第37話 アーク攻略その四、だお
「ねぇ、魔王リィダは結局、勇者スキルが怖いの?」
エレンはライザに素朴な疑問を聞いていた。
「そうだと思う、リィダは自身の脅威的な力を、諸刃の剣と例えていたよ。異世界サタナに召喚されて来る勇者の有能さを羨み、妬み、そして恐れていた。たぶんこの世界の誰よりも」
確か、リィダはヒュウエルのスキルを奪った相手だった。
ヒュウエルのスキルは不老不死の特性を持つような感じだったけど。
だとしたら、魔王は一見無敵のはず。
それなのにあえてスキルを封じる場所を拠点にしている。
魔王は勇者スキルを侮らないように徹底しているようだ。
「そうなのね……ま、いいわ。それよりも晩餐会にしましょう」
エレンがそう言うと、彼女の仲間である胸が目立つアリーが荷物から各人の食事を配布していた。
「これは、トロピー?」
僕の目の前に出されたのは妹アオイが愛飲していたトロピカルジュースだった。
「王都で有名な味の覇王の勇者から頂いた支給品だよ、ありがたく召し上がれ」
「アリーは味の覇王の奥さんでもあったりするのよ」
エレンから聞かされた情報に、僕はつい、視線を下に落としてしまう。
今はこんな状況だけど、僕もいずれは奥さんが欲しいかなと思って。
王都での商売も軌道に乗りつつあるし……。
「エレン、王都に帰ったら知り合いのいい人紹介してくれませんか?」
「タケルにぃ? あんただったら、リンなんかがいいんじゃないの」
思い切って打診してみたけど、この時ばかりほどうかつな真似は禁物だと思えた。
リンは細身で、中背で、黒い髪の毛は彼女の表情を隠している。
以前、リンと接吻した経験があるけど、状況が状況だし、困るんだよなぁ。
「……生きて帰れたら、デートしようタケル」
リンがそう言うと、彼女を知る仲間たちは囃し立てるように小声で笑っていた。
◇ ◇ ◇
「……ライザ、こうしてると思い出さないか?」
食事を終え、本来なら仮眠を取る時間、僕はまだ起きていた。
「あの悪漢たちと決闘した日のことか?」
「ああ、あの時は、ライザと一緒に寝てなかったら、凍死しそうなほど辛くてさ」
僕は今、ライザと隣り合うように寝ている。
だからふと思い出してしまうんだ。
「寒かったら、もっと傍に寄っていいんだぞ」
「君は不思議な男だな」
「生きてる世界が世界だったからだと思う、私の世界はサタナとは違い、余り文明が発達していない。だからか、部族は明日を生きることに必死で、恋や夢と言ったものに余り興味がないんだ」
彼の故郷の話を聞き、僕は紡ぐように地球のことを話した。
するとライザは僕の世界に想いを馳せる。
「いつか、タケルの故郷にも行ってみたいものだ…………」
そう言うとライザは夢の世界に向かい、彼が今宵、いい夢が見れるよう僕は祈った。
◇ ◇ ◇
翌日の早朝を狙い、僕たちは起床して部屋の中央にあったテーブルを片付け、アークまで伸びるほら穴にロープを垂らした。エレンはそのロープを掴んで、パーティーメンバーの顔を見る。
「みんな、準備はいい? 特にジュードとゲヒム」
「おっす、俺はいつでもいけるぜ」
「それがしは極力ジュードと行動を共にしますです」
ゲヒムは小柄な体格を活かし、ジュードの肩に飛び乗った。
「それじゃ、アークダンジョン攻略大作戦の、開始よ」
エレンはウィンクで合図を出すと、ロープを伝って下に降りた。すべるように降りること十分、ロープを伝いきったエレンの下にはまだ足場があった。彼女はその足場に向けて。
「開け、未知なる扉」
呪文を唱えると、足場は瞬時にして解放され、アークの室内に僕らは躍り出た。
「浮遊術・円展開」
リンが狭い範囲に浮遊魔法を使うと、僕らは中空からゆっくりとアークを俯瞰する。
直径五百メートルもある巨大な白く発光する柱が、岩肌の天井と地面を浸食するように広がっている。あれは人間が造った機構じゃない。少なくともあれは人間の理解を超えるアーティファクトだ。
その白い柱に長大な身体を迂回せるように寝そべっている白いドラゴンがいた。
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