第48話 姉だお

「おう、いらっしゃい、お前さん、ここらじゃ見ない顔だな」

「……おっお」


 アオイにステータスウィンドウを改造されたあと、早速その機能を使ってみた。そのまま酒場に向かうと、ハリーは僕がタケルであることに気づいていないみたいだった。


「まるでタケルみてーな口調だな、あ、タケルっつうのは俺のマブダチなんだけどよ? あろうことか王都のお姫様と結婚しちまったんだ。へへ、俺は二人の結婚式で披露する予定の一発芸があるんだが、お前試しに見ちゃくれねーか?」


「見せて頂こう」


 先ほど口調を指摘されたので修正をかけて言うと。


 ハリーはステータスウィンドウを開き、剣を取り出して。


「へへ、今から見せるのは、俺の家系に代々伝わる究極芸の一つ、あー」


 上を向き、剣を丸のみにしてから、出して。


「これはほんの序章だぜ? こっからが本番ってことよ!」


 まるで中国の雑技団のような剣舞やら、仰天芸を連発する。

 これを結婚式で披露しようとしていた彼の厚意を無下にするようだが――


「貴方は自分の結婚式でこれを見せられたいのですかお!?」

「おっと、タケルじゃねーか。今のは変装魔法か何かか?」


 ハリーが僕を新顔と見間違った理由は、アオイが改造した機能の影響だ。


 今回、アオイがつくった新機能は――キャラクリエイション。


 つまりはステータスウィンドウを通じて自分の外見を作り、ファッションのように着せ替えられる機能だった。試しに僕が作ったのは麗人のアバターだけど、下半身にあれが付いてなかった……トゥフフ、サーセン。


「お、マジかよ、俺もアオイちゃんに言ってつけてもらうか」

「いーんじゃないですか? 悪用さえしなければ」

「テメエに言われたかねぇよ、へへ」

「それでハリー、酒場の経営は順調ですか?」

「いや、余り軌道に乗らねぇなぁ。ヒュウエルの奴はどうやって利益あげてたのか不思議でしょうがねぇ」


 ヒュウエルがいない今だからこそ、彼の偉大さに色々と気付ける。

 今さらになって痛感するのは、どうしようもない自分の愚かさだった。


「ハリー、この紙に記されている場所なんですが、どんな所か知ってたりしないかな」


 そこで僕は今回ここに来た本件を切り出せた。

 昨日のお兄さんから渡された紙切れを見せると、ハリーは表情を曇らせる。


「ああ、ここはその筋では有名な奴隷市場の入り口だぜ」

「……例えばどんな、人たちが売り買いされてるんですか?」

「さあな、そこまでは俺も知らねぇな」


 奴隷市場の入り口か……それってきっとこの世界だと合法なんだろうな。


「どうしてまたこんな所に興味持ったんだ?」

「親方に聞いたんですよ、王都を復興させるためには人手がいくら必要なのか」


 親方が提案した人数は、およそ千人の労働者。

 それも出来るだけ有能かつ、肉体労働に向いているような人たちがいい。


 しかし、その手の人間に限って、今回の戦争で亡くなっているようだった。


「ちなみに、奴隷市場の相場ってわかります?」

「邪魔するぞッッッ!!」


 その時、酒場の扉を大仰に開いた輩の大音声があがった。

 とうとつな大声に、僕とハリーは一瞬肩を跳ねさせる。


「んだ? 誰かと思えばテメエかよジュード」

「……チ、俺だってここには来たくねーよ」

「失礼しますです」


 声の主は昨日僕に悪態吐いた彼と、相棒のゲヒムで。


「なあ、今ここに超美人が来ただろ? 髪の丈はこのくらいの」

「ああ、そいつがどうかしたか?」


 ジュードは酒場に入って来た超美人に用があるらしい。

 誰のことだろうと店内を見回すと、ふと思い当たった。


 それって、僕がキャラクリ機能で作った彼女のことじゃね? と。


「その人に用があるんだ、今どこにいる?」


 ジュードが尋ねると、ハリーは僕に視線を一瞬泳がせていた。


「……ああ、あいつだったらこの場所に向かったぞ」


 と言い、ハリーは例の紙切れをジュードたちに見せびらかす。


「そうか、俺の用件はそれだけだから。じゃあな」

「失礼しましたです」


 二人は急ぎ足で去っていく。

 ハリーから示された場所がどんな所かも知らずに。


「とりあえず、私は今から二人を追う。この件についてハリーは後でおしおきだ」


 さきほど見せた麗人のアバターに切り替え、そう言うと。


「お、おう、だがちょっと待てタケル」


 何だろう?


「その格好のお前の名前を決めておいた方がいいんじゃねぇか?」

「あ、それもそうだね」

「それと正体がバレたくなけりゃ、さっきみたく口調にも気を付けろよな」


 ありがとうハリー、じゃあ行くか。


 酒場を抜け、二人の後を早足で追うなか、このアバターのキャラ設定を考える。


 とりあえず、名前は竹葉ヨウコとでもしておいて。キャラ背景は――


「もし」

「んだよ、俺は急いで、ってはわわ!」

「私に用があると聞いたのだが?」


 ゲヒムを肩に乗せたジュードは、王都の西門付近で捕まえられた。

 二人に迫り、以上のように尋ねると、ジュードは顔を紅葉させている。


「えっと、貴方の名前は?」

「私は竹葉ヨウコ、この世界にいる愚弟愚妹を監督しに来た、勇者の一人だ」


 竹葉の姓に聞き覚えがないわけじゃなかったジュードは、眉根をしかめる。


「もしかして、タケルのお知り合いですか」


 そう、僕、じゃない、私の名前は竹葉ヨウコ。

 設定上、今の僕は竹葉タケルの架空の姉だ。




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