第19話 部活動勧誘式

 今日は午後の授業はなく、講堂にて部活動の紹介をするという。クラスメイト達はどこの部活に入ろうかと楽しそうに話し合っている。


 この学校の部活は、オリエンテーションの時に言われたように、ダンジョンダイブのための活動がメインだ。剣術部や弓術部などの使用武器だったり、ウィザード研究部やウォーリア研究部などのジョブだったりで分かれている。また、将来ダンジョンに関わる研究者や職人になりたい人にはアイテム作成部や鍛冶部も人気だ。


 なんにせよ、自分の目指す方向にいる先人達と話し合い、指導を願えるならこれほど心強いことはない。


 AクラスからEクラスまでの1年生一同が再び巨大な講堂に集まる。定刻になると照明が落とされ、生徒会役員の男子生徒が壇上に上がった。


「これより、部活動勧誘式を行う。部活動には様々な優遇措置があるし、成績に反映されるものもある。有望な新入生には多数の勧誘が来ているだろうが、この勧誘式を参考にして選んでもらいたい。それでは始める」


 Eクラスに勧誘なんて話は……来ていない。クラスメイト達も勧誘されている人なんているのかとキョロキョロしていた。


(これはEクラスだけハブられてるパターンかな)


 入学して数日も経てば、少しは他クラスとも交流ができるのかと思っていたが、どうやらEクラスは外部生だから、というよりも単に弱者と思われており、他のクラスとの関係が非常によろしくない。交流どころか喧嘩売ってるレベルで見下されている。


 それは1年生だけでなく2年生、3年生のEクラスも同じようだ。


 どの部活紹介もAクラスやBクラスの方ばかり向いて熱心にアピールしている。あってもDクラスまで。Eクラスに対しては入会を拒むような事は言わないが、歓迎している感じはまるでしない。


 ――そんな中。


「Eクラスの新入生の皆さん、我が第四剣術部はどなたでも歓迎いたします。スポンサーなどはついていませんが、他の部活のようにEクラスだからと雑用ばかりさせたりはしません。真面目に部活動を頑張りたい方、向上心のある方。見学だけでもいいので覗いてみませんか?」


 袴を着た女生徒がこちらの方を向いて勧誘の言葉を述べる。


 あの人は主人公のストーリーでは重要人物で、サブヒロインでもある2年生のギュー先輩、もとい松坂柚奈まつざかゆずな先輩だ。後に赤城君と一緒に第四剣術部を率いて第一剣術部と大戦争をする一本芯の通った女性だ。


 そのギュー先輩によると、これまでEクラスが上位クラスの運営している部活に入ってもろくに練習もさせてもらえず、雑用ばかりさせられ、さらにはイジメも多々起こっていたという。そのため、EクラスはEクラス専用の部活を作って活動するようになり、第四剣術部もそういった経歴でできた部活だと説明される。


 彼女の話し方はほんわかとした雰囲気があるものの、話している内容は深刻なもので、クラスメイト達もこの説明により他クラスが入るような部活はヤバいと気づいたようだ。


「雑魚は雑魚同士集まってろよ!」

「でも雑用係欲しいじゃん」

「そうそう、でも少しくらいは鍛えてやってもいいんじゃない」


 まだギュー先輩が話しているというのに、他クラスからヤジが浴びせられる。先輩に向かってその態度は何なんだ。


(……はぁ。そりゃこれから強くなって見返すってイベントが盛りだくさんで起こるわけだ)


 主人公の赤城君もストーリーでは上位クラスに色々絡まれて度々決闘イベントを起こしていた。この後もAクラスばかりの第一剣術部に入部しようとして「Eクラスだから」と門前払いを喰らうイベントがあったはずだ。そこで赤城君はギュー先輩とEクラスの先輩方がいる第四剣術部に拾われ、第一剣術部に見返すために必死に頑張るようになる。


 そのイベントを進めれば飛躍的に能力が向上するボーナスもあるが、その過程には結構な闇がある。応援してるぜ。


「っち……ダンジョンにちっとばかし早く入れたからって相当天狗になってんな」


 同じクラスメイトである磨島君は士族だけあってプライドも高い。もっとも、磨島君だけでなく、皆が見返してやりたいと思っているだろうが……現時点ではEクラスが徒党を組んだところで上位クラスを相手にしても勝てるわけがない。


 Dクラスの刈谷にしてもすでにレベル11で、【ファイター】のジョブに就いている。レベル3以下のEクラスの生徒なんてワンパンで沈められるくらいには強いのだ。


 俺もレベルを1から5まで上げたわけだが、肉体強化をしていないそこらの格闘家を倒せる程度にはなっているはずだ。レベルを1上げただけでは各能力の向上幅は微々たるもの。しかし動体視力、腕力、体力、耐久力と全ての能力値が上がるため、総合的な戦闘能力は大きく高まる。


