第25話 スキルが使えない、だお

 王家に招待された夜は爆睡出来た。


 服を着替え、アオイが作ったテニス型の対戦ゲームをちょっとやり。


 香草を効かせたお風呂に入って、先ず一睡。


 あわや水難事故になりかけたが、二階に上がって冷蔵庫にあったトロピーを拝借。


 腰に手をあててトロピーを一気に飲み干し、アオイに泣かれる。


 明日の朝一番で買って来るとなだめた後は、ベッドにダイブしてそのまま爆睡した。


「シャキーン」


 今日の目覚めは大分いい、身体のコンディションも大分いい。

 優秀な睡眠が、なによりもの疲労回復の縁の下だと知る。


 パジャマから軽装に着替え、トロピーを約束通り買いに行った。


 中央広場の縁側に位置する味の覇王と呼ばれた勇者が営んでいる店で。

 飲料以外にも、肉料理や異世界サタナの郷土料理が総菜として置かれている。


「トロピー? 申し訳ねぇ、あれはもう販売中止なんだ」

「ガビーン、どうして?」

「王室から独占契約結んで欲しいって言われて、あれはもう王室の直営店からしか販売されないよ」


 アオイが聞いたら失望の余り泣くかもなぁ~、カワイソス。


「もしかしてアオイちゃんのお兄さん? だったら代わりにこれやるよ、内の新商品だ」

「ちょっと試し飲みしますね……おおこれは」


 炭酸ジュースじゃないか。

 今まで果汁や糖などを配合したジュースだけだったけど。

 この喉越し、口の中で小さな泡が弾ける感触は炭酸飲料だ。


「ありがとう、じゃあこれを六本貰おうかな」

「試験品だし、タダでいいよ。他の皆さんももし宜しければ一本ずつどーぞー!」


 さてさて、異世界サタナの住人に炭酸ジュースは受け入れられるかな?

 地球でも、炭酸飲めない人多かったしな。


 家に帰り、アオイには残念なお知らせです。と言ってやる。


「アオイ、トロピーはもう発売されないらしい」

「ガビーン」

「その代り、新商品を貰って来た。炭酸ジュースだった、美味かった」

「トロピーの方が健康的でいいんだよぉ~! まぁ今はこれで妥協してあげる」


 後はそのお店で買って来たケバブのような何かを朝食としてご用意。

 妹はたいそうご満悦な様子で、再びゲーム開発し始めた。


 その光景に思った親ばか的な台詞がある、家の子ほんと天才。


 まぁ普段から見える言動は馬鹿そのものだけど。


「屑様ぁ」


 今日は学校が休みなのか、アンディが朝早くから顔を出した。


「ん」

「ん? 何これくれるの?」

「ああ、飲み物だけど」

「ありがとー、じゃあ頂くぜ!」


 アンディは炭酸ジュースの中身も知らずぐいっと一気飲みし。

「ぶへぁ!」

 恐らく気管支に入ってしまったのだろう、絵に描いたかのように噴き出していた。


「ん、これで床を掃除しろ」

「なにこれ、なんなんだよこれぇ、さてはお前! 毒盛りやがったな!?」

「お前に毒盛るメリットあるのか?」

「屑様は俺の才能に怖れをなしたんだ! たぶん!」

「(´_ゝ`)」

「その顔止めろおおおおおおおお! ばあちゃんに言いつけるからな!」


 ふふ、いつも悪戯してばかりのアンディに、悪戯で返り討ちにしてやったった。


「……お兄ちゃん、もしかしなくても、昨日何か遭った?」

「確かにショックなことを聞かされたけど、問題としてはそうじゃない」

「私で力になれることがあったら言っていいよ?」


 アオイ……お前の優しさに、僕は感動したよ。

 悲しいことに、僕は今度、魔王討伐隊として戦場に向かう。


 そのことをアオイに伝えると、不安がっていた。


「でも、僕にはスキルがあるし、アオイにステータス魔改造してもらったから死ぬことはないと思うけど、とにかく目的地にはライザが待っているかも知れないんだ。行かない訳にはいかないんだ」


「じゃあ私も」


「お前は来るな、この店を切り盛りしてもらわないと困る。それこそ死活問題だ」


「……あの時もそうだったけど、さぁ」


 するとアオイは嗚咽をつきはじめ、すぼまった喉から必死に声を出していた。


「お兄ちゃん、いつも突然いなくなってさぁ、私たちがどんなに心配したか」


 アオイに近づき、背中に手を回して慰めた。


「今度は確実に帰れるから、そういう話だから」

「嘘ばっかり……っ、っ」


 嘘にはさせたくないな。


 それが嘘だとしたら、僕はアオイと永遠にお別れ。


 そんなの、さすがに寂しいから、嫌なんだよ。


 不安は僕にだってある、けど裏腹に、僕の胸は希望に満ちている。


 それはライザを救うことや、王都の人間を守ることから来る希望の光だ。


「魔王の戦場には、僕と、ハリーの二人で行く。他に頼れる人もいないから」

「ッ、絶対無理だよ! そのメンツだと! せめてヒュウエルさんもだよ!」

「ヒュウエルは、やらなきゃいけないことがあるから」


 と、アオイは唐突に僕の胸ぐらを掴んで外へ抜け出た。


 STR:99999999の膂力は凄まじく、首がもげ……もげ!


「ヒュウエル! いますか!?」

「……なんだ? いらっしゃいお二人さん」


 ヒュウエルの店に一瞬で着くと、アオイは僕を店内に放った。


「お兄ちゃん、出発はいつ?」

「kjfだjp;」

「え? 何? 聞こえない」


 明後日、と伝えると。


「ヒュウエルさんの師事で、明後日までにお兄ちゃんをしごいてやってくれませんか!?」

「唐突にどうした? あの後、どうなったんだ」


 ヒュウエルが首を傾げ、僕は無事に昇天しました、あへ。


 ◇ ◇ ◇


 ヒュウエルに事情を説明すると、彼は最悪な展開になったなと零した。


「ほらー、ヒュウエルさんも最悪って言ってるじゃーん」


 アオイは気だるげな態度で頬杖を突き、言う。


「……タケル、一応教えておくが、魔王城の周辺だと、スキルは使えねーぜ?」

「え?」


「魔王城の地下には、アークと呼ばれる太古の神々が残した遺物がある。アークの上にいると、勇者はスキルが使えなくなるんだ。例えばお前のステータスウィンドウもそうだし、アオイの手によって魔改造されたステータスも恐らくは効果しなくなる」


 そういう大事な話は事前に話しておけよ、モニカ様さんよぉ~。


「ヒュウエル、抜け道はないんですか?」


「ないな、一説によると、城で胡坐掻いてる魔王より、アークを守っているモンスターの方が強いらしいぜ。アークには手を触れちゃならねぇ、当然、魔王にも手を出しちゃならねぇ」


「……スキルが、使えないか」


 それは予想外にして予想外の事態。

 ヒュウエルから話を聞くまで少し見えていた可能性に、暗雲が垂れ込め始め。

 調子がよかった僕の心情は、一転してくぐもっていったんだお。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る