第26話 元勇者の因縁だお
「……ステータスウィンドウ」
魔王の戦場ではスキルが使えない。
そのことに頭を抱えている最中、ヒュウエルがステータスウィンドウを開く。
「タケル、ここは仲間の力に頼ろう。エレンとリンに伝言飛ばして一度帰還してもらう」
うう、方々に迷惑掛ける事態に。
すまないすまない、ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
「ヒュウエル! とうとう結婚してくれる気になったのね!」
ヒュウエルがDMを飛ばしてから十分後、エレンは風のように帰って来た。
「いや、俺はお前に」
「分かる! ヒュウエルが今まで私に隠して来たパッションリビドーに堪えられなくなったことがね! 私だったらいつでもOKだから、子供は二人がいいわね。一男一女」
そして今は火のようにヒュウエルにアプローチしている。
「いいから話を聞け」
「何? ちょっと緊張するけど、黙って聞くわ」
今度は林のように静かになる。
この後は動かざるごと山の如しでエレン式の風林火山は完成だ。
「お前、タケルのおかげで結構な数のダンジョン攻略してたよな?」
「ええ、でもタケルのおかげだけじゃない、ダンジョン攻略は私たちの実力よ」
「そうだな、ダンジョンで取得したお宝を、タケルに見せてやってくれないか?」
「? どうして?」
「実は――」
そこでヒュウエルの口から今回の魔王討伐隊の経緯が話され。
エレンはキツイ目付きで僕を睨む。
「どうして引き受けたの? あんた、何も学ばない馬鹿だったの? 見損なった」
「だって、ライザの救出がかかっていて」
「断言してもいい、そのライザくんは今頃死んでるわ」
それはさすがに聞き捨てならない台詞だった。
「エレン、言い過ぎだ。現にタケルや俺のステータスウィンドウにはライザは表示されている。あいつは才能ある勇者だったし、何よりしぶとさに関しては俺も認める所だ」
ヒュウエルのフォローはありがたいけど、無駄だったんじゃないかな。
エレンは見るからにへそを曲げているし、協力を仰ごうともね。
「で? ヒュウエルは私たちに何の用だったの?」
「お前たちが持ってるお宝の中に、使えそうなものがないか知りたかったんだ。もしありそうだったら、タケルに売ってくれ。タケルは意外と商売上手で、お前たちの見えない所で結構稼いでることだしな」
とすると。
「魔王城の周辺でも、サタナの道具や魔法は使えるんですか?」
「そういうことだ、使えないのは勇者のスキルのみ」
エレンを見ると、一度合わせた視線を逸らした。
エレンはダンジョン攻略をし続けていた冒険者だったがために、期待は大きい。
「……そうねぇ、わかった。こうしましょう」
「なんですかエレン、たいていのことなら聞きますよ」
「あんたは邪魔よタケル」
そう言うと、エレンはヒュウエルに肉薄していた。
「タケルにお宝を貸してあげる代わりに、ヒュウエルには私と結婚してもらうわ」
「……」
「それでどう? 駄目だったらこの話はなしね」
「――っ……」
ヒュウエルは一度口を開き、何かを言いかけていた。
状況的に、今は二人の問題だ、僕が横から口をはさむ隙はない。
「例え、エレンを愛せなくても、その婚儀は成り立つのか?」
「大丈夫、いつかは振り向かせる」
「そうか、なら今日は特別に、俺の過去を話そう。お前らには知って欲しい」
――俺の本当の狙いは、魔王の首だってこと。
ヒュウエルの狙いが、魔王その人?
たしか魔王は元々は勇者だと言うが、ヒュウエルと何の関係があるのだろう。
「俺は元勇者だってことは、知っているよな? 本来ならサタナに召喚された勇者は、死ぬまでその立場を崩さない。だけど俺はある奴に俺のスキルを奪われ、勇者としてはやっていけなくなった……俺のスキルを奪ったのは、今の魔王だ。名前はリィダという」
ヒュウエルが元勇者だったのは知っていたけど、スキルを奪ったのが誰かは知らなかった。ヒュウエルは詮索されたくなかったように感じたし、その空気は僕じゃなくとも他のみんなもそうだったようだ。
「ヒュウエルが過去に何か抱えてるのは知ってたけどよ、今さらになって何で打ち明けた?」
酒場の常連のハリーが問うと、ヒュウエルは思案気だった。
「……可能性、だな」
「可能性? んだよそりゃ」
「言った通り、俺の狙いは魔王の首だ。けど、俺も年でな、スキルなくして魔王と渡り合うには、そろそろ限界迎えそうなんだよ。きっと俺が生きてる間は、誰もリィダを討ち取れないだろう。そのくらい強力だった、俺が奴に奪われたスキル――不死の回路は」
不死の回路、つまりは不老不死に値するスキルなんだろうと察しがいく。
魔王リィダを倒せる可能性は、正直、スキルを持ってないヒュウエルには無理。
アンディの誘拐未遂の時に見せた、ヒュウエルの力を以てしても無理だと思う。
「奴を倒せる見込みがあるとしたら、勇者ぐらいしかいない」
「だからヒュウエルはこの酒場で勇者を援助していたのね?」
「まぁ、そんな所だ」
エレンがそう聞くと、ヒュウエルは中途半端に肯定していた。
「俺と、魔王リィダの因縁は、お前たちが思っている以上に深い。もうこれ以上奴に好き勝手にさせられない気持ちが強いが、心のどこかで思うんだ……もうこれ以上リィダに罪は背負わせられないと。だからだ」
僕も複雑な気持ちになったことは、結構あったような気がする。
けど、ヒュウエルと、魔王の因縁からするとそれは匙たることで。
「俺の我が侭なんだがな、タケルには、その可能性が大いにあると思うぜ」
「ないわよ、タケルのスキルにそんな可能性なんて」
「エレン、お前は俺を信じられないのか? まぁ、ダンジョンで得た宝はお前のものだし、最後の判断はお前の方でしてくれ」
言うと、ヒュウエルは席を外すよう、酒場の裏門に引っ込んでいった。
思い出したくない過去を話して、気が昂ったんじゃないかな。
「……エレン、僕からも改めてお願いします、僕に力を貸してください」
「んんんんんんんん……! タケルの出発はいつだったかしら?」
「二日後です」
「じゃあ、明日中には返事するわ。にしても今回もヒュウエルには逃げられたかー」
ん? ヒュウエルが席を外したのって、そういうことだったのか?
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