第46話 コーヒーを噴いたお

 モニカ、王室の中でも次期女王の座を確約されていた、今国で一番の権威。


 彼女がまとう外貌は、どこを取っても美しい。


 控え目のブロンドは清楚で可憐で、黒真珠のような瞳は見るものを魅了する。


 その美しさだけをかんがみれば、モニカから打診された婚儀は喜ばしいものだ。


「(´_ゝ`)」

「そののっぺりとした無表情は肯定の意なのでしょうか」


 いかん、余りのことに気合いが吹っ飛んだ。

 結婚……? 僕と彼女が? 何故?


「何故でしょうか」

「貴方の功績、才能、将来性を認めてのことです」


 功績、確かに僕は魔王城攻略のために不可欠なアークを落とした。

 才能、僕のステータスウィンドウは遂に王室も認め始めたのだろうか。

 将来性、かかげた志は大きかったけれど、まだ不確かなものにすぎない。


「もしもこのお話を断れば、どうなるのでしょうか」

「以前も言いましたように、ここは私の都です。もしこの話を断るようでしたら」


 ――やはり貴方には、王都から出て行ってもらいましょう。


 モニカの冷徹ないいように、僕もちょっと頭にきたお。


「でしたら、僕もこのカードを切ろうと思うのですが」

「カードとは?」

「モニカ様は、何故二人いらっしゃるのです?」


 これは以前感じた違和感だった。

 以前、僕の店に来たモニカと、以前、この部屋で会話したモニカは瓜二つの別人だと思えた。


「……あれは影武者です、あれは魔王の襲撃に際し、殉職しました」

「なるほど、それはお悔やみ申し上げます」

「それで? 今のが貴方のカードだったとして、どう交渉なさるのです?」


 え……いや特には。

 僕が得意気に指摘した真実は、たいして役に立たなかった。


「タケルにはすでに私がいる」


 その時、後ろに控えていたウルルからパッション告白された。


「問題ありません、女王の伴侶たるもの、妾の一人は許容範囲内です」


 め、妾? つまりはハーレム?

 するとウルルは僕の腕にくっつき、鋭い目つきでモニカを警戒し始める。


「……それで、ご返答はいつ頂けますか?」

「いつまで待ってもらえます?」

「出来れば、一週間以内、それ以上は国民も耐えられないかと」

「つまりモニカ様は国民のために結婚する気でいるので?」

「それ以外に何かありますか? まさか私が貴方に密かに好意を寄せているとでも?」


 やめろモニカ、その術は俺に効く。

 いいじゃないか、僕だって誰かから好意を寄せられても。


 その後、モニカの自室を後にし、炊き出しが行われている中央広場に戻った。


「おい!!」


 戻るなり、アオイから拳骨で頭を殴られる。


「お兄ちゃん、ウルル、君たちは何様なの? ん? 炊き出しをほっぽり出して、乳くりあって来たのかな? ん?」


 ウルルが僕の腕に引っ付いていた様子を、アオイは誤解していた。


「屑様にも春が来たのか」


 アンディにすらもからかわれる。


「……よし、決めた」


 と独り言つと、アオイとアンディは顔を合わせて不思議そうにしている。

 決めた、って言うのは、僕はモニカのプロポーズを受けようという内容で。


 理由としては、ここに居るアオイや、アンディの影響が強かったのだ。


「子供の数は一姫二太郎じゃねーよ!!」

「へぶぁ!? 痛いお! 何するんだお!」


 アオイの先走った勘違いはいつまで続くんだろうか。


「おう大将、おめーに渡したいものがあるんだ」


 そう言い、炊き出しの場にやって来たのは煤まみれの大工工房の親方だった。

 親方が差し出したのは、新しい王都をデザインしたイラストだ。


「俺が考えた王都の新設計書なんだけど? 大将の意見も聞きてぇなぁ」

「ありがとうございます親方、アオイ、お前も一緒に見よう」

「どれどれぇ?」


 王都は、正直立ち直れるかどうかわからないほど悲惨な状況だけど。

 それでも、中には希望を忘れていない人たちがいるんだ。


 ◇ ◇ ◇


 ――えぇええええええええ!!


 翌朝、二階の居間でコーヒーを嗜んでいると、一階からアオイの叫喚が聞こえた。


「蒼天様が叫んでるな」

「気にするなアンディ、いつものことだよ」


 ――はぁああああああああ……。


 驚いたり、長い長いため息ついたり、我が妹は今日も今日とてKAWAII。


 さすがは竹葉家が蝶よ花よと育てた自慢の妹だ。


「ねぇ、ちょっとお兄ちゃん」

「なんだよ」

「お兄ちゃん、結婚するの?」


 何故バレタし。

 まあ王室には昨日の時点で返答してしまったし、早速新聞で掲載されたんだろうな。


「そうだよ、アオイも行き遅れないように頑張れよ」

「ア? なんだぁテメェ? しかも相手は国の王女様って、どゆこと!?」

「新聞に書いてある通りだと思うけど?」

「ふーん……お兄ちゃんもすみにおけないのか」


 とは言った手前、新聞にはどう書かれているのか僕はその記事を見ていない。

 アオイに頼み込んで新聞を貸してもらい、やっと確認すると。


『衝撃展開、第一王女モニカのお腹には赤ちゃんがいた!?』


 その見出しに、僕は口に含んでいたコーヒーを噴き出した。

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