第34話 アーク攻略その一、だお
ライザを連れて野営地に帰ると。
「……お帰り、タケル」
「ただいまエレン、そこで何をしているので?」
エレンが僕たちの帰りを仁王立ちで待っている。
嫌な予感しかしない。
「で、イヤップの隣に居るのがライザくんであってるの?」
「そうです、ライザは以後、僕らの仲間として魔王討伐に加わります」
出来れば総司令にこのことを報告したいのだが、時間的にまだ寝ているか。
「……ま、私はいいけどね、それよりも今回怒ってるのはタケルについてよ」
「僕ですか?」
「僕ですか? じゃないわよあんた! 私があれほど戦場に出ちゃ駄目だって言っといたでしょ?」
エレンは勝手に危険に近づき、更なる危険を招きかねなかったと言いたいようだ。
そこで僕も今回怒られるのは自分が適当で、責任を取るべきなのか迷った。
「当面の罰として、司令部のテント前で正座! ライザとイヤップもよ!」
は、はぁ、その程度のことで許してくれるのなら、是非するが。
僕たち三人は司令部のテント前に行き、正座し始めるとエレンが腰を落とした。
「にしてもイヤップ、お兄さんに会えてよかったわね」
「……ありがとう」
「いやいや、いーのよ、あんたが秘密主義だったのは知ってたし」
イヤップはエレンから針で突かれるようにチクチクとやられていた。
「お兄さんと出逢えたことだし、アークダンジョンの攻略の際は期待してるわよ」
「……」
聞かなかったことにしておこう。
エレンが司令部に頻繁に出入りし、何か企てているのは知っていた。
確か、大作戦を決行する。と意気込んでいたけど。
大作戦の目的が、アークがある特級ダンジョンの攻略だったとは、恐れ入る。
「つつ、足がしびれて来た」
「無理するなよタケル、罰を受けるのは本来であれば私だけでいいのだからな」
「ライザ、君が罰を受けるのなら僕も受ける。君と僕はやっぱり、友達だから」
空が徐々に明るくなって来た。
暁が昇る頃に、ライザを救出できて本当によかった。
けど、魔王に下った他の勇者の救出は、たぶん無理だと考えつつ。
僕は、眠気眼を堪え、あくびを吐いていた。
すると総司令は起きて来て、テントの前で正座していた僕たちを見て首を傾げる。
「諸君は何をやっているのかね?」
「お早うございます総司令」
「タケル殿ではないか、これは一体何の真似だね」
多忙にしている彼の時間を借り、僕は事情を説明した。
「なるほど、ではライザ殿は魔王討伐隊で頑張ってくれたまえ。以上」
「そんな処遇でよろしいのか? 罰を受けなくてもいいのか?」
「君が敵に寝返って、戦い殺したのはすべてモンスターと化した後の兵たちだった。違うか?」
ライザはその事実を指摘されると、首肯する。
「そうだ、私が戦場で始末したのは全てそちらのモンスターと化した兵だ」
「ならば私から何も言う事はないのでは? 後はライザ殿の活躍次第だ、以上」
忙しかったのだろう、彼は話を切り上げ、どこかへ去ってしまった。
「ああっと、そうだそうだそうだった……ライザ殿、それからタケル殿」
「なんでしょうか」
「二人にはアークのダンジョン攻略隊に加わって欲しい、魔王を倒すには、そうするしかないようだ」
総司令の打診に、僕とライザは声をかぶせて賛同すると。
総司令はかったつな笑みをみせ、僕とライザの両肩を叩いた。
「頼りにしているぞ、希望の勇者たちよ」
◇ ◇ ◇
その後、僕たちは食堂のテントで一晩中続けていた正座の傷を癒していた。
「一度、王都に帰りたいところだね」
一度王都に帰って、アオイを呼んでライザのステータスを底上げしたかった。
「アークのダンジョンでは勇者スキルは使えないのだから、意味ないだろ?」
「ああ、そうだった。勇者スキルを使えなくするアークって、どんな代物なんだろう? ライザは知ってたりする?」
問うと、ライザは頷いた。
「アークは一見、真っ白い彫刻細工で出来た塔なのだが、どうやらモンスターが製造しているらしい。タケルも遭遇したことあると思う、昆虫型の巨大な蟻のモンスターを」
「あの蟻がアークを作るの? それは末恐ろしいね」
そのモンスターは比較的モンスターが生息しない王都の周辺でも見かける。
個体数の多い、ありふれたモンスターの一匹だ。
「アークを作るには、特別な素材が必要らしい。魔王城の地下にあるアークは太古の魔王がモンスターに作らせたもので、世界でも最大規模のアークだと言われている」
「僕らの次の目的は、その白い巨塔を壊すのが目的か」
その際、スキルは使えないとすると。
そこまでの破壊力を出せる力が単純に必要だった。
加えて言えば、アークを守護しているモンスターは魔王リィダよりも強いらしい。
「……総司令と呼ばれた彼も、小型のアークを持っているようだったな」
「小型のアーク?」
「そうよ、ライザって言ったっけ? タケルよりも遥かに優秀って感じで結構だわ」
すると食堂テントにエレンがやって来て、ライザの能力の高さを評価する。
ライザは席から立ちあがり、エレンに握手を求めた。
「改めて、私の名はライザ。タケルや妹イヤップの件では世話になった」
「気にすることないわ、見返りはちゃんと頂きますから」
「王都では貴方の家に勝手に居座ってしまってすまない」
「その件に関してはタケルからきっちり見返り金頂いているから、問題ないわ」
エレンも対峙するよう席に腰を下ろすと同時に、ライザも座った。
「アークのダンジョン攻略はどのくらい進んでいるんだ?」
「敵にバレないよう、慎重に動いてるからね、でも六〇パーセントぐらいは攻略出来たわ。後はアークの守護をしているモンスターをどうにか引き付けて、その間に他がアークを壊す。作戦の概要としてはこんな感じ。そ・こ・で、勇者の力が必要になってくるの――ステータスウィンドウ」
と言うと、エレンはステータスウィンドウを開き。
僕たちにある動画を見せてくれた。
ステータスウィンドウには動画の撮影、録画、再生機能などないはずだが。
恐らくアオイが魔改造したのだろう、要望か何かを受けて。
アークの周囲ではスキルが封じられているはずだから、今僕たちが見てるのはエレンの網膜を通した記憶か何かかな?
「ここに映ってるのが、アークを守護しているモンスターなんだけど、交戦は一切せずにデータだけ録らせて貰ったわ」
それは、怖気を催すほどの巨体を誇っている。
僕が今まで見たことのない超巨大なモンスターで。
一言で表すなら――空中を飛ぶ白い和風龍だ。
「ドラゴン種か、道理で魔王に匹敵するはずだ」
ライザはその姿を見てもひるむことなく、冷静に分析を開始しているようだった。
「よく気付かれずに撮影できましたねエレン」
僕がそう問うと、エレンは得意気な笑顔を浮かべた。
「私たち、隠れ上手なのよ。パーティーもそういう構成で決めてあるしね」
画面をよくよく見ると、アークと呼ばれる白い巨塔は部屋の中央にあった。
アーク自体が発光し、部屋の形を明確に照らしだしている。
巨大な地下部屋がどうやって作られたのか判らないけど。
僕は画面に映る白い龍と目が合い、臆するように心臓を跳ねさせていた。
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