第13話 僕のスキルは役立つんだお
「屑様!」
びくぅ!
「あ……誰かと思えば、君かアンディ」
あの後、僕は先ずライザにメールを送信した。
ライザが気付くかどうかは、今日やろうと思っていた実験によって判るだろう。
「どこ行くの?」
「ヒュウエルの酒場、子供が入っていい場所じゃないから」
「そんなこと言わないでよぉ、遊ぼうよぉ屑様」
「悪いけど、今日は無理。また後日にしてくれ」
「……何だよ、屑の癖に」
アンディのその言いようにカチンと来たが、彼は言うなり逃走していた。
「躾のなってないクソガキだな、本当に聖女の孫か? おおん!?」
ととと、それよりも今日見つけたDM機能の詳細を探らないと、だからな。
「いらっしゃ……タケル、お前の顔にも随分と見飽きたぜ」
「ヒュウエル、今日は大事な話があります」
そう言うと、酒場に滞在していた常連客がざわついた。
――やっぱり、タケルの野郎は男も行ける口だぜ。
――誰だよ、あいつのことノンケって言った奴。
時刻としては昼時で、とりあえず銀貨十枚をヒュウエルに差し出した。
「このお金で、昼食にプラス、ちょっとした僕の実験に付き合ってくれませんか?」
「……はぁ、なんだよ、やぶからぼうに」
「物は試しに、ヒュウエルも――ステータスウィンドウを開いてくれません?」
「ステータスウィンドウ、それで?」
「この世界の連絡手段ってどんな感じなんですか? 例えば遠方の人との」
聞くと、ヒュウエルは少しうつむき、磨いていたグラスを置いては言う。
「専ら早馬とかで運ばれてくる手紙が主流だな。郵便局っていうお偉いさんの天下り先となっている民間業者が取り仕切ってる。でも、俺は余りお薦めしない」
「なぜですか?」
ヒュウエルの話を聞きつつ、僕は彼にDMを認めていた。
「郵便局に運ばれてくる手紙は総じて、中を検閲されちまうからな。プライバシーもあったもんじゃない」
「( ̄ー ̄)」
「なんだよ、その得意気な顔は……と、タケル、ステータスウィンドウから音が鳴ったんだが?」
受信音って奴だな、でも目の前にいるのに僕の耳には届かなかった。
「ちょっと見せて貰いますね? えっと」
ヒュウエルのステータスウィンドウを覗き、確かめる。
すると左端にあったタブメニューの項目に、メーラーなる項目が増えていた。
「今、僕はステータスウィンドウを使ってヒュウエルに伝言を送ったんですよ」
「伝言?」
ヒュウエルのメーラーを開くと、件名『送信テスト』と書かれた僕からのメールが届いている――よし、これで大雑把にだけど、ステータスウィンドウのメール機能もつかめたぞ。
「ヒュウエルも僕に一言、送ってくれませんか?」
「なんか面倒だな、俺ももう年なんだ、新しいものには弱いんだよ」
ヒュウエルは嫌々な態度ながらも、僕の実験に付き合ってくれ。
最終的に、おぼつかない手つきでだけど、メールを送受信できるようになっていた。
「これはどんなに遠くに居ても、送れるのか?」
「だと思いますよ、何と言ったって勇者のスキルですから」
「だからさっきあんな得意気な顔したんだな、郵便業界の連中が黙っちゃいないぞ」
「なら、最初は権力者たちにだけこの機能を普及しますよ」
「王室、ならびに世界の貴族連中にか?」
「それと僕の友人や仲間といった特別な人たちのみです、ヒュウエルならこの機能にいくら出します?」
「……金貨で十枚だな」
おおお!? メール機能だけでそんなに評価されるのか。
するとヒュウエルは酒場の一角にいたフードを被っていた亜人種を呼びよせた。
「何か用かヒュウエル」
「タケル、こいつは俺の古馴染みでな、こいつにもスキルを付与してくれないか?」
「いいですよ」
今朝、洋服を融通された件といい。
ヒュウエルがいなかったら僕はこの世界で野垂れ死んでいただろう。
だから、ヒュウエルの古馴染みには無償でスキルを付与してあげた。
「恩に着る」
「ああ、お前のおかげで大助かりだタケル」
「どういたしまして」
これは、ある種の証左だった。
聖女も屑だと思っていた僕のスキルが、この世界に役立つものになりつつあるってことの、またとない証明だった。
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