第31話 一騎打ちを申し出るお
満月の夜に、彼の黄金色の毛並みは輝いていた。
満月を背負っているにも関わらず、月光に負けない美しさ。
問うたところ、ライザが魔王に下ったのは間違いなさそうだ。
「ライザ、今一度紹介してくださる?」
そんな彼にすがるよう、一人の女勇者が体にはべりついた。
「タケルだ、私の無二の親友にして、良き理解者」
「よろしくタケル、私は――どうしたの?」
彼女が名を言う前に、僕は後ろに振り返って歩き始めた。
「……タケル」
「ライザは、故郷に還れるのなら、何しようが構わないのかな? 確かに君は僕が知るライザだと思う。故郷に残して来たまだ幼い弟妹が、今でも心配で、それが心残りで」
感情がとうとうと口に出てしまう。
ライザが、人に仇名す魔王に下った失望が、止められなかった。
その僕の両脇を、彼の下に集った他の勇者が捕まえる。
「せめて話を聞いてくれないか」
と、左わきに居た男性は言った。
僕は捕まえられた両脇に、力を入れて振りほどく。
「――っ、なんて力だ」
「剣を抜けお前ら! こいつはここで始末する」
右脇にいた勇者が両手に武器を構えた。
僕が立っている場所は、アークの射程範囲外だった。
それを証拠に消えていたステータスウィンドウが再表示される。
「君は僕が知るライザだけど、僕はライザが知っている、タケルじゃないんだ」
信念の強いライザは、きっといつまでも変わらない彼のままなんだろう。
しかし僕は違う、君がいない間、僕は変わった。
「ライザがいなくなってから、王都で色々あったよ。時にない金を要求されたり、時に悪ガキに悪戯されたり、時には命の危険にさらされることもあるにはあった。けど僕は君の影あって耐えて来れた。いつか君がこの戦場から帰って来る日を夢見て。そんな日々を送る間に、僕は変わったんだ」
過去を回想する僕の不意をついて、凶刃を放って来た勇者がいた。
僕はエレンから譲り受けていた細身の剣でその凶刃を受け止めると。
「止めてくれ! タケルは敵じゃない!」
「いいや、僕は君の敵だよ」
吠えたてるライザに向けて、反論していた。
「ちな! こいつのスキルはなんだっけ!?」
凶刃を向けた好戦的な勇者が驚きの声をあげる。
「……言っただろ、タケルの能力はステータスウィンドウだと」
「そんな屑には見えねぇって言ってんだよ!」
どうする、どうする、どうする――逃げるべきか、戦うべきか。
向こうと今渡り合えてるのは、お互いにスキルを警戒しているからだ。
向こうの連中は僕のスキルを知っているようで知らない。
僕のスキルは妹のアオイの助力あって、ある種最強になったことを。
きっとだけど、僕らはお互いに不意を突かれることを恐れている。
「……ライザとの、一騎打ちを申し出る。僕が勝てば、ここは引いて欲しい。ライザが勝てば、君たちに僕のスキルをやる」
すると、ステータスウィンドウに表示されたライザに、赤丸が付いた。
どうやら僕のスキルも、彼を敵だと認めたらしい。
「心のどこかでは、こうなるんじゃないかと思っていた」
ライザは僕の申し出に応じるよう、歩み寄って来る。
「一騎打ちするのライザ? 頑張って」
ライザの傍にいた女性が離れると、僕らの一騎打ちは止めようのないものになっていた。
「言っておくが、私は今の今までタケルに負けると思ったことは一度もないぞ」
ライザはそう言うと迫真の気合いをまとった。
彼の殺気に気圧されないよう、僕も両瞼を見開く。
「君と出逢った日のこと、まるで昨日のように思い出す」
「私にとっては遠い記憶だ」
僕らはその後数分ほど、互いを正視し合った。
彼を観察し、攻略法を考案していたのかもしれないけど……正直な話、見惚れていただけかも。おかしな話だ、これは決して恋心とは違う確証があるのに、ライザに惹かれるんだ。
「……――タケル、出来ればお前には苦しんでほしくない。一撃で終わらせる」
「やれるもんなら、やってみろ」
そう悪態ついている様は、まるで僕の方が悪漢のように思えてならなかった。
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