第12話 新機能発見だお

「……まずは水を飲んで、冷静を保とう」


 エレンとリンの二人が出立しても、僕の二日酔いは治らない。

 こういう時はたしか水を飲んだ方がよかったはず。


 僕の父親が結構な酒飲みだったから、対処法はなんとなく知っていた。


 頭痛を抱えながら向かう井戸への片道はとてもとても辛かった。


「あら、貴方はたしか」


 井戸に向かうと、水遊びする子供に混じって白いローブ姿の人がいた。


「あ、お久しぶりです」

「お久しぶりですねぇ、その後の様子はどうですか?」


 と、聞いて来たのは僕を異世界サタナに召喚した聖女の代表の老女だ。


 僕は折り入って彼女に、聞きたいことがあったんだ。


「質問があるんですが」

「はい、なんでしょう?」

「……僕を召喚したあの日、貴方は早々に帰られましたよね?」

「え、ええ、でもそれが何か?」

「貴方は、ひょっとしなくても僕のスキルが使えないことに気づいてたんじゃないですか?」


 そう言うと、老女の足元にいた子供が「屑様だ!」と一声し、とたんに老女が口を塞いでいた。


 僕の考えは的を射ていた訳で、でも、屑様ってなんだお!


 二つ名にしては酷すぎて失笑してしまった。


「……私も、長いこと勇者の召喚に立ち会って来ましたからね。どうしても感じとってしまうのです。今回の勇者のスキルは総合何点だとか、自分の中で点数付けしてしまう癖が出来てしまうほどに」


「僕のスキルは貴方の採点だと、何点だったんですか?」


「ぶっちゃけて言うと0点ですね」


 ぶっちゃけ過ぎだお!


「屑様ー、僕にもスキルくれませんか?」

「この子は?」

「私の孫ですね、名をアンディと申します」


 アンディの背丈は僕の腰元ぐらいで、本当に幼い。

 彼と視線を合わせるよう膝を曲げ、僕は聞いた。


「アンディ、スキルをあげてもいいけど、一つ教えて欲しいんだ」

「なんですかー?」

「君の家だと僕はなんて言われてるの?」

「屑様ー、じいの最中に召喚された史上最低の勇者だって、姉ちゃんが」

「アンディのお姉さんは聖女なの?」

「そだよ?」


 ……そうか、老女は聖女の代表を務めるぐらい格式の高い人っぽいし。

 その孫娘が、聖女に任命されててもおかしくはなくて。

 アンディの姉は僕が召喚された時に居た聖女の中の誰かだったのだろう。


「ありがとう、じゃあ額を出してくれないかなアンディ」

「うん」


 僕の質問に素直に応えてくれたお礼の一環だった。

 アンディが額に掛かっていた前髪を上げると。


「なりません! その子にスキルを与えないで!」


 老女が声を荒げて制止した。


「……すみませんでした」

「いえ、私の方こそ大声出してしまってごめんなさい」


 と言う一悶着があり。


 老女はその後、一礼するとアンディを連れてその場を後にした。


 僕は井戸で飲み水を確保して、重たい足取りで借家に帰った。


「タケル、どこ行ってたんだ」

「ヒュウエル、どうしたんですか? エレンに用があるんだったら、もうとっくに行っちゃいましたよ?」


 すると家の軒先に、軽装姿のヒュウエルが佇んでいた。酒場で見るような仕事着じゃなく、淡黒い毛糸のセーターとスラックスの組み合わせはいつもと違って洒脱だ。


「知ってるよ、エレンなら行きがけに一回店に来た」

「そうだったんですね、じゃあ今回は僕に用で?」

「……ずっと気になってたんだがな」

「ええ」

「お前、いつまでその服着てるつもりだ?」


 ヒュウエルの指摘通り、僕はサタナに来てからずっとパジャマ装備だ。

 ヒュウエルは同情したかのように眉根をしかめると、僕に紙袋をよこした。


「昨日の礼だ、目算とはいえ、お前の身体に合うはずだぞ」


 紙袋の中に入っていたのは、僕のために仕立てられた洋服だった。


「ありがとうございますヒュウエル」

「タケルはこれから自分のスキルで商売始めるんだろ? だったらちったぁ身支度に気を遣うんだな。万年同じ格好だと誰も近寄って来ないぞ」


 と、言われてもなぁ……聖女も認める屑スキルを、どう売り物にしたらいいのか。


「じゃあな、用件は済んだんで帰るぞ」

「ヒュウエル、一つ頼みたいことがあるんですが」

「なんだよ?」

「お金、貸してくれません?」

「やなこった、じゃあな」


 頼みの綱も立ち去り、僕は途方に暮れ始める。

 脱力した手で一階のドアを開き、扉の鈴を鳴らして中に入った。


 ◇ ◇ ◇


 ヒュウエルが用意してくれた洋服は王都でよく見かける装備だった。

 インナーのシャツに革の手袋とジャケット。

 下は汚れが目立ちにくい黒いスラックスに、革ベルト。


 ヒュウエルの施しに感謝しつつ、着替えた後は。


「ステータスウィンドウ」


 再度、僕のステータスウィンドウを開いた。

 レベルや能力値は先日の決闘後から何一つ変わってない様子だ。


「……そう言えばライザは今頃どうしてるかな」


 ウィンドウの左端にあったタブをタップし、仲間の項目を窺う。


「あれ、エレンとリン、ヒュウエルの名前まである……ふーん」


 何となしに、エレンの名前をタップした。

 もしかしたらエレンの個人情報が知れて、後々牛耳ることが出来るかもしれない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 プレイヤー名:エレン

 レベル:25

 能力値

 HP :325

 MP :410

 STR:289

 INT:356

 SPD:530

 LUK:471

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 やべぇ、エレンって激強キャラじゃん。

 下手に逆らわなくてよかったぁ……おや?


 その時、僕は気が付いた。


 エレンのステータスの表示欄の下部に、メールマークのようなアイコンがあることに。


 これはもしや、仲間になった人たちとの、DM機能だったりするのか?


 試しにヒュウエルに表示を切り替えて、そのアイコンを押すと。


「あ、やっぱりこれダイレクトメール機能だ。分かりづらぁ~」


 アイコンを押すと、ステータスウィンドウには宛先と件名、本文の項目があり。

 宛先にはデフォルトでヒュウエルの名前が載っている。

 件名と書かれた部分を押すと、新たにもう一つウィンドウが表示される。


 それは異世界サタナの仕様に置き換えられた、仮想キーボードだった。

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