第42話 はじめてのジョブチェンジ

 水晶に手で触れながら目を閉じると、頭の中に文字や数字が投影される。

 

 意識を特定の項目に傾ければ投影されているものがぬるぬる動くため、苦労しながらも【シーフ】を選択。すると間を置かず現在ステータスが表示された。急いで端末にメモする。




<名前> 成海颯太(ナルミ ソウタ)

<レベル> 1 → 19

<ジョブ&ジョブレベル> シーフ レベル1

<冒険者階級>:―9級―


<ステータス>

最大HP:7 → 103

最大MP:9 → 53

STR:3 → 35

INT:9 → 51

VIT:4 → 88

AGI:5 → 31

MND:11 → 60


<スキル 1/2> →<スキル 2/6>

・《大食漢》

・《簡易鑑定》

・<空>

・<空>

・<空>

・<空>




 これが現時点でのステータスとその変移。


 マジックフィールド外での成人の能力は、各項目3~8程度が一般的な数値と言われている。俺もレベル1のときは大体がその値を取っていた。それがレベル19となったことで各能力値が大きく成長したわけだ。

 

 ステータス的にこのくらいまでなれば百キロ超の物を持ち上げながらでも、オリンピック選手を超える速度で走ることが可能。レベルアップを経験していないどんな格闘家に対しても負ける可能性はほぼなく、超人と呼べる領域に達している。

 

 さて、肝心のステータス値だが、能力値の格差も大きくなってきているのが分かる。明らかにHPとVITが高く、STRとAGIが低い。これは初期スキル《大食漢》による影響だろう。


 確か《簡易鑑定》で見た時、《大食漢》の効果は「レベルアップ時にHPとVIT上昇値にプラス補正、食欲増大、STR-30%、AGI-50%」だったはずだ。鑑定不能だった項目はおいておく。

 

 補正を外して考えればレベル1から19になったことで、ステータス上昇値は大凡40~50くらいを取っていて、HPとVITの上昇値はその倍くらいと考えられる。

 

 てっきりレベルアップ時のプラス補正なんて10%程度のボーナスかと思っていたので、予想以上の補正値に正直驚いている。《大食漢》はもうしばらく消さずに残しておくべきか、いやでも空腹は厳しいものが……

 

「私もやる~!」


 空腹かステータスかの究極の二択に思い悩んでいると、逸る妹が終わったなら場所を譲れと肩を揺すってきた。まぁ考察は後でじっくり考えればいいことなので場所を代わってやるとしよう。


 そわそわしながら水晶の前に座り、目で説明しろと訴えてくる妹にジョブチェンジのやり方を丁寧に指導する。うむうむと唸りながらも無事【キャスター】を選べたようだ。


「これでもうお終いなんだ。特に変わった感じはしないけど」

「そんなもんだ。ジョブチェンジしたら一応ステータスを教えてくれ」

「えーとね……」


 俺の端末に忘れないよう入力する。


<名前> 成海華乃(ナルミ カノ)

<レベル> Lv1 →Lv19

<ジョブ&ジョブレベル> キャスター レベル1

<冒険者階級>:―未登録―


<ステータス>

最大HP:70

最大MP:59

STR:61

INT:54

VIT:47

AGI:73

MND:46


<スキル 2/6>

・《二刀流》

・《簡易鑑定》

・<空>

・<空>

・<空>

・<空>


「こんな感じ」

「あれ? 華乃ちゃんや……だいぶ強くね?」


 ステータス補正スキルがあるわけでもないのに全体的にステータスが高い。上昇値も平均50を超えている。俺に《大食漢》のブーストがなければ大敗北していただろう。ダンエクでもキャラメイクのときにステータス上昇幅が少しだけ高い”当たりキャラ”なるものの噂があったが、それだろうか。

 

 まぁ気にしすぎてもアレなので、気のせいということで話を進める。


「あとは装備だな。武器でいいのがあったら買ってやるぞ。予算は50リルまで」

「やった~♪ この小太刀も使いやすかったけど、すぐ曲がりそうだし力入れるのが怖かったんだよね~」


 勢いよく立ち上がり武器が置かれているコーナーへ喜び勇んで飛び入る妹。それでは俺も物色を始めるとしようか。




 最初に値段をチェックしたいのは、なんといってもマジックバッグ。20階以降に出現する巨大ミミズの消化器――胃袋のようなもの――から作られていて、見た目の20倍くらいまで入るバッグだ。


