第40話 ドラゴン討伐、だお

「ぶはぁ! 死ぬかと思ったわね」

「いつものことじゃない?」

「それはそう、さてと、地上はどうなったのかしら」


 アークを壊したあと、魔王の戦場では史上稀に見る壮絶な光景が繰り広げられていた。


「全軍突撃!! スキル持ちを先頭に他の兵は残党処理に務めよ!」


 魔王討伐隊に居た全戦力が魔王の戦場に投下され。


 討伐隊の中でも無類の強さを誇っていたスキル持ちが八面六臂の活躍を見せる。


「エレン、タケルは?」

「えっと、ステータスウィンドウ……おかしいわね、たぶんあの辺りにいるはずなんだけど」


 僕は現在、アークを守っていたドラゴンに空中コンボをかまされている。

 いくらステータスで勝ろうとも、空中を移動する術がないので手も足もでない。


「エレンさん、タケル殿ならあそこに居ります」

「ああ、あんな高い所でやりあってんだ……困ったわね」


 見ると、肩に掴まっていたはずのゲヒムの姿がない。

 まさか落ちた? ちょっと焦る。


「くそ! もういいだろ! 僕たちの勝ちだ!」


 ドラゴンに向かってそう吠えても、あいつは一向にひるまない。

 それどころか、ドラゴンは自身の封じられていたスキルを使い。


「おわ! 空から何か降って来たぞ!」


 これまでの戦闘で疲弊させていた体を、脱皮し全快させる。


 そればかりじゃなく、脱皮によってドラゴンはステータスを飛躍的に向上させていた。


「ルルルルル……っ!」


 唸り声をあげ、ドラゴンは再度、僕目掛けて空中コンボを見舞うと。


「――ッ!」


 ドラゴン特有のブレス攻撃を、地上にいる兵を目掛けて放つ。

 器用な奴だな、と感心していてもしょうがない。


「……タケルから、私の親友からその牙を引け!」


 すると、突如として巨大な雷が轟き、ドラゴンを焼く。


 これは自然発生したものじゃないのは、彼を知る僕はよく知っている。


 そこでようやく仕掛けられていた空中での連撃は収まった。


 ライザの雷によってドラゴンは地上に落ちたんだ。


「殺った?」

「これしきのことで倒されるような奴じゃないと思うが――無事だったかタケル」


 そして再度、地上に不格好な形で落ちると、ライザから抱き留められた。

 黄金色した彼の美しい毛並みが、土砂で汚れてちょっと台無しだ。


「……いいわね、貴方たち二人の仲見てると羨ましくなる」

「エレンにはリンがいるでしょ?」


 そう言うと、エレンはその辺に転がっていた石を思い切り投げつけた。


 とにかく、これで僕の仕事は終わった。


 あとは野営地で英気をたくわえていた、戦士たちが魔王を討ち取れば。


 流転する世界は一時の平和を迎える。


 僕は僕の店で、アオイやアンディと姦しくして、平和に暮らせばいいんだ。


「きゃ!」


 だが、地に落ちていたドラゴンはエレンたちを後ろから薙ぎ払い、そう易々と終わらせないと言いたげだった。


 僕たちは龍の逆鱗に触れてしまったみたいだ。


「やはり起き上がるか、こいつはリィダの手によって不死の特性を会得しているらしい」

「うーん、誰かのスキルによって、スキルを封印出来ればいいのにね」


 そう言うと、ライザは思い出したかのように僕を見た。


「たしかタケルは、スキルを封じられる指輪を持っていなかったか?」


 そうだったお。


「あ、でも、あれは一度使うと効果しなくなるって説明されたような?」


 言うと、ドラゴンはまた捻転するように尻尾を縦に振り下ろした。

 僕とライザは尻尾によって居場所を離される。


 ドラゴンの左と右にそれぞれ展開すると、あいつは僕をじっと見て警戒する。


 僕はエレンから譲り受けていた鞘と不可視の双剣を装備し。


「おら! おら!」


 慣れない手つきで双剣をひゅんひゅんと目の前で払い続け、挑発した。

