第18話 妹も認める屑スキルだお

 拝啓姉さん、僕が異世界サタナに来て、そちらはどんな感じでしょうか?


 僕がこちらにやって来るタイミングで置かれたエロゲは、その後どうでしょうか?


 あれは名作ですので、くれぐれも、アンインストールしないで下さい、かしこ。


「お兄ちゃんであってるよね? 人違いじゃないよね?」


 前言すると、僕の家族構成は父、母、僕、そして目の前にいる妹だお。


 名前は竹葉アオイといって、小柄で華奢な体格をした花の腐女子高校生だお。

 妹は僕と違って近眼で、丸眼鏡を掛けている。

 亜麻色の髪の毛は肩先まで伸びているが、毛先がふわっとした印象だ。


「屑様の妹なんだってー? ばあちゃんに言われて連れて来てやったぜ」


 アンディが店に来たのは、妹を案内して来てくれたらしい。


「どうしてアオイがここに?」

「……いや、訳がわからないんだけど」

「アオイちゃんは今回の儀式で召喚された勇者だぞ、屑様」


 それって、天文学的な確率じゃね?


 勇者召喚は一ヶ月に一人のペースでされているらしいけど。


 親友のライザが地球外の人物である所を見るに、ありえないってぐらいの事象だ。


「お兄ちゃん、屑様って呼び名なんだ」

「笑うな、お前はその屑様の妹なんだお」

「そんなの関係ないし、って言うか、ここは何?」


 なんかこう、複雑な気分って言うのは、こういうことなんですねぇ。


「エレン、居ますか?」

「何か用?」

「お兄ちゃんが、綺麗なお姉さんと一つ屋根の下、だと……」


 うろたえるな我が妹よ。


「その子は? タケルのお客さん?」

「簡単に説明しますと、こいつは僕の妹です、今は商談中なのでここに置いて下さい」


 一先ず妹を二階に居たエレンたちに託し、僕はすかさず商談の場に戻った。


「アンディ」

「なに屑様?」

「妹を案内してくれてありがとう、お菓子やるよ」

「おおー」


 して、商談へ。


「店主はお忙しそうですね」


 今回のお客さんは、王都に勤めていた一兵卒上がりの人間だった。

 王都に勤めはじめたのはいいものの、思いのほか退屈だったらしく。

 彼は広い世界での活躍を夢見て、今回、冒険者になったようだ。


「いやー、まさか僕も妹が来るとは思ってなかったので」

「可愛い妹さんでしたね、良ければ紹介してくれませんか」

「無理だお」


 僕の妹、アオイは実家だと一番ヒエラルキーが高い。

 アオイは竹葉家のアイドルとして、蝶よ花よと可愛がられていた。


 むろん、それは兄である僕だとて例外じゃあない。


「いや、今回はありがとう御座いました。これで俺も冒険者か」

「頑張ってください、陰ながら応援しています」

「ありがとう……貴方にはよくしてもらったし、一つ教えておきますね」

「なんでしょう?」


 兵卒上がりの彼を軒先まで見送ると、何やら耳打ちを要求して来た。

 僕は素直に彼に耳を近づけると。


「どうやら、王室は密かに貴方を狙っているらしいですよ」


 との、情報を小耳にはさんだ。


 その新米冒険者を見送ったあと、店の二階に向かった。


「あ、お兄ちゃん、もういいの?」

「貴方も大変ねタケル、妹さんには大方説明しておいてあげました」


 エレンは僕の前に手を差し出し、ろこつに金銭を要求する。

 その手を無視し、僕は妹の隣の椅子に腰を下ろした。


「で、一番気になるのが、アオイのスキルなんだよ」

「それもそうね、アオイのスキルは何て言うの?」


 ことさらエレンまでもが尋ねると、アオイは目を虚空に逸らして言った。


「確か、私のスキルは、魔改造? だったかな、お兄ちゃん、魔改造ってどういうスキルなの?」


 ……さぁ?


「魔改造って、要はフィギュアなんかでいわれる、あれだよな?」

「ここにフィギュアってあるの?」

「あるはずないお、アオイ、エレンからどんな説明を受けたのか知らないけど」


 残念だけど、この世界にサブカルチャーはほとんどない。

 そう伝えると、元々腐女子だったアオイはテーブルに顔を埋め、泣き始めた。


「最低だよぉ、ゲームも、アニメも、漫画もない世界なんてぇ」


 わかる、お前の気持ち、すんげぇーわかるぞ。

 肩を落として泣くアオイに、それでも甘味処はあると伝える一環でお菓子を差し出した。


「貴方たちが元々住んでいた世界って、もぐもぐ、平和よねー」


 エレンはそのお菓子をなちゅらるに頬張る。


「でも、異世界サタナにある魔法や、スキルはそっちにはないんでしょ?」

「……魔法? お兄ちゃんも魔法使えるの?」


 え? 確か僕の今のレベルは10ぐらいで、簡素な治癒魔法と、初級の火の魔法が使える。んだったかな?


「一応」

「それってどうやって知ることが出来るの?」

「ああ、本来なら専門の占い師に見てもらわないと駄目なんだけど――ステータスウィンドウ」


 異世界サタナには覚えた魔法や、自分のレベルを診断する専門の占い師がいて。

 つい先日、僕はその占い師をやっている老舗と提携して来たばかりだ。


「けど、僕のスキルはステータスウィンドウの付与だから、そんな必要はないんだ」


 妹を前にして誇らしげに自分のスキルを伝えると。

 元々ゲーム知識が深かったアオイは、表情をしかめていた。


「うわぁ、屑スキルー」


 ですよね。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る