 クラスメイト達は思いつめたように、もしくは悔しそうに俯く。見返したくても実力がないのだ。


 この学校では闘技大会や品評会もあり、部活単位で好成績を残せばクラス昇進にも好影響が出るシステムを取っている。


 あれほど露骨な態度を取る部活に入るくらいならEクラスの先輩方が立ち上げた部活に入るほうが無難に思えるが、Aクラスが入るような部にはスポンサーが大金を投下しており、施設も指導者も段違い。第一剣術部の部室なんてどこの金満コンドミニアムだよ! ってくらい高級感が凄かったのを覚えている。あれを見て諦めろというのも酷な話だ。


 一方のギュー先輩が在籍している第四剣術部は「校内の敷地内で貸せるところはない」と許可が下りず、校外にあるボロアパートの一室を借りて細々とやっている。また、マジックフィールド内の良い練習場は上位クラスがいる部活に粗方押さえられているため、第四剣術部は練習場所探しにも相当苦労しているはず。まぁ、それも上位クラスや生徒会が裏で手回ししているのが理由なのだけど。


 Aクラス入りを目標に入学し、今まで頑張ってきたEクラスの生徒たち。「どの部活に入るべきか」という以前の問題に頭を抱えている。

 

 つまりは八方塞がりというやつだ。




 *・・*・・*・・*・・*・・*




 歓迎式が始まるまではあれだけ楽しそうだったのに、帰りは重苦しい空気に包まれている。教室に帰っても会話はほとんどない。顔を覆って静かに泣いている子もいる。


「みんなっ、あんなのでいいの? 確かに今の私達は弱いかもしれないけど。どうにかしてこの学校を変えていきましょうっ!」


 大宮さんが涙を滲ませながら訴える。俺もこんな実力至上で差別主義の学校はどうかと思うよ。ゲームだったときはそういう設定ね、って感じで適度に流して楽しめたけどさ。


「そんなこと言ってもよ、あいつらにぎゃふんと言わすにはやっぱ強くなるしかないだろ」

「見返してやりたいけど……今の私達じゃ……」


 髪の短い女の子が「絶対……絶対に強くなってやる」と手を握り締めて言う。


 といっても、上位クラスだって必死だ。BからDクラスの生徒達も虎視眈々とAクラス入りを目指して努力している。上位のクラスが中学、高校合わせた6年間で勝負しているのに対し、Eクラスは高校生活の3年間だけで追いつかなければならない。


 ゲーム知識を持っているならばともかく、そうでないなら並大抵の努力では不可能だろう。


(まぁEクラスには主人公やピンクちゃんなどの規格外な主人公やヒロインもいれば、エージェントもいる極めて特異なクラス。俺が何かしなくてもこのまま弱者ポジションに留まり続けるとは思わないが)


「でも僕は第一剣術部を訪ねてみようかな。初めは認められないのも仕方がないさ」


 さすがは爽やかイケメン主人公の赤城君。ポジティブだね。やはりこの後Aクラスだらけの第一剣術部に突撃するのか。一人称の「僕」も段々と荒んで「オレ」になる日が来るのは近い。


 立木君は先ほどから眉間にシワを寄せて考え込んでいる。彼やピンクちゃん、カヲルが上手く赤城君をサポートできるよう祈っておこう。暴走されると面倒だし。


 また、気になるといえば、現時点でかなりの実力者で米国のエージェントでもある久我さんだが、彼女は我関せずの構え。頬杖をつきながら窓の外を見ている。Aクラス入りなんて目指してるわけがないので当然だろう。ただ、シナリオによっては動くこともあるので注視すべき人物だ。



「ねぇねぇ~。成海君は~、どこの部活に入るの~?」


 クラスの様子をぼんやりと眺めていると、前に座っていた眼鏡ッ娘の新田さんが話しかけてきた。彼女も久我さんと同じように勧誘式について大して気にしていないように見える。


「今すぐ入らなきゃいけないってわけでもないし、ゆっくり考えてみようかなって思ってるよ」

「そうよね~。私もホントは第一弓術部に入りたかったけど~。無理そうならEクラスの先輩が作った部活を見て回ろうかな~」


 実を言えば俺は部活に入る気など全くなく、関心もない。


 冒険者大学へ行きたいというわけでもないし、絶対にAクラスに入りたいわけでもない。部活動に所属する者だけが参加できる大会はあるが、参加できなくても多少不利になる程度。無理をして部活に入る必要なんてないのだ。そんな時間があるならダンジョンに潜って1つでもレベルを上げるほうがいい。


 それに今日からやっと高効率な狩場に行けそうなのだ。上手くいけばレベルを大きく上げることができる。楽しみだなぁ。




 そんなことを考えていたせいか、新田さんがと俺の顔を見ていることに気が付かなかった。

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