第45話 逆プロポーズだお
して、夕方頃。
僕らは王都の中央広場を借りて、炊き出しを行っていた。
元々レンガなどで彩色されていた中央広場ももれなく戦争の被害にあい、一部は地形が変わったり、所々に血の跡が残されていた。そこを少し整備して、僕は店にあった長椅子と長机を大量複製し、並べて即席の食堂を作りあげた。
今日の炊き出しのメニューは味の覇王と呼ばれた勇者、ジャンによって作られたタワー型のハンバーガーだ。合いの手としてアオイが愛飲しているトロピーもついていて。このハンバーガーを20分いないに食べられたら金貨一枚の賞金が付いて来る。
「へぇ、それなら俺も挑戦してみたいな」
「毎度ー! じゃあこちらです、どぞー」
「おお、凄い迫力だ……」
「賞金が付くのは今から20分で完食ですからねー? じゃあフードファイト、レディー!」
早食い競争を炊き出しに盛り込んだのはアオイの提案だった。
余り印象よくなさそうだが、哨戒任務でお腹を空かせた警備兵にはいい薬だったみたいだ。
「タケル様、この度は王都を救ってくださり、大変感謝しております」
「いいんですよ、僕はやるべきことをやっただけです」
炊き出しの列にハンバーガーとトロピーと飲料水を与えていると、次々とお礼を言われた。体格のいい男性を見つけては、王都復興のために雇われないか打診してまわったりしている。
「おうタケル、俺たちにもそれくれよ」
「ジュードとゲヒムか、いらっしゃい」
「タケル殿は色々と持っているのですな」
二人にも炊き出しのメニューを渡すと、ジュードが露骨にウルルを探していた。
「ところでウルルちゃんはどこだ?」
「あそこ、ジュードの姿を見るなり思いっきり遠くへ行った」
ウルルは中央広場の隅で、こちらを警戒するよう注視している。
ウルルの様子を見たジュードは肩を落とし。
「またかよちくしょう」
失意に呑まれながら、ハンバーガーを口にしていた。
忙しいけど、これは気持ちのいい労働だ。
僕らがやってることは誰かから感謝されることだし。
炊き出し運動は、これからもしばらくは継続していきたいと思う。
そうすることによって、戦災の傷をフォロー出来たらいい。
「失礼致しますタケル様」
「あ、貴方も無事だったんですね」
僕に声をかけて来たのは、王室の敷地で警備主任をやっている老紳士だった。
彼の無事を知り、喜んだちょくご、嫌な予感がした。
「……炊き出し、いりますか?」
「結構で御座います、それよりもタケル様、貴方のことをモニカ様がお呼びです」
モニカ――王家の玉座争いで有力候補となっている時期女王。
彼女から呼び出しが掛かっている、応じなければ、また弱味につけこむのだろう。
「アオイ、僕はちょっと席外すから、ここはお前に任せた」
「なんじゃと!? 部長、減給もんだよ減給ー」
その場をアオイにたくし、老紳士について行く最中。
「……王室は、今回の炊き出しをどう思っているんですか? すみません、勝手なことを何の許可もなくしてしまって」
彼らの顔色をうかがうように、気になったことを聞いてみた。
「問題ありません、王室関係者のほとんどは炊き出しのことなど耳に入れておりませんので」
まったく、王室には失望しっ放しだ。
少なくとも自国の問題だろ? ちょっとは関心を持て。
そのまま彼について行くと、モニカの屋敷のロビーでは一人の音楽家が弦楽器をわびしげに弾いていた。以前と比べると、あまりにも乏しく、寂しい。老紳士はその音楽をバックに再び僕をモニカの自室に連れ立った。
「失礼します、竹葉タケル様をお連れ致しました」
「どうぞ……あら? そちらの方はどなたかしら」
モニカに言われ、ようやく僕は背後の気配に気がついた。
「ウルル? ついて来たのか?」
その気配の正体は僕の家で匿っている、ドラゴンの化身のウルルだ。
彼女の素性をそのままいうのは不味いと思った僕は。
「すいません、彼女は僕とアオイの末の妹でして」
「見え透いた嘘ですね……ですが、そういうことにしておきましょう」
しかし、モニカは怪我でも負ったのか?
彼女は今、僕たちを接客するでもなく、ベッドに身体を預けていた。
「……怪我でもなされたんですか?」
「ええ、魔王の襲撃を受けて、少し足をくじいてしまいました」
「それは不幸でしたね、で、僕を呼んだ用件を早速お聞きしてもいいでしょうか」
「では、単刀直入に申します。竹葉タケル様、私、モニカ・ロズウェルと」
……と?
「結婚いたしませんか?」
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