第23話 やりますだお

「ライザが魔王に捕まっている?」

「そう申し上げました」


 その情報を耳にした僕は、今朝見た夢を想起した。


 夢の中で、ライザは苦しんでいた。


「これは最近になって功績を上げ始めている今の貴方だからこそお伝え出来る軍事機密ですので、余り公になさらないでくださいね。ことは王都の存続に関わるかもしれませんので」


「……あの日、ライザと一緒に出立した魔王討伐隊はどうなったんですか?」


 もしかしてほとんどが全滅?


 ライザが出立した日、彼以外の勇者も数名いたはずだし。


 ライザの要望を受けた僕は、その数名にもステータスウィンドウを与えた。


「私も詳細は知りかねますが、聞いた話ですと、あの日出発した討伐隊の勇者はほぼ死んだと。ライザ殿は魔王に気に入れられたようでして、何かしらの洗脳術に掛かり、時々戦場に姿を出しては、敵の一員となってこちらと交戦していると」


 ライザが……王都の兵たちと戦っている?


 事実か定かじゃない、が、今の僕を血迷わせるぐらいにはショックな内容だ――ゴン!


「失礼致します、何か大きな音がしましたが?」

「大丈夫、どうやらタケル殿にとってあの情報は信じがたいものだったみたいです」


 僕は今、部屋の壁にいくどとなくヘッドバットしていたようだ。


 冷静になれ、冷静になれ、そう念じつつ白塗りの壁をゴンゴンゴンと。


「タケル殿、どうかお気を確かに」


 老紳士は哀れな目で僕に言っていた。


「……ライザは敵に寝返ったんですか?」

「かもしれません、ですが、それだとちょっとおかしいですね」

「と言うと?」


 モニカの直視から避けるよう壁に向かいながら聞く。


「ライザ殿が敵として戦場で確認されたのは、三ヶ月も前の話です。ですが最近だと、戦場でもみなくなったみたいですね。そしてある情報筋から彼の生存が確認されております。という事は」


 魔王に気に入れられた彼は、幽閉か何か、魔王の傍にいる可能性が強いということか。


「それライザとちゃうんちゃうん?」


「タケル殿、どうかお気を確かに。ここはモニカ様の御前です」


「……それで、彼の友人である僕に話が来たんですか」


 そう言った後、モニカの方に向きなおすと、彼女の口は笑っていた。


「えぇ、最近の貴方のご活躍は目覚ましいようですから」

「……ですが」

「アオイ様でしたね、貴方の妹さんのお名前」


 モニカはことさら妹の名前を仄めかし、眉をぴくりとも動かさず、語り出した。


「妹さんを、元居た世界に還したくはありませんか?」


 それは以前、ライザの口から聞かされた王家のやり口だ。


 とすると、王家は昔からその文句を常用していたと見える。


 まるで伝家の宝刀のように振る舞う、彼女らの横暴なやり口に腹が立つ。


 先祖代々そうやって来たんだろうな……末代まで撲殺してやろうか?


「妹は……どうなんでしょう、どう言っても貴方は何かしらの弱味につけ入りそうだし」

「それで、引き受けてくださいますか?」


 背後には老紳士がたたずみ、前には王女のモニカが立ちふさがる。

 まるで後門の狼、前門の虎状態ぃ!


「……やります」


 だって、僕の目的はライザの救出だって言うし。

 彼は僕の命の恩人であること、今でも覚えている。


 なら今度は、僕が彼を助けてあげないと。


「そうですか、では今から三日後、ライザ殿と同じように討伐隊を先導して頂けますね」


 モニカは破顔して、横柄なことを言っていた。

 何の因果か知らないが、僕みたいな屑スキル持ちに、軍隊を預けるつもりだ。


「ライザの救出に」


 しかし僕は彼女の前に人差し指を出し、ちょっと待ったコールをする。


「ライザの救出に、仲間以外の戦力はかえって足手まといです」

「救出して欲しいのはライザ殿だけではありませんので」


 えぇ……。




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