第27話 魔王だお

「お兄ちゃん、魔王討伐隊の話、やっぱり断ったら?」

「それはある事情から出来ない」


 ライザの命どうこうじゃなく、ことは自分たちの食い扶持に直結する。


 その思慮をアオイに話したら、顔を赤くしていた。


「王室って、そういうことするんだね」

「ま、魔王の狙いは王家って有名な話だしね。そのくらいの駆け引きはするでしょ」


 エレンは嘆息気味に言うと、ヒュウエルを追うでもなく酒場から出て行った。


 はぁ、しょうがないから、今ばかりは僕がこの酒場を切り盛りするか。


 カウンターの扉をくぐり、中にあった白いエプロンを身に着ける。


 注文を取り始めると、フードマントを被った亜人種が近寄って来た。


「ご注文は?」

「いい、それよりもヒュウエルの信頼を受けるお前に伝えたいことがある」


 ◇ ◇ ◇


 そして二日後、僕は魔王討伐隊のパレードに参加していた。


「お兄ちゃん、生きて帰るんだよー」


 アオイはいつかの時のように、家の三階の窓から僕を見送っている。


「俺、初めてだぜ、こんな大舞台に立つのはよ」

「緊張してるんですかハリー?」

「武者震いだよ、タケルの方こそ、膝が笑ってるじゃねーか」


 しょうがないんだお! 僕は元々陰キャだったんだから。


「みっともないわねー、小物連中が得意気になってる」


 ハリーと小馬鹿にし合っていると、エレンが上から物を言って来た。


 あれから二日後、エレンは僕の協力要請に応じてくれた。


 どうして彼女が仲間を引き連れて魔王討伐隊に参加したのか、真意はわからない。


「んだと!? テメエはついこの間まで三等級だったじゃねぇか!」

「今は一等級、あんたよりも偉い」

「等級が上がったのはタケルのスキルのおかげだよなぁ!?」


 出発前から仲間割れか、疲れるお。


 パレードの列は王都の南門を抜けると、広い草原の前に隊列をなした。


「只今より、我ら魔王討伐隊は決死の覚悟で前線に向かう! 各人肝に銘じておけ、我らがお守りすべきは王都の平和ならびに王都を支える民草の安らぎと笑顔であると!」


 魔王討伐隊の責任者らしき軍人が隊列の前でこう言うと、モニカが隣立った。


「これより、諸君を前線に転移させる! 先ほど説いた決意を胸に、王都に向かって敬礼!」

「(`・ω・´)ゞ」


 流されやすい僕は周囲にならって王都に敬礼するんだけど。

 隣にいたハリーはあくびしつつ、舐め腐った態度で手を額にそえる。


「はいはい、早く前線に向かって、目的果たしてさっさと帰ろうぜ」

「ハリー、王家に目を付けられたら面倒だから、もっと真剣に」


 ハリーに忠告をうながすと、モニカは王家のスキル――転移を使ったようだ。


 王都に敬礼していた部隊の目の前には、広大な荒野が映っていたのだ。


「……これがスキル転移か、なかなかに便利そうじゃない」


 エレンが王家のスキルを羨むように賛辞すると。


「よくぞ来てくれた、諸君の援護があれば必ずや魔王を討伐できる! 我々は諸君を歓迎する!」


 敬礼をしていた方角に、魔王との戦場の責任者らしき軍人が部隊に祝辞を言っていた。その軍人は、転移前に決意を説いた、今回の討伐隊の責任者と握手を酌み交わしている。


「では各人、予め言われていた自分の持ち場に散会せよ! 勇者たちは私の下に集まって欲しい」


 言われ、僕たちは前線の指揮官の風貌をした勇ましい面の兵の下へ向かった。


「こたびはよくぞ来てくれた勇者の諸君、私の名はガイ、魔王討伐隊では副総指令を務めている。早速だが、諸君のスキルの内容を、今ここで教えて欲しい」


 ガイと名乗った討伐隊のお偉いさんは、ある種僕に死亡宣告を通達したようなものだ。


 端の勇者から順に、スキルの内容をガイの前で発表していき。


「では次は君だ、君のスキルを教えて欲しい」


「僕のスキルはステータスウィンドウ、この半透明状のスクリーンに自分や仲間の能力値を数値化して表示する代物を、付与する能力です」


 実際にステータスウィンドウを開いて見せて、ガイにこのスキルは戦場で役立つか、目を凝らして返答を待ったのだが。


「ふむふむ、私感だが、使えないスキルだと見る」


 ですよねー!

 やはり、僕のスキルは一見屑スキルなんだよなぁ。


「所で、気になることがあるのですが宜しいですか?」

「なんだ?」

「僕のスキルにはマップの項目もありまして、これに映った赤い点は敵の位置を示しています」

「どれ、見せてみろ」


 と、彼が近づこうとしたもので、僕はとっさに距離を取った。

 ここは魔王城を先に見据えた小高い丘にある、討伐隊の野営地で。

 一寸先は魔王軍と、討伐隊が日々戦いを繰り広げている戦場の荒野になる。


「……どうしたのタケル?」

「エレン構えて! ハリーも! このガイって人は敵です!」


 言うと、ガイと呼ばれていた軍人は、歪な笑顔を浮かべた。


「ああ、君、もしかしなくても、ヒュウエルの仲間だったりする? やけに勘がいい所をみるに、あいつの仲間って感じだ」


 どうやら敵はヒュウエルを知っていて。

 ヒュウエルとは、深い因縁にあることを臭わせていた。


「ヒュウエルは今頃どうしてる? まだ生きてるのかな?」


 彼から酷い殺意の波動が流れ込んで来る。

 その場に居た他の勇者数名は腰を抜かしてしまうほどの、強い殺意だ。


 すると、軍服をまとっていた彼はマジックのように人相が瞬間にして変わった。


「魔王リィダだ、お初目にお目に掛かる」


 

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