第24話 帰るわけにはいきませんお

 モニカとの交渉? いいや、これは命令と変わらない。


 向こうは僕の弱味を徹頭徹尾にぎり、ライザの救出を命令したんだ。


「交渉はこれで終わりです、今日はご足労頂きありがとう御座いました」

「……一つ気になったことがあるのですが」

「なんでしょう?」


 いや、気のせいということにしておこう。


 触らぬ神にたたりなしとも言うし、後ろで佇んでいるご老人の耳もある。


 部屋から立ち去り、再度オーケストラの演奏が耳に入って来た。


 今さらながら、王室の暮らしは豪勢の極致だよ。


「それではタケル殿には三日後、討伐隊と一緒に出発して頂きます」

「目的地はどこですか?」

「一応、場所は黙秘となっております。当日は王家の者が直々に魔王の膝下まで転移させますので」


 とにかく、今日の招待にはめっぽう気疲れした。

 早く帰りたい、帰って妹と他愛もない話して和みたい。


 王室の招待から解放され、僕はハリーと中央広場で合流した。中央広場の一角には、あの屋敷からの抜け道の出口があるので、ハリーにはそこで待機してもらっていたんだ。


「おうタケル、首尾はどうだった?」

「帰りましょうハリー、そう悪い話じゃありませんでした」

「おう、そいつはラッキーだったじゃねーか……なぁタケル」

「なんですか?」

「お前、童貞だろ? 俺いい所知ってっぜ、一緒にいかねーか?」


 ハリーは閑散とした夜の王都の中で、鼻歌を奏で始めた。

 一応僕の護衛役だった彼を労う一環で、金貨五枚渡す。


「ヒュヒュー! いいのかよ、こんなに頂いちまって」

「ちょっと渡しすぎたかな? その代り、後で頼みたいことがあるかもしれない」

「おー? 期待してくれていいんだぜ、じゃ、俺は身体を清めに行って来るからこの辺で」


 きっと彼は泡風呂にでも向かったんだろう。

 王都にも、遊郭ってあるんだ……今度アオイと一緒に行ってみるか。


「ただいまー」

「んぉー、お帰りお兄ちゃん」

「疲れた疲れた、今日はもうゆっくりして、寛ぎたいな」

「んぉー、そうしなそうしなー」

「……アオイはさっきから何をやってるんだ?」

「ゲームだけど? んぉー」


 アオイはステータスウィンドウを魔改造して、今度はゲームまで作り上げていた。

 元々創作に情熱があったアオイらしい一面が見れて、微笑ましい気持ちになる。


「アオイ、俺にもあとでやらせてくれな」

「んぉー、いいよー。いずれはMMOを作りたいねー」

「お前なら出来るさ」

「それはそれとしてお兄ちゃん、モニカ様から何て言われたの」


 兄が心配になって近づいて来た妹の頭を、僕は撫でた。


「お前には関係ないこと」


 元々アオイは両親や俺から溺愛されて来た存在だ。

 今回の俺の行為で、アオイははぐらかされ、表情をしかめるが。


「もう、誤魔化さないでよ」


 家族との他愛ないスキンシップは、今一番のオアシスだ。

 この調子で父さんと母さんも召喚されればいいんだけど、まぁ無理だろうな。


「アオイは地球に帰りたいか?」


「……悩ましい質問だね。私はサタナも好きだし、地球の暮らしも好きだったし。一長一短なんだよねー。サタナでの勇者スキルとか魔法とか、地球の文明利器とか、サブカルチャーとか。あ、そうそう」


 それで思い出したけど、とアオイは言い。

 僕にとってはどうでもいいようなことを伝える。


「お兄ちゃんの部屋にあったやりかけのエロゲー、警察が証拠物として押収していったから」


 あ、はい、そうですか。

 こりゃあ、僕は地球に帰るわけにはいきませんお!

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