第22話 眠れない夜
リッチ攻略が成功したことで、どの番組も緊急速報でカラーズの偉業を伝え、特番をやっていたテレビ局に至っては放送時間を4時間も延長。32階攻略リプレイ動画を流しながら元冒険者が解説をやっていた。
カラーズの大ファンであるお袋と妹も深夜までテレビの前に齧り付き、攻略成功を喜んでいた。ちなみに、親父は朝が早いのでとっくに寝ている。
「もう12時過ぎてるし、寝たほうがいいんじゃないか?」
新階層攻略によって全国を挙げてのお祭り状態になっていることに驚くものの、番組はいつまでもやっているのできりがない。
「明日から休みだし大丈夫!」
「あら、明日はお仕事だったわ」
そういえば聞いておきたいことがあったんだ。
「お袋は冒険者になるチャンスがあったとしたらどう思う?」
「もうオバさんだし……モンスターと戦うなんて無理そうじゃない?」
年齢的に体力は下り坂。これから冒険者になるといっても普通は厳しいと考えるだろう。そこでダンジョンで肉体強化をするとアンチエイジング効果がある、と言うと……ダボハゼのように食いついてきた。
「なんでそれを早く言わないのっ! 明日仕事帰りにスライム狩りにでも行こうかしら」
「えぇー私も行きたいっ!」
アンチエイジングがあるってのはギルド図書館で冒険者専門誌を見てたら書いてあったのだ。この国の【聖女】様が言うに「若い秘訣? そりゃダンジョンさ」ってね。嘘だと思うなら【聖女】様に言ってくれ。というか戦前からダンジョン潜っていて今でも現役らしいが一体何歳なんだろう。顔出しはNGなのか年齢は不詳だ。まぁそれは置いておくとして。
やんわりとぼかしながら「普通に戦うのは厳しかろう、5階でいいパワーレベリングスポットがあるんだ」といった感じで話してみる。最前線のダンジョン攻略を目指すなら戦い慣れる必要はあるが、強くなるだけならパワーレベリングでレベルを上げたほうが手っ取り早い。戦術や知識はレベルを上げながら追々覚えて行くのでも十分間に合うだろう。
「おにぃってもう5階行けるの? 早すぎない?」
「パパはまだ4階なのに、冒険者学校ってすごいのねぇ」
カレンダーを見つつ「おにぃのダンジョン歴って2週間しかないよね?」と指を数えながら首を傾げる妹。親父にしても週末にパーティー募集して10人近い人数でちんたら巡回なんてやってたらレベルなんて上がらないわな。
高レベルになればパーティーのほうが圧倒的に効率は良いのだが、浅層では良い狩場を押さえてソロ、もしくはペアでレベル上げしたほうが効率は良い。ゲーム知識は必要だけども。
「お袋は仕事だから、時間あるときにやるとして。華乃と行けるとしたら明後日の日曜日だな。明日は安全にパワーレベリングするためもうちょいレベル上げたい」
「やったー! でもどうやってダンジョンに入るの? 冒険者証なんてないよ」
「そうよ、まだ華乃は14歳でしょ。冒険者ギルドだって許可しないわ」
ダンジョンは入場も国が厳格に管理している。ゲートは一般的に知られていないようだし普通は入れないと思うだろう。そもダンジョン攻略にゲートを使わないというのもどうかと思うが。
「いい方法があるんだよ。そこは大丈夫だから安心してくれ」
「やったー!」
「そう? でも危ないなら無理しないようにね」
と言い残してお袋は寝た。テレビではまだ階層攻略成功を称える番組が続いている。
「そういえばカラーズって帰りはまたボスを倒しながら戻るのかな」
「フロアボスは一度倒したらもう出ないか別の場所にポップするから、階を移動するだけなら倒す必要はないよ」
「そっかぁ」
5階にいるオークロードも最初期はフロアボスだった。あんなのをレベル5前後の【ニュービー】でまともに倒そうとするなら相当な人数が必要になるはずだ。まぁ橋落としやっちゃえば楽なんだが。
「じゃ、日曜日を楽しみにしてるね。おにぃおやすみ」
「あぁ、おやすみ」
さて俺も歯を磨いて寝るか。といってもやはりあのダンジョン攻略を見た後から血がたぎり眠気が来そうにない……
*・・*・・*・・*・・*・・*
ベッドに横になり思い出す――あれは紛れもなく命をかけたギリギリの戦いだった。
誰も倒したことがないフロアボスの攻略、そして未到達の階層攻略は、ゲームのときも一大イベントだった。強大なモンスターを相手に戦う姿はダンエクプレイヤーの花形であり、最もよく話題とされていた。
フロアボスはその階で出る一般的なモンスターより遥かに強く、数人のパーティーだけで倒すのは至難の業。ただし倒さねば先の階へは進めない。
