第36話 アーク攻略その三、だお
アークダンジョン攻略のため、招集した勇者はエレンの一存で追い払ってしまった。
そのことを当然のように言及した上層部の人がいて。
エレンは今、上層部の人間と口論しているらしい。
作戦決行を翌日に控えた身としては、鬼の居ぬ間になんとやらだった。
「タケル、いよいよ明日だな」
エレンが軍と言い争っているなか、僕は魔王の戦場が見渡せる丘陵にライザを連れて、のどかな一時を過ごしていた。なだらかな下り面に自生した青芝の上で寝転がり、眼下に広がるのは戦士たちの夢の跡。
「作戦が成功したら、僕たちの生活はまた忙しくなるのかな」
今回の作戦が成功すれば、残るは魔王の討伐だけだけど。
僕たちは魔王の討伐まで付き合わなくてもいいみたいだ。
さっき司令部に顔を出した所、総司令が言っていた。
「……私は今回の件が終わったら、イヤップと共に旅に出ようと思う」
「旅?」
「ああ、何しろ、私とイヤップの肩書は魔王の弟妹だ。私はいいが、イヤップまでもが陰口叩かれるのは見たくないしな。だが直ぐに旅立とうとは思ってはいない。タケルの妹とやらも会ってみたいしな」
そう言えばそうだった。
魔王リィダの正体は、ライザの兄だったんだよな。
今の今まで失念していた、あの魔王と、ライザが持つ雰囲気が違い過ぎて。
「黙ってればいいだけの話じゃないか?」
「いつかはバレる、だからなタケル、今のうちに言っておく」
――ありがとう。
たったそれだけの言葉なのに、ライザの考えや想いが十全と伝わって来る。
もしかしたら、作戦の可否に関わらず、僕とライザはもう二度と会えないかもしれなくて。
ライザの言葉には、今生の別れを仄めかす意味も込められていた。
「僕の方こそ、ありがとう」
別れはいつになるのか定かじゃないけど、言っておいて損はない。
そう思えた。
◇ ◇ ◇
アークダンジョンの攻略、その決行日。
通常、ダンジョンの攻略開始は朝から昼の時間帯に行うものらしいが。
僕らは魔王の目を欺くために、その日の夕方にダンジョンの入り口に侵入した。
昨日聞いた限りだと、ダンジョンの直径は最長百キロメートルに及ぶ、他に類を見ない大迷宮だとのこと。比例して、このダンジョンの入り口は何百も確認されており、ステータスウィンドウを使うまでアークに辿り着く正解はどれなのか判然としていなかった。
エレンの先導で侵入したダンジョンの入り口付近は、まだ人の手の名残があるが、奥に進むにつれ、ダンジョンは地球にある自然洞窟とかわらない光景になって行く。
「……」
広大なダンジョン内を、無数のモンスターが徘徊している。
僕らはリンが所持する隠蔽魔法によって、モンスターに気付かれず前を行った。
ダンジョンに予め用意されているルートだと、魔法を打ち消すアーティファクトなどが設置された、どうしても戦闘を避けられそうにない場所もあることにはあるらしいが。
「痛っ」
「静かにしなさい」
しかし、元々お宝ハンターとして幾度となくダンジョンを攻略していたエレンは、元あったルートとは別の、隠し通路を独自に開拓するすべを覚えていた。多少手狭な所以外は、問題ない。
「ふぅ、一先ずお疲れ様、今夜はここで休憩よ」
入り口から数えで八つ目の隠し通路を抜けると、魔法のランタンで照らされた広い塹壕のような場所に出る。エレンを先頭にして、僕たちは一人ずつ、抜け穴からその空間に顔を出した。
「大丈夫かジュード」
「すまねぇ、たすか――俺に気安く触れるなタケル」
こうまで言われるとさすがに傷つく。
「君は平気そうだなゲヒム」
「そうは言いますが、それがしも他の勇者と同じあつかいを受けたい」
次にやって来たゲヒムに手を貸さなければ、彼を傷つけてしまうし。
僕ら、四人の勇者はどこか歯車を噛み合わせていなかった。
「みんな集まったかしら? そしたらアーク攻略作戦を説明するわね」
エレンはそう言うと、空間の中央に集まるよううながした。
中央には四つ足の丸テーブルが備えられてあって、よくよく窺うと。
「っ!? エレン、テーブルの下に穴が」
「大きな声は出さないでね。タケルが言った通り、このテーブルの下は空洞よ」
テーブルを中心に、みんなして足をぶら下げる格好で座る。
「言っておくけど、私たちは今、アークの直上にいるの。私たちが今居る下にアークはあるし、上には魔王城がある」
大胆不敵とは、彼女たちのような冒険者に贈る賛辞だろう。
「これから数時間、仮眠を取って、早朝の今頃アークを落とすわよ。みんなそのつもりでいてね。出来れば、アークを守るドラゴンが油断して眠っている間に、アークを破壊、しかるのち、勇者スキルでドラゴンを倒す」
エレンの説明に、ライザが挙手していた。
「なに?」
「疑問が二つある、先ず、どうやってアークを破壊すると言うのか」
「アークの破壊はイヤップにやって貰う」
そこで妹の名前を出されたライザは驚嘆しつつ、イヤップを見る。
「イヤップは特級ダンジョンで入手した、破壊力の高いアーティファクトを持ってるの」
「見せてくれないかイヤップ」
ライザに言われた彼女は、ぶら下げていたポーチから拳銃の形をした道具を取り出す。
「これは周囲の光をエネルギーにして、解き放つもの」
ソーラービームみたいな物だと思えばいいのか。
「上手く行けば、アークを守るドラゴンごと一撃よ。で、二つ目の質問は?」
「……その昔、リィダに聞いたことがあったんだ。アークという重要施設に、何故魔王である貴方がそばにいないのかと。そしたらリィダは、アークを守護しているモンスターは、自分よりも強いからと答えた。先日、エレンから見せてもらったステータス上でも、あのドラゴンの強さは異常だった」
だからと言い、ライザは思案気に目を伏せ、提案する。
「あのドラゴンを倒すよりも、魔王城を陥落するほうが容易いのではと私は考える」
「確証はないわね。司令部の連中も、魔王討伐の任を受けてはや十年。そろそろ限界なのよ。彼らは十年のあいだ試行錯誤して来たらしいけど、魔王城の陥落は今の戦力じゃ実質不可能だと言い張ってる……アークさえなければ、私たちはタケルのスキルを使って勝つことが出来る。例え相手が誰だろうと」
実際は僕と妹のアオイ、兄妹のスキルの連携でということだろう。
先日見せて貰ったドラゴンのステータスは、魔改造された数値よりかは遥かに低いのだから。
「それほどの物なのか、タケルのスキルは?」
ライザの質疑に対し、エレンは満面の笑みを見せて肯定するのだった。
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