 沢山の物を入れられるが重量は軽くならず、破れでもすると中身をその場でぶち撒いてしまうので扱いに注意しなくてはならない。だがこれからのダンジョンダイブでは嵩張る物を入れる必要も出てくるので是非見ておきたいと思っていた。


「ええと、250リル……やっぱ今の所持金じゃ無理だったか」


 プレイヤーが多くいたゲーム時代ではマジックバッグの素材が多く店売りされていたため、完成品のマジックバッグも値下がって50リルもあれば買うことができた。この世界ではそれよりも高いと覚悟はしていたものの、もしかしたらという淡い期待は無残に打ち砕かれたというわけだ。


 これからは隠しストアを利用する機会も増えるだろうし、ダンジョン通貨も稼がないといけないな。入手する機会も増えるはずなので、家に帰ったらダンジョンダイブ計画を練り直すとしよう。


 ということで次は鑑定アイテム。今持っているのは《鑑定》のスキルが使えるマジックワンドだ。《簡易鑑定》では鑑定できないアイテムやスキル、またはステータス偽装した人にも鑑定できるため、必ず持っておきたい一品だ。ただしワンドには使用回数があるので、しっかりチェックしておきたい。


「10回チャージのワンドが10リルか、これはゲームと同じだな。これ1つお願いします」

「ええ、たしかに10リル」


 家に帰ったらこのワンドで《大食漢》とヴォルゲムートからドロップしたアイテムを鑑定するとしよう。実験もしたいし、残金に余裕があれば後でまた買いに来たい。


 次に状態異常回復ポーションを2つ買う。1個5リルだ。もしものときにこれがないと最悪死ぬ可能性があるので保険のために俺と、華乃にも1つずつは持っておきたい。それと回復ポーションの値段も確認する。


(2リルか。これは安いな)


 効果は体に振りかければ【プリースト】が唱える《中回復》と同等の効果があり、簡単な骨折や指の先の欠損程度なら即座に治すという凄いポーション。需要が恐ろしく高く、冒険者ギルドでは最低でも1つ数十万円で取引される高価なアイテムなのだが、ここではダンジョン銅貨たった2枚で買うことができる。


 ゲーム時代ではすぐに売り切れ、再入荷したとしても値段が上がり、10リル以下ではなかなか買うことはできなかったが、プレイヤーがいないことでマジックバッグと逆の現象が起きている。


(しめしめ。これは転売するしかないな)


 そしてもう1つの人気アイテム。


「ミスリルって鉱石で売っています?」

「えぇ、あるわ。あっちの台に置いてあるのが鉱石よ」


 2畳ほどの台の上に様々な色の鉱石が並べられている。鉄鉱石や銀鉱石、ミスリル鉱石と鉱石ごとに名札が張られているが、同じ種類の鉱石でも大きさはかなり違うようだ。大きいほうを買おうとしたら、中に含まれている鉱物の量はどれもほぼ同じらしく悩む必要はないという。ならば運びやすい小さいのを買っておこう。


 ミスリル鉱石を精錬できるなら、ミスリルインゴットを買うよりもかなり安く手に入れることができる。これらもゲーム時代では鍛冶に手を出しているプレイヤー達に買い占められ、すぐ売り切れる人気アイテムだった。


(ここで鉱石を買って外で精錬依頼し作ってもらったら、安く武器を揃えられるな)


 含まれているミスリルの量は大したことないが、少量でも外で買おうとすれば目が飛び出るほどの金額になってしまう。これも上手くすれば転売で大きな利益がでるだろう。俺の転売計画が捗るぜ。

 

「おにぃ~! 片手剣を2本買いたいな~って思ってたけど……2本なら予算50リルって無理かも……」


 とか言いながら2本とも手から離さないので諦める気がないのが丸わかりだ。何とかならないかと上目遣いで聞いてくる。


「じゃあ鉱石だけ買って工房で一緒に作ってもらうか」

「作ってもらえるの!? やったっ」


 帰りにでも学校の工房に寄って見積もりをお願いしてみよう。


「あらぁ、もう帰るの?」

「えぇ。また買いに来ると思いますが、そのときはまたよろしくお願いします」


 武器に必要な量の銀鉱石とミスリル鉱石を買い、残ったリルで転売目的のHPポーションを買う。しばらくは値段を上げ過ぎない程度に、オババの店と冒険者ギルドでHPポーション転売マラソンでもするとしよう。


「そう、久しぶりの客だったから寂しいわぁ……あら? そういえばつい最近も人間が来たんだったわ」




「……え?」


 それって、かなりの爆弾発言では。

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