第22話 はぁ? だお

 王都一帯の夜空は群青色だった。


 星々は地球と同じ輝き、いや、地球から見るそれよりも遥かに煌々としている。


「ようこそ御出で下さいましたタケル様、いつかの無礼をここにお詫び申し上げます」


 王都の中央広場から北東の道に行った、緩やかな丘の上にある王家の住居を尋ねると、いつの日か僕を門前払いした紳士がそのことを先ずは謝罪していた。


 タキシード姿でここに来た僕の隣には、同姿のハリーを連れ立っている。


「失礼ですが、そちらの方は?」

「俺の名はハリー、タケルのマブダチにして」

「申し訳ないのですが、貴方をここより先にお通しする訳には参りません」

「せめて最後まで言わせろ!?」


 わかり切っていたこととはいえ、無様だお。


「ステータスウィンドウ」


「……申し訳ございません、ここより先は王室に縁のある者の居住区となります。失礼ですがスキルのご使用はご遠慮頂けますか。私は中にいる者たちから厳命を受け、居住区の警護の責任の一切を負っておりますので」


「僕のスキルは人畜無害ですお」


「再度申し上げますが、スキルのご使用は遠慮頂けますか」


 チチィ……まぁいい、事前に調査した所、ここら一体のマップは大雑把に掴んでいる。


 王室がいざという時のために用意した抜け道も網羅しているぐらいだ。


 ちなみに、今回ここに来るにあたり、アオイからステータスを魔改造してもらっている。僕を先導するよう前を行く老紳士がどんなに熟練だろうと、ステータス的にはこっちが上だという自負があった。


「見えてきましたね、あちらが今回、タケル様をご招待されたモニカ様のお屋敷となります」


 なんて広大さだ。


 例え王家筋が所持する家だとは言え、我が家と比べると、サイズ感がおかしい。


 こんな家に住みたかったお、異世界転移物なら、そのぐらい夢見れたはずだお。


「では止まって頂けますか、これよりタケル様の身体を一度調べさせて頂きます」

「あ、はい」


 と言われてもなぁ、僕が持ってるのなんてハンカチ、メモ帖と万年筆、若干の金貨を入れた財布ぐらいだしなぁ……煌々とする群青色の夜空の下で、身体を確かめられていると、不思議と興奮して来るのは何故だ。


「……失敬、これは?」

「お守りです」

「中を確かめさせて頂きますね……ありがとう御座います」


 包み袋の中を確認した老紳士はそう言い、僕に返してくれた。


 お守りって、普通中を改めたりしちゃいけないんだけど、まぁええやろ。


 身体検査を終え、僕はようやく豪邸内に通された。


 室内のロビーでは、聞き覚えのあるようでないクラシック音楽が、生のオーケストラによって演奏されいた。


 今日は何かしらのパーティーなのか?


「あの、今日はパーティーだったんですか?」


「ああ、あれはこの時間になると常に演奏されております、特段、今宵催しごとがあると言う訳では御座いません。時に、タケル様の居た世界にあのような音楽は存在するのですかな?」


「ありますよ、僕が居た世界も結構広いので、多種多様な人、職業があって」


「でしたら今度、私目に感想をお聞かせ願えませんか?」


 今演奏されいてる曲目に対する感想かな? おk!


 ロビーの正面玄関にあるのは聖堂で見掛けた柱に支えられた高い天井と。


 天井に備え付けられた、立派なシャンデリラみたいな代物だ。


 我が家の照明事情から考えるに、あれも魔法で消灯するんだろうな。


 向かって中央にあった映画などでみる正面階段を一歩ずつ昇り。


 右手奥の通路へと、僕は向かっている。


 ロビーで演奏されているクラシック音楽が少しずつ遠のくと。


「失礼します、竹葉タケル様がいらっしゃられました」

「どうぞ」


 そう遠くない距離の部屋に、モニカは居るようだった。


「失礼致します」


 老紳士につられ、お辞儀すると、モニカは先ず。


「昨日お会いした時とは様子が違いますね、タケル殿」

「……ですかね、モニカ様もどことなく、いつもと違ったご様子で」


 精緻なお人形みたいな人から毒吐かれて思ったまま口にしてしまう。


「滅多なこと口にするものではありません、タケル様」


 するとそばに控えていた老紳士から忠告されてしまった。

 モニカは目配せで老紳士に退室をうながす。


「……さて、時間も余りありませんことですし、単刀直入に申しますね」


 心臓がはやる。

 生来からびびり気質だったけど、この動悸は異常だ。


「貴方の親友である、ライザ殿は現在魔王に幽閉されているようですね」

「え?」

「どうでしょうタケル殿、ここは一つ、ご親友の救助に向かわれては?」


 はぁ……えっと、はぁ?


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