 そしたら、ドラゴンは開口して、先ほど見せたブレスを放とうとする。


「やらせん!!」


 隙をついたライザがドラゴンの後方上部からスキルと剣を使って首根っこを一閃する。


 ライザの剣によって首をはねられたドラゴンはおびただしく流血し。


 僕の身体はドラゴンの血のシャワーを浴びて、全身ドッロドロになった。


「容赦ねー」

「戦に情けは不要……だが、これでも駄目なんだろうな」


 ライザの言葉通り、ドラゴンはそれでも死ななかった。


 白い龍の身体は失った頭を探し求め、傍によると結合。


 元の状態に戻ると、また咆えて、僕らに向かって来る。


 これは、双方のためにも打開の糸口を見つけるべきだ。


 ドラゴンを殺すことは実質不可能、ならば――


「ライザ、総司令に、優秀な捕縛スキルを持ってる人がいないか聞いて来てくれよ」

「……その間、タケルはこいつと渡り合うのか?」

「まぁ僕のHPは無限だし、大丈夫だよ」

「わかった、すぐに見つけて来る」


 ライザはスキルを使って魔王城にいるであろう総司令の下へと向かう。


 戦場にドラゴンと一緒に取り残されると、ドラゴンは顎を引いて突進して来る。


 僕は強烈な突進攻撃を避けれず、また自由の利かない空中に誘われた。


「いたたたた、派手にやられてるわね」

「エレンさん! ジュードが瀕死になっていますです」

「はいはい、クレアが今治癒してくれるはずだから、お荷物勇者は隠れてなさいよ」


 下からエレンたちの喧騒が聴こえる。


「誰がお荷物勇者だ! スキルを使える今なら、俺だって少しは役立てる!」

「あんたのスキルって確か」

「俺のスキルは能力値に応じた爆弾を生成・爆破できるスキル、見てろよ」

「ちょっと! なんでここで爆弾を作っちゃうのよ、敵がいる場所でやりなさいよ」


 爆弾? そのワードだけ耳に届くと。


「タケル殿、今からそれがしとジュードの合体技をお見せいたしますです」


 小動物勇者のゲヒムが僕の肩に移っていた。

 彼の能力は何かの位置を取りかえるといったスキルで。


「合体技!?」

「ええ、では行きますです――ッッ」


 ゲヒムは装備していたポーチバックから取り出した小さな何かをドラゴンに向けてばら撒いた。


「行くぞゲヒム!」

「よろしいですぞジュード!」


 二人は準備完了を知らせ合うと、ゲヒムはばら撒いた粒と。


「――っ爆弾!?」


 ジュードが生成した爆弾と取りかえ、ゲヒム自身は肩から消えていた。


「うっしっし、タケルには悪いが、ドラゴンと一緒に始末してやるぜ!! 名付けて!!」


 ――汚ぇ花火!!


「だぜ!!」


 するとドラゴンを中心とした中空で突如として大爆発が連鎖した。


「ッッッ!!」


 ドラゴンが甲高い断末魔をあげ、また地上に落ちる。

 しかし、ドラゴンの落下先にはジュードとゲヒムの二人がいた。


「っ!? やべ!」


 その光景を目撃した僕は瞬間にして、ゲヒムに叫んだ。


「ゲヒム!」

「っ、わかりましたですです!」


 彼は名前を呼ばれただけで僕が言いたいことが判ってくれたみたいで。


 ゲヒムは僕とジュードの座標を取りかえ、ドラゴンは黒煙を破って落ちて来る。


 瞬間、身体が勝手に動いた。


「――これで終わってくれぇえええええ!!」


 僕は落下してきたドラゴンに向かって飛翔し、手にしていた双剣を振り抜いた。

 切っ先から瘴気のようなものが立ち昇り、ドラゴンは姿を消すのだった。


「はぁ、はぁ、はぁ、エレン、ドラゴンは?」

「消えたわ、よくやったわねタケル、不死のドラゴンを倒すなんて前代未聞よ」


 理由は分からないけど、とにかく、やったんだな。


 そこで僕の気力の糸は切れ、視界が暗くなり、その後どうなったか定かじゃない。





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