第32話 勝利だお

 ライザは僕との一騎打ちに応じてくれた。

 ことさら言えば。


「タケルが先制を取っていいぞ」


 僕の戦闘力をなめている彼は、先制を仕掛けるよううながした。


「……っ――じゃあ遠慮なく」


 ――ドン!! 僕の初撃は無遠慮に放った袈裟斬りだ。


 ステータス的に圧倒しているであろう僕の攻撃を、ライザは受け止めると後方に吹っ飛び、背後にあった木に背を打ち付けようやく止まる。


「ちょっとー! タケルくんったら強いじゃない、私のライザが負けないようみんなで応援するわよ!」


「だーから言ったんだよ、タケルのスキルは本当にステータスウィンドウだけなのかってよ!」


 ライザの仲間が僕の能力に驚嘆していると、ライザは治癒魔法を使って傷を回復させていた。そして彼は何事もなかったかのように僕に歩み寄ると、自分の得物である刃渡り九十センチほどの両刃剣を抜いていた。


「タケル、今の攻撃は見事だったぞ」

「ならもう一度!!」


 と言うや否や、ライザに向かって袈裟斬りを仕掛けた。するとライザは攻撃を倍化する魔法を使い、さらには彼のスキルである『雷遁』を併用して、僕の袈裟斬りに剣をぶつけて来た。


「っ」


 一瞬、剣に流れた電力が手に伝わってピリリとした刺激を覚えた。


「今の攻撃は、私の全力に近いかも知れないな」

「嘘言うなよ、君はまだまだ手を隠しているんだろ?」

「タケルの方こそ、何かを隠している」


 ライザは勘が鋭いのを知っている。だから僕はエレンから譲り受けた剣の力を使うべきかどうか迷っている。僕のことなら熟知していると豪語したエレンが寄越した剣だ。何かしらの使い道はあると思う。


「……じゃあ、いくよ。今度の攻撃は二回やるからね」

「わかった、なら俺は二回攻撃のうちの初太刀を圧し潰してやろう」


 ライザと児戯のような会話を交わし、細見の剣の中から更に細い剣を抜いた。つまり、目に映っていた細身の剣は鞘であり、中身の剣は決して目に映らない不可視の剣だった。


 不可視の剣の耐久性は抜群で、どんな衝撃にも耐えられるし。

 不可視の剣に不着した液体は刀身に取り込まれ、液体の性質によって姿を変える。


「いくよ!」

「――雷遁、鉄槌の紫電」


 ライザに見える剣で袈裟斬りを仕掛けると、彼は剣にスキルを使い雷で出来た槌で対抗した。切っ先が触れた瞬間、僕の全身にライザの雷が巡り、一瞬だけ意識を失った。


 ――ヒュン、意識を取り戻した後に振り払った不可視の剣による攻撃は間合いを取られることによってやり過ごされる。


「……なんか奴らの戦闘見てるとさ、俺でも倒せるって気になるな」

「ライザの戦闘経験値とは真逆に、彼は今まで戦闘した経験がないのさ」


 最初こそ、僕の優勢だった戦況は、徐々に劣勢になっていった。


「……タケルに闘いは似合わない、諦めろ」

「諦めないよ! 君だってさっきから決定打に欠けているじゃないか」

「お前が持っている力は猫に小判だ……いつまで馴れ合ってても仕方ないだろうし」


 ――私は、奥の手を放つことにする。


「こいつをやると、辺りが焦土と化し、動物たちも被害に遭うから、出来ればやりたくなかった」

「ライザが奥の手を使うのなら、僕もだ」

「一騎打ちを申し込んだ時の決意は、見事なものだったぞタケル」


 そう言うとライザは僕と極端に間合いを取る。

 その意味は助走のためか、はたまた何か。


 どちらにせよ、これが最後の一撃になる可能性は強い。


 僕はヒュウエルから貰っていたお守りを取り出し、中に入っていた指輪を嵌める。


「……――雷帝降臨」


 ライザが唱えると、彼の身体目掛けて巨大な雷が直撃。

 最初は一本だった稲妻が、幾重にも彼の身体に落雷する。

 すると、連続して雷に打たれたライザは巨大な狐に変貌していった。


「タケル、今のお前なら堪えてみせるんだろうが、容赦しないぞ!」

「よかったよライザ、君の奥の手が見れて」

「何を悠長なことをほざく、タケル、お前が負けたら私の仲間になるんだ!」

「なら僕が勝ったら、君は僕と一緒に来てくれるね?」


 巨大な雷狐と化した彼は、突進攻撃を仕掛けた。

 周囲に雷の乱舞を見舞いながらの究極の突進攻撃。

 

「アァアアアアッ!!」


 ライザが突進して来て、僕と衝突しそうになった瞬間、先ほど取り出した指輪を突き出した。するとライザを纏っていた雷帝は霧散するように消え、ライザは無防備になる。


 無防備になった彼に向かって地面を蹴って飛び出し、僕は不格好な拳撃を放ち、彼の顎にヒットさせた。続いて足元がおぼつかなくなったライザの胸ぐらを掴み、渾身の――ッ!! 頭突きを喰らわせてやった。


 脳に来る連撃を受けたライザは脳しんとうを起こし、その場に倒れるのだった。






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