祈ると叶うって言われてます」


 エレンに見せたかったものは、中央広場の中心部にあった。


 ここも魔王の襲撃直後は傷跡を残したまま放置されていたけど、炊き出しの場所でもあったから、すぐに人の手が入って整備された一角だ。広場の中でも中心部にあった噴水は機能しなくなっていた。


 親方は噴水を取り払うかどうか、判断を僕にゆだねたので。


 僕は、ここに――ヒュウエルの銅像を建てようと意見したんだ。


 瓦礫の山に剣を突きたてるヒュウエルの雄姿は、僕らに勇気を与えてくれる。


「ふーん……こんなことしても、ヒュウエルは喜ばないのにね」

「それはわかりませんよ、恐らくヒュウエル本人ですら」


 ある一組の親子がヒュウエルの銅像に献花していた。


 エレンはその光景を見て、口をゆるませる。


「ありがとうタケル、この調子でどんどんここを豊かにしてやってね」


 もちろん。答えると、エレンは涙をにじませた表情で、笑っていた。


 ◇ ◇ ◇


 エレンの笑顔に応えるよう、王都の復興はさらに進んでいった。


 親方は持前の大工の腕と、美貌を買われ、大勢の弟子を取るようになり、今では大親方などの敬称で呼ばれている。モニカを始めとする王室も王都の復興に協力してくれるようになり、次第にモニカは女王としての威厳を持つようになった。


 ウルルは僕との関係を望みながら、真摯になって僕のフォローをしてくれる。言わば美人秘書みたいなポジションに収まった。成長期に入ったアンディがよくウルルにかまけていたけど、二人とも昔と比べると大人になったなって思う。


 ジュードとゲヒムはその後、僕にウザ絡みすることはなくなったけど、二人はエレンと同じ道を歩む感じで冒険者になった。ダンジョンを攻略して帰って来ると、僕に自慢して来るのが癖になったみたいで、やっぱりウザい。


 妹のアオイは数年の歳月をかけ、かねてからの夢だったゲーム開発を実現してみせたのだ。アオイの天晴れな行動力を褒めたものの、すぐ天狗になるし、基本的に生活の面倒は僕に頼りっぱなしだから、どうしたものか困っている。


『あれからもう八年が経つのだな』

『そうだね』


 親友のライザとメールでやり取りし、過去と今の違いを談笑し合った。


『所でタケルはどうなのだ? タケルは今どうしているのだ?』


 僕? 僕の話であればもっと一杯あるよ。


 例えばそう、僕は――――ホワイトファングドラゴンを目の前にしてて。


「おら! おら!」


 ドラゴンの注意を引こうと、エレンから譲り受けた双剣を振っている。

 ドラゴンの瞳は、どこか見たことある光景に不思議そうにしていたけど。

 目の前にいる僕を圧倒しようと、開口し、ブレスを放とうとしていた。


「――やらせん!!」


 しかし、親友のライザがドラゴンの後方から襲撃するよう両刃の剣で一閃。

 不死のドラゴンの首をはね、僕はドラゴンの流血を全身に浴びてしまうのだった。




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