第4話 早瀬カヲル ①
―― 早瀬カヲル視点 ――
無事入学式が終わりホッとしている反面、私の幼馴染であり不本意ながら許嫁となってしまった成海颯太も最下位とはいえこの冒険者学校に合格してしまったことに、今更ながら非常に不満であると同時に歯痒い思いをしている。この学校の品格と品位を押し下げているようではないか。
(せっかく彼奴から離れられると思っていたのに)
冒険者学校に入ったのは憧れている冒険者のように自分もなりたかったというのが一番大きい。しかし次の次くらいの目的は、彼奴と離れることができるという打算的な意味もあった。それなのに。
小さい頃はまだよかった。性格が卑屈で捻くれていて怠惰なのもいずれ治ってくれると信じていた。
だが中学に入った頃からか、いやらしい粘着質な目で――特に胸部を――見てくるようになり、ここ1~2年ではまるで私のことを己の所有物であるかのように周りに言いふらし、時にはセクハラ紛いの行為で辱められ、中学時代は常に肩身が狭い思いをしてきた。
共に冒険者学校に合格した――してしまった――ことで最近では成海家のご両親から「カヲルちゃんの得意な剣術を颯太にも教えてあげてくれないか」と頼まれてしまい、私のストレスは日々うなぎ登りとなっている。本当は断りたかったのだけれども、小さな頃からお世話になっている彼らの頼みなので受けざるを得なかった。
仕方がないので稽古に付き合ってみたものの、まるでダメ。彼奴の場合、あれほど膨らんだ体ではまともに動くことはできずすぐに放り投げてしまう。稽古以前の問題だ。
そんな訳でまずダイエットからはじめようと糖質と脂質を抑えたバランスの良い食事を組んであげた。……というのに、陰でコソコソと大量のスナック菓子を食べていたり、早朝のランニングに誘っても走る気は全くなく、あろうことかデートと勘違いし、無視して走ると癇癪を起こす始末。
今日は共に素振りの稽古をやろうと約束していたのに……案の定やる気が見られない。この2週間、私なりに頑張ってはみたものの、はっきりいって時間の無駄でしかなかった。こんなのがどうして最難関と言われる冒険者学校に合格できたのか。面接官の目が節穴でないか精密検査を勧めてやりたい。
別にやる気がないのなら構わない。私とて成海家ご両親にお願いされたから義務感でやっているだけ。そこに愛なんてものはない。だがこれくらいやればもう十分だろう。私もこれからは必死に鍛えていかねばならないので彼奴の面倒を見る余裕もなくなるはず。
――だから、
ここまで私を追ってきた執念には驚きを禁じ得ないが、結婚するなど絶対に御免だ。もちろん成海家のご両親には申し訳ないとは思っている。だが私とて乙女であり恋愛によって殿方と結ばれたいという願いを持ち合わせている。彼奴の見た目は改善できる可能性はあるので目を瞑るにしても、あの向上心のない怠惰で卑屈な性格を許容することは絶対に無理だ。
何としても婚約を破棄せねばならない……が、破棄するにもあの”結婚契約魔法書”の在処を掴む必要がある。ここ何年も成海家に入って調べてはいるものの彼奴は抜けているようでなかなか尻尾を出さない。手がかりもなく進展もない。
あれがある限り私は彼奴に逆らえない。その内、私の体を貪ろうと卑猥な命令をしてくるのも時間の問題だ。そのことを考えると焦りと苛立ちが募るばかり。
(あぁ、彼のように勇敢で気概のある男だったのなら)
つい先ほど、ガラの悪いDクラスの生徒を追い返し、クラスの中心となった男子生徒が目に入る。名前は赤城と言ったか。
自信に満ち溢れたあの目、気高い立ち振る舞い。強くなろうという前向きな姿勢を見ていると、私のささくれ立ち荒んだ心も落ち着いていく。
そして彼と彼奴との大きな大きな違いを認識させられ、再び深いため息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。