第43話 エレンとライザの別れだお

 王都が壊滅し、それでもなおエレンたちはダンジョン攻略に向かった。


 彼女たちは魔王討伐隊に入る前に、攻略中のダンジョンがあった。


「じゃあねタケル、他のみんなも、元気でね」

「エレンさーん、カムバーック」


 旅立つエレンを、アオイが冗談交じりに呼び止めていた。


 それは王都が魔王の襲撃に遭った翌朝のことで。

 エレンは、ダンジョンで得たお宝を王都の復興に役立てる意向でいる。


 残された僕たちはと言うと。


「……タケル、前言した通り、私はイヤップと旅に出ようと思う」

「いつ出立する気だ?」


 王都より少し外れた丘で、僕はライザと今も瓦礫の山と化した街をふかんしつつこんなやりとりを交わした。空は青く、晴れやかなのに、僕の心象風景はそう気持ちいいものではない。


「出来れば今日中に、こんな時にタケルをまた王都に残していくのは申し訳ない」


 エレンが出立すると、今度はライザとのお別れの時がやって来た。


「君がいない日々は寂しいけど、たぶん大丈夫だよ」


 そう言い、僕はライザと再び抱きしめ合った。


「タケルは出逢った時とは見違えた、だから私も余り心配してない」


 これが僕とライザの別れの挨拶だった。

 王都が復興し、魔王の記憶が忘れ去られたころには、また彼と抱きしめ合おう。

 それが僕とライザの再会の挨拶だと、たった今決めた。


 その後、家に帰ったライザは早速イヤップと共に、出立の準備を終わらせる。


「タケル」

「ん? 何イヤップ」


 二人の別れに際し、イヤップはアーク攻略に使った銃を手渡して来た。


「今までのお礼、兄や私を引き合わせてくれてありがとう」

「……要らないよ、これは君が持って行くべきだ」

「しかし」


「今の王都に必要なのは何かを壊す力じゃない、何かを支える力なんだ、だからこれは君が持って行くといい。君はこの銃の力を使って、ライザと共に未来を打開していくんだ」


 自分でもいいこと言ったと思えた。

 イヤップは僕の瞳を見詰めて、不意をつくようにキスをしてくれた。


「ワーオ、お兄ちゃんにもモテ期が来ちゃった?」

「行って来る、兄は私が必ず守る」


 とイヤップは言うが、ライザであれば君を必ず守ると言うよ。

 あの兄妹の絆は嫉妬しちゃいそうなほど強く結ばれている。


 で、だ。


 家主のエレンが家を空け、頼りにしていたライザは旅に出てこれまた不在。

 奇跡的に損害を受けていない僕の家に集ったメンバーを紹介しよう。


 先ずは妹のアオイ、エレンやライザがいなくなった以上、頼りにするしかない。

「お兄ちゃん、トロピーいる?」

 アオイは日和見主義で、権威が無くなった今は解放感につかっていた。


「アオイ、欲しい」

 見目麗しい腰元まで伸びた白髪のワンピース姿の美少女ウルル。

 ウルルはアオイが持っていたジュース、トロピーを欲しがっていた。


「あいあい、トロピーだったら無限に作れるから、欲しがってる人がいたら分けてあげてね? ねぇお兄ちゃん、ウルルのステータスウィンドウは魔改造していいの?」


 好きにすればいい、仲間の項目にもウルルはちゃんと載ってあるしな。


 しかし、僕はアオイの言動に引っかかり、どういう訳なのか尋ねた。


「アオイ、トロピーだったら無限に作れるって言ったよな?」

「言ったよー、持ち物を個別に魔改造すれば数の増減ぐらいわけなかったしー」

「なら、炊き出ししないか? 食材とかはこっちで揃えるからさ」


 僕の提案に誰よりも賛同したのがアンディだった。


「屑様にしちゃ名案だな、食材が売っている店なら俺色々知ってるから、買い出し行って来るよ」


 彼は持前の行動力が特徴的な優しい少年だけど、まだまだ頼りない印象はある。


「アンディ、食材を購入するための資金あげるからこっち来て」

「わかったよ屑様、どのくらいくれるんだ?」


 その時僕はアンディの額に手をあて――ステータスウィンドウ付与と言った。


『プレイヤー名:アンディにステータスウィンドウが付与されました』


 アナウンスが入ると、アンディの目の前には半透明状のスクリーンが広がる。


「く、屑様? どうして今頃になってくれたんだよ」


「君の将来を考えて、せん別代わりにプレゼントしたんだよ。後はアオイに言って魔改造するもよし、それとも地道にレベルをあげてもいいし、好きにするといい。だけどなアンディ」


 彼にステータスウィンドウを与えて、ようやく合点が行ったことがある。

 何故アンディの祖母、マージャがこのスキルを与えないで欲しいと言ったのか。

 それはアンディが元々所持していたスキルに秘密が隠されていた。


「君のスキルは君を守ってくれたお祖母ちゃんや、お母さんの秘密でもある。だから、うかつにステータスウィンドウを開いて、アンディのスキルを周囲の人に教えちゃいけないぞ」


「そ、そうなのか? 俺のスキルはえっと」


 スキル『転移』――王家の血族が子々孫々と継承していったスキルだ。

 そのスキルを持っている、という事は、アンディが王家の血族である証だった。


「なぁ屑様、スキルってどうやって使えばいいんだ?」

「知らないよ、それにアンディはスキルの使用禁止な」

「どうしてだよ!?」

「それよりもほら、炊き出しのための食材買って来てくれよ。金貨10枚で足りるだろ?」


 僕はまとわりつくアンディの尻を叩き、送り出した。

 昨日、祖母と母親を失った彼の傷を癒すには、時間が必要だ。


「よし、アオイ、僕はちょっと街を巡って炊き出しのことを広めておくよ」

「オケーイ、気をつけてね」


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