第47話 内緒じゃ意味ないお

「蒼天様」

「なんだねアンディくん」

「新聞に書いてある、泥沼関係ってなに?」


 誰が昼ドラに出て来る八百屋のせがれだ。


 翌朝、アオイが購読している新聞によると、モニカはすでに子供を授かっていた。

 あの時どうしてそこに気づけなかったのか、知っていれば今回の結婚にしたって!


 しかし、いいのか?


 こんなことを報道されたら、王室への不信感は溜まる一方だぞ。


「おはよう御座います」


 すると、我が家の朝食の席に当人が現れた。


「あらぁ~、どーも、タケルの妹のアオイですぅ、二度目ましてですね~」

「然様ですね……その新聞、ご覧になったのですか?」


 モニカのお腹を確認すると、確かに膨らんでいるような気がする。


「どうして教えてくれなかったんですか、妊娠中だったこと」

「振られるかも知れない相手に、教える必要はないですから」


 なかなかに、どうしてだお!


「にしても、いいんですか、こんな記事を書かせてしまって」

「王室も一枚岩ではないのです、その新聞社には弟の息が掛かっているので」

「……お腹の子の相手は誰なんです?」

「貴方です、そういうことになっています」


 童貞に何を要求してるんだこの人。


「王女様、初めまして」

「初めまして、この子供はタケル様が引き取った子供ですか?」

「アンディって言うんだ」


 僕はアンディに隠された秘密がいつバレるかと、ハラハラドキドキした。

 アンディの素性は、王家の血筋であることを。


「そうですよ、彼は聖女の代表だったマージャの孫です」

「然様でしたか」


 空気が重い……時間の流れが妙に遅く感じる。


「タケル」


 王女モニカに呼び捨てにされると、背中がかゆくなる。


「私たちの住まいは、別居体制を取りますか?」

「……そうですね、僕は引き続きここに住みますし、ご用の際はお呼びください」


 僕と彼女が住まいを一緒にすることは、考えられない。

 自分でもなんて軽率に結婚を引き受けてしまったのだろうと悔やんだけど。

 モニカや、王室関係者が住んでいるあの丘は、堅苦しいから嫌だった。


 その後、モニカは僕たちと朝食を共にした後、転移スキルを使って帰った。


「ふぅ、やっと息が出来るぜ」


 まだまだ幼いアンディすらも、重い空気を感じ取っていたらしい。


「さ、みんな、今日も炊き出しをするから、準備してくれ。王都の復興にはマンパワーが必要だけど、今王都の人たちは憔悴しきってるからな。昨日みたいな炊き出しを先ずは欠かさないこと、とにかく今を生きるんだ」


「タケル」


 その時、ウルルが僕を呼び止めた。


「何?」

「私もタケルとの間に子供が欲しい」


 ……うん、まあ。


「とにかく今を生きるんだ」

「お兄ちゃん、突然のお誘いだったからって、目をそらすなよこの陰キャ」

「( ゚Д゚)」


 ◇ ◇ ◇


「蒼天様、ちょっと疑問なんだけどさ」

「なんだねアンディくん」

「赤ちゃんってどこから来るの?」

「おや? 知りたい? じゃあお姉さんとちょーと、こっち来ようか」


 今のはアオイのギャグだったのか、欲望から来るものだったのか判らない。

 僕たちは今日も今日とて、王都の中央広場で炊き出しを行った。


 斜陽がさすなか、中央広場には炊き出しを待っていた人々がいて。


「なぁ」

「はい、何でしょう?」


 炊き出しの列に並んでいた一人の成人男性に話し掛けられる。


「君は今人手を集めてるんだって?」

「ですね、でも中々集まらなくて」

「何人くらい必要なんだ?」

「千人ほど」


 その数字に、お兄さんは一度口をつぐんでしまう。


「なら、ここを一度訪ねてみなよ」

「あ、ありがとうございます、尋ねてみることにします」


 お兄さんから渡された紙切れには、王都の外れにある宿屋が記されてあった。

 なんか、きな臭い。


「おうタケル、今日のメニューはなんだよ?」

「ジュードにゲヒムか、今日はアオイの意向でカレーになったよ」

「カレー?」


 ゲヒムはカレーのことを知らなかったみたいだ、まぁ彼は食文化が違うだろうしな。


「カレーねぇ、俺も食うのは初めてだぜ」

「マジで? 家のアオイにとっちゃカレーは国民食だよ……所でさ」

「辛ぇえええええええええええ!!」


 二人に折り入って頼みごとをしようとしたら、カレーの辛さに絶叫している。


「でも不思議ですな、汗が吹き出すほど辛いのに、辛いのに」

「ああ、なぜかおかわりが欲しくなる! タケルもう一杯頼む」


 まるで漫画のようだな、と陰キャオタを自称する僕は思った。


「おかわりの前に、二人に頼みがあるんだ」

「……それって、お前の出世につながったりするか?」


 ジュードは僕を妬んでいる傾向にあるからか、こう聞いて来た。


「そう言えばタケル殿、ご結婚おめでとう御座います」

「ありがとうゲヒム」


 ことさらゲヒムが僕の結婚を祝うと、ジュードは食器を叩きつけ、苛立ちをあらわにしていた。


「俺はもう、お前に使われたくねぇ。お前のみならず、誰かのいいようにされたくねぇ。頼みがあるって言ったな? 悪いけど、他所を当たってくれ」


 ここまで言われると、僕も心外だった。

 ジュードはカレーのおかわりを受け取らず、のそのそとその場を去る。


「ゲヒム、なんでジュードは僕をああも敵対視してるんだ?」

「ジュードはどうやら故郷の期待を背負ってここにやって来たらしいのですです」

「故郷の期待?」


 異世界サタナに召喚される勇者は、無作為に呼び出されるのではないのか?

 僕のケースだと、オ〇ニーの最中に呼び出されて死ぬほど恥かいたが、彼は違う?


「ゲヒム! 行くぞ」

「ではそれがしはこれで」


 にしても、ジュードの強情な態度はちょっと危険だなと思えた。


 翌朝になり、昨日貰った紙切れをさいど確かめた。


 ステータスウィンドウを開き、マップを見るとそこには人の存在が確認できる。


 ここに行けば、僕が抱えている問題の一つ、人手不足が解決できるらしい。


「……なんか、きな臭いんだよなぁ」

「悩んでるの?」

「ウルルか、悩んでると言えば、悩んでるけど」

「私でも、力になれそう?」

「いや、特には――いてっ」


 僕とウルルのやり取りを見ていたアオイに後ろから小突かれた。


「お前が悪い、理由は知らんが、お前が悪い。所でさお兄ちゃん、またステータスウィンドウ改造してもよろし?」


「別にいいけど、今度はどんな機能をつけるんだ?」


「内緒」


「内緒じゃ意味ないと思うけどなあああああ――――!」


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