第41話 少女の来訪と訃報だお

「気が付いたのかタケル」


 目が覚めると、そこは魔王討伐隊でいつも宿泊していたテントの中だった。


 僕の親友、ライザがテントに同席していて、今まで看病してくれたみたいだ。


「……ライザ、魔王城の攻略はどうなった?」

「その話か、それよりも先に聞きたいことがある」

「やぶからぼうに何かな?」


 尋ねると、ライザは視線を僕の手元に落とした。

 ライザの視線を追うと、そこには裸姿の白髪の美少女がいる。


「その娘は?」


 白髪の美少女? それなら僕の隣で寝てるよ。

 わかり辛いギャグを思いつくのはいいが、誰?


「いや、知らないな。何でこの人僕と一緒に寝てるんだ?」


 彼女もまた、今回の戦争の犠牲者なのだろうか?


「エレンが言っていた、恐らくその娘は、ドラゴンの化身か何かだと」

「ド」


 ドラゴンって、僕が今の今まで戦ってたあれ?


「たぶん、タケルが持っているアーティファクトの不可視の剣の効果だろうと言っていたぞ。タケルはその剣にドラゴンの血を吸わせ、その剣は一時だけ竜殺しの能力を持ってしまい、こうなったと」


 ああ、なるほど、完・全に理解した。

 再度わかり辛いギャグを想起し、僕はそれよりも魔王城の方が気になった。


「魔王城の方はどうなったんだ? 魔王リィダは」

「……報告によると、リィダは魔王城から姿を消していたらしい」

「逃げられたのか?」

「恐らく、兄とはいえ、リィダが何を考えているのか判らない」


 ライザの心境を考えると、とても複雑だった。


「んん……ここはどこ?」


 口を閉ざしていると、件の白髪の美少女が目を覚ました。

 ライザは剣を手にし、警戒を払って僕に言う。


「タケル、今はその娘の素性を聞くとしよう」

「あ、ああ。じゃあ、君の名前は?」

「名前……ウルル」


 ウルルと名乗った美少女は、朴訥な人格をしていた。

 先ほどまで暴れていたのが嘘のように、大人しく、聞いたことには素直に答える。


 彼女は自分について名前以外の記憶を失っている様子だった。


 ライザが簡素な白いワンピースを与えると、彼女はお礼も言わぬまま着た。


「ウルル、お前のステータスを確認してもいいか?」

「ステータス?」


 ライザは彼女の素性を探るため、ステータスウィンドウを使うつもりでいるようだ。

 ライザと目を見合わせた僕は彼女の額に指先をあて。


「――ステータスウィンドウ付与」


 スキルを使ってから、仲間の項目を確認するとウルルの名前が載っていた。

 ウルルの項目をタップして、ステータスを確認すると。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 プレイヤー名:ウルル

 スキル:憤怒の進化

 レベル:1

 能力値

 HP :51

 MP :22

 STR:11

 INT:15

 SPD:9

 LUK:3

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これは、エレンの推測は的を射てそうだな」


 ウルルのステータスはあのドラゴンと比べると貧相だが、スキルがドラゴンと一緒だった。そこからライザはエレンの推測が証明されたと断じる。僕もライザとほぼ考えは一緒だ。


「彼女は今後どうなるんだ?」


 ライザに小声で呼びかけると、ライザもまた小声で応じる。


「エレンが言うには、タケルが面倒見ろと」

「僕が?」

「タケルは記憶にないかも知れないが、倒れる前、彼女をかばったそうだぞ」


 マジで? そう言われても普通に記憶にないのだが。


「タケルはいるか? 俺だ、ジュードとゲヒムだ、入るぞ」

「どうぞ」


 ジュードがゲヒムを肩に乗せ、テントにやって来た。

 何事だろうと思っていれば、彼はウルルの両手を握りしめた。


「はなして」

「あ、いや、ごめんなさい、急すぎて訳わからねーか」


 彼の台詞とは裏腹に、僕はだいたいのことを今ので察したけどな。


「俺の名前はジュード、お前の夫だ!」

「……夫?」


 唐突にその宣言をされたウルルは僕やライザの顔をうかがう。

 僕たちは首を横に振り、ジュードの独善的な台詞を否定した。


 すると、ウルルのステータスに変化があった。


 先ほどまで11の数値を示していたSTRが、1万まで上昇し。


「っ!」

「ほげ!」


 ジュードの右脇腹に強烈な左フックを見舞う。


「ああ! ジュードのHPがまた1に! 誰か! 誰か助けて!」


 そんな悶着があり、僕とライザは同時に思ったことがある。


 この娘を、不用意に怒らせる真似はやめておこう、と。


 ◇ ◇ ◇


 事件としては、ウルルの一件が終わった頃合いに発覚する。


 ウルルはお腹を空かせていたようで、僕たちと一緒に食堂テントへと向かった。


 ――魔王討伐隊は十年振りに王都に凱旋できるらしいぞ。

 ――これで俺も偉人になれたんだ!


 食堂テントではモンスター以外もぬけの殻だった魔王城の情報が飛び交っていた。


 兵たちが口々に言っている、王都に凱旋する日は近いと。


「あーあ、やだねー」


 ジュードは周囲の兵たちとは違い、失望している感じだった。


「何を残念がってるんだ?」


「王都に俺らの居場所はねーよ……平和になったとたん、お役目御免とばかりにホームレス生活、だろ?」


 あー、そういうことか。


「ジュードと、それからゲヒムに、僕からお礼の品を贈るよ」


 そう言い、ステータスウィンドウを開くと、仲間の項目に赤丸が付いていた。

 僕は単に二人に当面の生活資金をプレゼントしようと思っただけで。


「……ライザ、君のステータスウィンドウで、ヒュウエルは調べられる?」

「ヒュウエル? 懐かしい名前だ――ステータスウィンドウ……っ!」


 さらに、僕のステータスウィンドウには妹のアオイから分刻みでメールが来てる。


『至急、王都に戻って来て、魔王軍が王都に奇襲仕掛けて来たんだよ!』


 という内容のものであふれかえり。


 ステータスウィンドウにあったヒュウエルの項目は――死亡、と書かれていた。




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