第39話 アーク攻略その六、だお

 何も見えない……そして、何も聞こえない。


 だが生きている感覚はある。


 イヤップの初撃は、アークの腹を貫いた。だがアークは腹を貫かれてもなお、堂々とその存在を保ち続ける。するとアークを守護していたドラゴンが覚醒し、軽く撫でるように攻撃の手をくわえ、パーティーは全滅の可能性を視野に入れたと思う。


 一発逆転を懸け、僕はイヤップが落とした銃を拾い、二撃目を放った。


 腹を貫かれたアークの、残されていた胴体部分に銃口を合わせ、たしかに引き金を抜いたはずなんだ……そしたら。


 ――何も見えなくなった。


 何も聞こえなくなった、残されたのはモンスターに噛まれた右足の痛みと。


 ここに駆けるまでの間に疲弊させた、心肺の苦しさだ。


 肩で息をすると、肺呼吸による快感染みた安堵が押し寄せる。


「はぁ、はぁ、はぁ……一体、どうなったんだ!」


 一転して無に包まれたと思えば、徐々に視界が開け始めた。

 狐面をした、僕の親友が、狐に化かされたかのように口を開けている。


「ライザ!」


 そのライザは、口を大きく動かし、何かを訴えているようだった。


「っ!?」


 ライザが生きているのを確認したら、僕の身体に強力な衝撃が走った。

 目の前は暗くなり、物凄い力で前から後ろへ押され。

 背中で土を掻き分けている。


 抵抗しようと躍起になった頃には、網膜に青空が映り込んでいた。


「なんだ? 何が起こったんだ」


 中空に押し出され。


「いてっ」


 不格好な形で地面に落ちたあと、急いで体を起こす。


「……」


 すると、アークを守護していたドラゴンと対峙していた。

 なんだこれ?


「タケル殿、平気でしょうか?」

「ゲヒム、状況が把握できないんだけど」

「それがしもよく判っておらぬ、ただエレンさんの指示で助太刀に参りましたです」


 いや、だからぁ。


「ッッ、ッッッ!!」


 げっ歯類の獣人であるゲヒムとのんきなやり取りをしていると、中空を浮遊していたドラゴンが怒号をあげた。


「逃げろゲヒム!」

「どこにですか!? のわ!」


 するとドラゴンは凄まじい突進攻撃を僕に目掛けて放った。

 そこでピンと来たんだ。


 たぶん、僕はイヤップの銃によってアークを壊した後、激昂したドラゴンが今と同じく僕に突進して、たぶんダンジョンの土壁を押しのけて地上に躍り出た。


「タケル殿、恐らくタケル殿はもうスキルを使えますです!」


 僕の肩に掴まっていたゲヒムがそう言い、僕の推測を確証づける。


 なら、彼我の形勢は逆転している。


「総司令! 魔王の戦場にドラゴンが出現しました!」


「来たか! ではこれより全兵力を集めて魔王城に進撃する! あのドラゴンがここに出て来たということは、恐らくアークは無くなったはずだ!」


 アークは僕らの手によって、抹消された。


「――ステータスウィンドウ!」


 そう言うと、目の前に半透明のステータスウィンドウが開かれる。


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 プレイヤー名:竹葉タケル

 スキル:ステータスウィンドウ付与

 レベル:28

 能力値

 HP :∞

 MP :99999

 STR:99999

 INT:99999

 SPD:99999

 LUK:99999

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 よし! 僕のステータスはアオイが魔改造した数値になっている。


 魔王討伐隊に加わる前、僕やハリー、エレンと言ったステータスウィンドウ持ちはもれなくアオイのスキルによってステータスを魔改造していた。しかしアオイはへそ曲がりだから、自分より強い存在は作らなかった。


 それは兄である僕だとて例外じゃなく。


 でも死んでほしくなかったアオイは、HPだけ∞にして戦場に送った。


「おおっしゃタケル! よくやったぁ!」

「ハリー! 後はこのドラゴンと魔王を!」

「俺は手はず通り、魔王を倒す! このドラゴンはお前が可愛がってやりな!」


 ということらしい。


 残された脅威は数多の勇者からスキルを奪った魔王だけだけど。


 でも大丈夫、何と言ったって僕とアオイのスキルは――異世界サタナにおいて最強なんだお。


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