第14話 アンディ感謝感謝だお

「タケルちゃーん、俺たちにもお前のスキル付与してくれよ!」


 酒場の常連客が多少酔っぱらった感じで頼み込んで来ると。


「では俺はこれで」


 ヒュウエルの古馴染みは足早に酒場を去る。


「……ヒュウエルって顔が広いんですね」

「ん? まぁ、サタナに来てもう三十年近く経つしな。職業柄、知り合いも増えたな」

「おい、無視すんなタケル、スキルスキル!」


 酒場の常連客である益荒男のハリーはまくし立てるよう要求していた。


「ハリーにスキルあげると、僕にどんな見返りがあるので?」

「見返り……俺のケツ穴を自由にしていいぜ?」


 冗談じゃないお!


「僕のスキルが欲しかったら、最低でも金貨三枚だからな!」

「……タケル、俺がお前に顧客を斡旋してやるよ」

「本当ですかヒュウエル?」

「まぁ、金貨三枚を払える上客はそうそう見つからないと思うが、気を長くして待っててくれ」


 それからと言うもの、僕はヒュウエルの指導の下、店構えから直し始めた。


 ヒュウエルは本当に顔が広い、まさか王都の大工さんたちも知り合いだったとは。


「屑様、お店壊しちゃうの?」

「ちがーう、お店にお客さんが来やすくなるようにしてるんだよアンディ」

「屑スキルを欲しがる客なんかいねーだろ、バーカ」


 おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


 元は錬金術師の内装だった店の棚類を取っ払ってもらい。

 空いたスペースでお客さんと対話できるような長机と長椅子を仕立ててもらった。


「こんな感じでどうだ大将?」

「ありがとう御座います、立派な店だと、思います……!」


 改築工事をし始めて一週間後、僕は異世界サタナに自分の店を持つようになれた。


 ◇ ◇ ◇


「屑様、なんで俺にはスキルくれないんだよー」

「アンディのおばあちゃんに聞いてくれよ、僕だって知るか」


 しかし、営業を始めてから一週間。


 この店の上客はアンディや、アンディの友達の子供連中だけで。


 子供たちは僕を屑様、屑様と呼びよせて愛着し。


 この店を自分たちの憩いの場として占拠していた。


「お前たちが居ると商売にならないお!」

「屑スキルによりつく客なんかいねーってー」


 アンディを始めとし、子供たちの悪態の可愛いこと可愛いこと(血涙)。


 いまだにこのお店で話を聞きに来るお客さんはいない。


 何がいけないんだろう、ヒュウエルの斡旋話はどうなった。


 せめてもの救いは、子供たちの親が時々料理を差し入れしてくれることだ。


「屑様、今日はね、お母さんがサンドイッチをつくってくれたよ?」

「ありがとうって、いつも助かってますって伝えておいて」


 そうこうしている内にまた月日が経ち。


 元々銀貨百枚だった僕の所持金がいよいよ底を尽き始める。


「はぁ……僕はこのままサタナから居なくなるのだろうか、はぁ」


 店のレジ机の上で、持ち金の銀貨を落としては拾い、落としては拾っていると、お金の重圧に押しつぶされそうになった。


 やっぱり、僕のスキルは屑だったのかな……。


 ヒュウエルは特殊で、僕のスキルは極一部の好事家いがいは目もくれないのかな。


「はぁ」


 重いため息を吐いていると、店のドアベルが鳴る。


「誰? アンディ?」

「失礼、私はヒュウエル氏のご紹介に預かり、貴方と一度お話がしたくてやって来ました」


 き……。


 キタ――――――――――ッ!!


「今日は空気が酷く乾燥してますな」

「あ、今お茶をお持ち致します! どうぞそこにお掛けになってお待ちください!」

「タケル様は元気の宜しいことで、これは期待できそうだ」


 僕のお店の初めてのお客人は、小太りな初老の男性だった。

 僕は奥手に引っ込み、水で煎じたお茶をグラスに……!


「お、おおお、お、お、お初目におめおめに、か、掛かります!」


 緊張の余り、用意したお茶を、乗せていたおぼんに少し零してしまったが。

 落ち着け、まだあわてるような時間じゃない。

 自分にそう言い聞かせ、冷静を保つよう努めた。


「それで、今回はどういったご用件でしょうか?」


「急に顔つきが変わりましたな、いや、本日は貴方のスキルがどういったものか知りたくてはせ参じた次第でして……噂によると、王都の人々は貴方のスキルを大層見下しているようだと」


 お客さんは被っていたハット帽を脱ぎ、胸にあててそう言って来た。


「是非、私にタケル様のお力添えをさせて頂きたいのです」


 ……うう! 苦節三週間ちょっと。

 僕の前にようやく、ライザ以外の理解者が現れた。


「屑様、ちわっす!」

「アンディ? ちょっと、今は、だめ、だめなんだ」

「なんで屑様泣いてるの……ってお前は!?」


 今日も今日とて懲りずにアンディが店にやって来た。

 いい加減叱っておかないと、本当に店がつぶれる。


「屑様、この人になんて言われたんだ?」

「おや? お坊ちゃんとどこかでお会いしたことありましたかな?」

「俺は聖女の院長、マージャの孫だからな! おばあちゃんがあんたをこう言ってたぞ」


 ん?


「あんたは王都が召喚した勇者を、ことごとくさらって行く奴隷商だって」


 な!?

 驚愕に目を見開いた眼差しで、小太りの初老の紳士の顔を見ると。


「聞き捨てなりませんね、私は奴隷商などではない」


 毅然とした態度で、アンディに反論していた。


「嘘だ! 今度のターゲットは屑様だな!? 俺、おばあちゃんに知らせて来る!」


 といい、いつにも増しての行動力を見せるアンディ。

 店のドアを乱暴に開け、かっとぶように家に向かった。


 ……しかしな、アンディ。


 君がこの人をそう言った手前。


 この人と二人きりにされても、困るんだお!


「すみません、あの子はとにかく無鉄砲でして」

「然様ですか、タケル様はどうやら子供に好かれる御仁のようですな」


 言いつつ、初老の紳士は立ち上がり、交渉卓に金貨一枚置く。


「今日は日が悪いみたいだ、また今度お話を伺いに来ますよ」

「え? あの、この金貨は?」

「謝礼金で御座いますよ、それでは私はこれにて」

「あ……ありがとう御座いました。またお越しください」


 その後、アンディは祖母である聖女の代表の老女を本当に連れて来た。


「タケル様、ご無事そうで何よりです」

「アンディが言ったことは本当なんですか?」


 不安な面持ちで聞くと、聖女の代表マージャはゆっくりと頷く。


「ええ、もしもそのお方がその人であれば。という話ですが」


 確かに、アンディの見間違い、勘違いという可能性は低くないけど。

 この後マージャが発した一言に、僕は今日という日ほど、アンディに感謝したことはなかった。


「あれは――魔王の手先です」




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