そのため、ゲームではいくつものクランが合同でフロアボスに挑んでは散り、トライ&デスの繰り返しで攻略を進めていた。俺がこちらの世界に来る直前には100階攻略メンバーを募集するクランで大賑わいだったっけ。
だが、先ほどのテレビでやっていたあの戦いは、ゲームとは一線を画す。自分と仲間達の命を懸けて挑み、そして足掻く冒険者達の姿があった。
傍から見れば華やかに見えるカラーズだが、数多の失敗を経験し想像以上のプレッシャーと恐怖に抗い続けていることが容易に想像できる。この世界ではトライ&デスなんて決して許されるものではないからだ。
俺もオークロードのトレインで痛感したが、ゲームと同じ感覚でダンジョン攻略プランを考えるのは早々に修正する必要がある。
それにしても。あのリッチ戦を見ていていくつか分かったことがある。
まずはスキルのマニュアル発動について。
映像を見る限り、彼らはオート発動ばかりで、魔法陣を描いたりスキルモーションを交えたりといったマニュアル発動は一度も使っていなかった。テレビに映るから見せなかった、というのは考えづらい。マニュアル発動があればクールタイムをより短縮でき、スキルの威力も増す。あれだけギリギリの戦いをしているのに、普通なら出し惜しみなんてしない。
ならば、マニュアル発動はこの世界には知られていない、もしくは何らかの制約が課され、厳重に隠匿、管理されていると考えられる。どちらかといえば前者のほうが可能性が高いか。
ジョブについても分かったことがある。
援護回復職は中級職の【プリースト】止まり。カラーズにはあれだけ【プリースト】がいたのにもかかわらず、上級ジョブの【クレリック】は誰一人いなかった。真田という青年も【クレリック】に到達していなかった。必要ジョブ経験値はリッチと戦えるレベルなら十分稼げているはずなのに。
タンクの役割も、アタッカーであるはずの【ウォーリア】に盾を持たせてやらせていた。あの戦いでは同じ中級ジョブでも【ナイト】のほうが物理、魔法どちらも耐性が高く、スキルの面でもあえて外す理由がない。
では、【クレリック】や【ナイト】のジョブチェンジ方法は知られていないのか。
【クレリック】については情報がないので分からないが、検索したところ、【ナイト】は欧州の一部の国で確認されているという。ダンジョン情報は悪用される危険性があるため、世界では民間には十分に共有されておらず、高度な機密となっている場合が多々あるのだろう。
例えば【侍】は日本にしか確認されていない上級ジョブだ。これは日本政府が【侍】のジョブチェンジ方法を国家機密にしているからで、国が忠誠と引き換えに有望な若手に与える方式を取っている。【ナイト】もおそらく特定の国が日本と同じように”特権”という形で与えて増やしている可能性が高い。ある意味、高レベル冒険者は国家戦力的な扱いなのだろう。
分からなかったこともある。何故リッチ戦に【聖女】を投入しなかったのか、だ。
【聖女】のスキルである《ターンアンデッド》は、魔法抵抗が高いリッチに対しても絶大なダメージを叩き出せたはずで、下手をすれば【侍】の田里を超えるダメージを出せたであろう。また、広域エリアを回復すると同時にアンデッドにはダメージを与える《サンクチュアリ》があれば、4体いたカオスソルジャーにもあれほど苦戦をしなかった。
そして何より重要なスキルが、死者蘇生魔法《リヴァイブ》だ。フロアボスなどの強敵との戦いにおいて、たとえ使う機会がなかったとしても、この蘇生魔法があるというだけで【聖女】は必須の存在と言える。
この国にも【聖女】はいるはずなのに、何故カラーズは協力を仰がなかったのか。仰げなかった? ……もしくは【聖女】の存在自体がブラフの線もあるか。
本当にいるのかいないのか今は確かめようがないの措いておくとして、【聖女】はピンクちゃんがイベントをこなせばなれるジョブというのも問題だ。
もし彼女が簡単に【聖女】になった場合、日本や世界はどうでるのか。ゲーム通りだとしても変数が多すぎて予想が付かない。主人公の【勇者】を含め、知られていないジョブが世界にどう影響を与えるのか探っていくべきなんだろうか……
この辺りは一度日本の【聖女】……とまではいかなくても、高位冒険者に会って色々話を聞いて判断したい。だがまずはレベルを上げて堂々と会いに行けるようにしたほうがいいだろう。今の俺はレベル7の【ニュービー】に過ぎず、門前払いされるだけだ。
難しいことを考えると、眠気がすぐ来るな……
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