第33話 結果よければ全てよし、だお
「はぁ、はぁ、じゃあそういうことで、ライザは僕が貰う」
「ちょ、ふざけんじゃねーし! 今の一騎打ちはテメエらが勝手に」
好戦的だった勇者が食って掛かると、凛々しい顔つきをした勇者が止める。
「もうよせ、例え口約束だったとはいえ、約束は約束だ」
「ライザちゃんが負けてしまった、がっくりね」
ライザに溺愛気味だった女性は肩を落としている。
「ここはタケルの言葉に従い、素直に引こう」
「そうね、今日の所はかいさーん。ライザちゃんとはまた会えると思うし」
「宜しいのですかミモザ、ライザは貴方の花婿候補だったのでは?」
「予感がするのよね、ライザちゃんはこのままタケルに預けた方が、大きくなるって」
敵は雑談しながら魔王城の方に去って行った。
僕は昏睡しているライザを治療しようと抱きかかえ、ステータスウィンドウから持ち物の項目を選び、ハイポーションを取り出してライザに浴びせた。
「……っ! タケル、まさかとは思うが私は」
「ああ、ライザは僕に負けたよ」
「そんなはず……最後の攻撃は何をしたのだ?」
そこで僕はライザの前にある指輪を出した。
「これだよ、ヒュウエルから貰ったお守り、これは指輪の形してて、宝石部分が特殊な石で出来ているらしいんだ。この石は勇者スキルを封印する効力があるらしくてね」
その詳細を教えてくれたのは、ヒュウエルの古馴染みである亜人種の彼だった。
魔王討伐隊に遠征する前、僕が信用に値すると思い、教えてくれたみたいだ。
「……アークと同じような感じだな」
「僕も詳細は知らないけど、確かヒュウエルは君にも同じものを持たせたと言っていたけど?」
「後で確認するが、タケル」
彼が何を言うのか、ドキドキした。
約束など反故にして、再度僕の命を狙って来る可能性も強い。
「……私が去った後の王都での生活は、よほど幸せなものだったんだろうな。お前が変わるくらいだ、きっとお前が関わって来た人間は全て、優しい人たちだったんだろうな」
「そうだよ、嫌がらせを受けることもあったけど、王都の人々は大切な人たちだ」
「出来るのなら、故郷に残して来た弟妹たちにお前を紹介したいぐらいだ」
「それは嬉しいな、僕も会ってみたよ、ライザの弟妹たちに」
「私も会ってみたい、お前の妹のアオイとやらに……すまん、戯言ももう終わりだ」
嬉々として交わしていた話をライザは打ち切り、独りで立つと魔王城に向かい始めた。
「ライザ! 一騎打ちでは僕が勝ったんだ! だから戻って来てくれよ、ライザ!」
「その道に進んだら、私は永遠に故郷に還れない」
ライザは僕の声も聴かず、魔王城へと向かっている。
「じゃあ、魔王に寝返ったら故郷に還れる保証はあるのか!? あるんだったら教えて欲しい。そのくらいの時間はあるだろ?」
言うと、ライザは踵を返して立ち止まった。
「……魔王リィダだ、あの人が、当時ヒュウエルと三角関係にあった時、付き合いのあった王家の女から転移スキルを奪っている。リィダは王家を憎み、王室のやり方を嫌っている。だから私はリィダと交渉した。彼は私に勇者を百人狩ることで、故郷に還してくれると約束した」
「それって、でもさ、そこに正義はないじゃないか!」
正義感に溢れたライザの印象が強くて、僕は咆えた。
「……兄、なんだよ。魔王リィダは故郷の私たちを突然置いて消えた、兄なんだ」
「っだったら君がお兄さんを止めろよ! 僕も協力するから」
「それもいいかもな……こう言ってはなんだが、兄はタケルのように、変わってしまった」
決定打となる、何かが欲しかった。
ライザを引き留め、また僕の大切な仲間になってくれるような、何かが。
今のライザの心はすごく揺らいでいる。
「……兄さん?」
その時、背後から聞き覚えのある声がした。
「まさか、イヤップ?」
イヤップは、エレンの仲間で、新しく入ったばかりの獣人だ。
イヤップとライザは駆け寄って近づくと、抱擁し合った。
「兄さん! 私、怖かった、頼りにしてた兄さんが居なくなって」
「お前が生きていることが判ったのが、何よりの朗報だ、イヤップ……!」
……よし!
ライザの心残りだった弟妹は、すでに見つかってる後だった。
これでライザの心残りは少なくなっただろうし。
「リィダはまだ生きているみたいだ」
「知ってる、魔王として、皆の脅威になってしまったみたいだね」
「リィダはもう、真っ当な人生を送れそうにないんだ」
「なら、私たちの手で最期を看取る」
「ああ、そうしよう。イヤップ、お前と生きてあえて本当に、よかった」
これで、ライザは僕らの強力な味方として、魔王討伐に協力してくれそうだ。
結果よければ全てよし! ちょっと強引だけど、僕はそう思う。
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