第30話 再会だお

「ありがとうございました!」


 中隊の百人にスキルを付与し終えると、一斉にお礼された。


「いえ、僕の方こそ長話にお付き合いくださり感謝いたします。皆さんの今後のご活躍をお祈りいたします」


 そう言って、食堂テントから抜けると、背後から嬉々とした声が聞こえて来る。


 ああ、教導者って、こんな気分なのかな。


 拝啓姉さん、僕は異世界サタナで担任の気持ちがわかったような気がします。何て言うか、感動します。お前の語彙力皆無か、などと言われても困りますのでどうぞお元気にお過ごしください、かしこ。


 と、いもしないイマジナリー姉とやり取りしている僕を後ろから誰かが小突いた。


「なにいい気になってんだよ」

「ジュードか、驚かすなよ」


 それは僕と同時期に討伐隊に入隊した勇者のジュードたちだった。


「タケル、俺は今日、本物の勇者をみちまった。あの人は俺やお前とは違う」

「? 何かあった?」


 ジュードは得意気な顔でそう言う。

 オレンジ味かかった彼の髪の毛は、昼間見た時よりちぢれている様だった。


「おい! タケル! そんな所に居やがったか!」


 するとハリーが大声をあげ、こちらに向かって来た。


「じゃあ俺たちはこの辺で」


 ジュードはハリーを遠ざけている傾向にある。


「またあいつらか、奴ら、勇者なのにひがみっぽいよな」

「ハリー、ジュードたちに何かしなかった?」

「べっつにー、俺ぁー何もしてねーぜ?」


 まあいいけど、何しろハリーは今や大隊を預かる千人長様だ。

 ハリーは元々軍隊に所属していた経験もあるらしく、出世してしまった。


 たしか、ハリーの隊は今日も魔王の戦場で敵の牽制に出て行たはず。


 僕やジュードはその戦場から漏れたモンスターを森で追撃したのだから。


 今日倒したのはオーク種の一匹だった。


「お疲れさまですハリー」

「飯にしようぜタケル、ここの飯はヒュウエルの酒場と違って美味いからよ」

「ヒュウエルに言いつけるぞ」


 ◇ ◇ ◇


 事件としては、その日の深夜に起こった。


 僕はジュードたちと一緒の宿泊テントで寝ていると、彼からメールが届いた。


「……嘘だろ」


 それは魔王討伐隊に入る、当初の目的だった人で。


『今から会えないか? 今日、タケルがオーク種を狩っていた森で待つ』


 ライザ――僕の親友の勇者が、メールの送信主だった。


 僕は備品として借りていた魔法の照明器具のランタンを持って、野営地の外へ向かう。


「ステータスウィンドウ」


 を開くと、昼間いた場所には確かにライザが居るみたいだ。


 その場所に向かうまで、一応、覚えた隠蔽魔法を自分にかけて、周囲から姿が見えないようにした。目的地にたどりつくまで、複数のモンスターがいるようだし、警戒した方がいいだろう。


「ライザ、どこにいるんだ?」


 ステータスウィンドウのマップを見ると、彼はこの辺にいるはずなんだが。


「その声、タケルか?」


 何か月ぶりに、彼の肉声を耳にした。

 堪らなくなった僕は隠蔽魔法を解き、姿を出すと。


「……久しぶりだ、タケル」


 目の前にいたライザも、その姿を見せ。


 僕と彼は互いの生存を確認し合うと、お互いに抱擁した。


 また生きて、彼の顔を見れた喜びに感謝するように。


「お互いに積もる話があるかも知れない、私について来て欲しい」

「わかった、そうしよう」


 ライザの黄金色した毛並みは以前よりも艶やかで、彼の綺麗な碧い瞳を見るのも久しぶりだ。


 モニカが言ったように、彼は生きていた。


「所で、あいつとはその後、和解したのか?」

「あいつ?」

「私とタケルに切っ掛けを与えた、決闘相手のことだ」

「……ああ、ハリーのことか。まあ彼は元々悪い人じゃなかったんだよ」

「そうだったのか」


 ステータスウィンドウを見ると、モンスターは僕たちを避けるように動いている。

 きっとライザに恐れをなしての、行動なんだろうな。


 ライザについて行くと、彼は魔王の戦場に踏み出したようだ。

 さきほどまで表示されていた僕のステータスウィンドウは消える。


「ライザ、ここから先は魔王の戦場だ」

「そうだな、だが私たちが襲われることはまずない」

「……君が、魔王の配下だからか?」


 指摘すると、彼の身体がぴくりと跳ねた。


「それを知っていてなお、私について来るのか、タケルは」

「なんでなんだ? なんで、魔王の下についた?」


 感情的になり、涙を零しそうになった所を押し殺して彼に聞くと。

 彼は目を細めて、僕のそうぼうを射抜くように見つめる。


「そうした方が、故郷に還れそうだったんだ。私はタケルと出逢った時から目的を違えてないよ。私はお前の知るライザだ」


 すると、僕たちの周囲に、他の魔王の手の者が現れた。


「紹介する、彼らは私の仲間で、魔王の軍門に下った勇者たちだ」


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