第293話 言って読んで聞いて
と、言うことで。
地下を探りながらこの後どこに行くかという問い。
果たして上には何階分あるのか知らんが、手当たり次第見てみるかー。
非効率だか、日ごろの運動不足も兼ねて歩いてみることに。
……と、思ったが。
これと言って面白そうな装飾などは見当たらず、すぐに飽きた。
なので、視界を飛ばして気になる場所を探ることにした。
と、言うことで。
「資料庫と実験室にでも行くか」
当たりを付けて行先を決定。
同じ地下にあり、そして早く事が済みそうなところから行くことにした。
「はい、実験室どーーーーーん」
一人で言ってて寂しくなった。
適当に開け放った扉はでかい音を立てた。
音を立てたところで何かが来るわけでもないのでやりたい放題だ。
気にしない気にしない。
真っ白で清潔感を感じる空間は≪放り込まれた
入った部屋は器具が沢山。
もちろん稼働はしていない。
魔力を通せば使えるだろうが、中身も何もないので魔力の無駄に終わるだろう。
大量の魔石がガラスの筒に入れられ、そこから管が出る。
管の先は別の魔石だったり、また別のガラス筒だったり。
そう言うのが沢山。
本当に沢山。たくさんある。
いったい何人を同時に実験していたんだという。
そしてどんなハイペースで実験をしていたんだという。
ぞんざいな扱いをしていたのではないかと思う。
中央にいる、ただの白かったはずの長方形の台。
生々しく紅をさしていて吐き気がした。
「クソだわー」
≪虚無≫
この部屋のものはすべて取り込む。
見た目で何をするかの予想は立ったから、もうこいつらが私様に与える情報はただ『目障り』ということだけ。
遠慮もクソもなしに回収した。
「次行こ次」
まるで空き部屋のように何もなくなった部屋を後にして、次に向かうのは資料室。
それは地下からの出口である『教祖』と書かれた部屋、の真正面にあった。
ついでだから私様に関する資料もすべて回収してしまおう。
こんなところに私様の資料があるなんて鳥肌。
と、言うことで。
『教祖』の部屋ももぬけの殻。
入った瞬間になんかムカついたので扉を思い切り閉めてやった。
対して清々しくなるわけでもないが、八つ当たりにはちょうど良い。
振り向いて、今度は普通に扉を開けた。
ちなみに意味はない。
「こりゃまた。ご丁寧なこって」
という感想が思わず口から洩れてしまうほどには整理整頓されていた。
いくつもの本棚に、びっしりと敷き詰められたファイル。
同じ色。同じ見た目。たぶん全部同じファイルで統一されている。
逆に不便そう。
「……んー……」
面倒くさくなってきた。
資料はなるべくすべてに目を通すつもりだったが、これは一日二日では終わりそうにない量だ。
なんなら地下の奴らのこともある。
的を絞っていくしかない。
『誰にどういう実験が行われて、それは元に戻すことが可能なのか』。
それだけでも早急に調べなければ。
棚を適当に眺める。
殺気の実験室でも察したように実験の数がまず膨大だ。
それは犠牲になった人数も膨大ということ。
一人一人とまではいかないにしろ、実験の種類も細分化されているだろう。
一つのファイルを手にして、ふわりと体を浮かせる。
リラックス状態。
体の負担はなるべく減らして、読書に集中するスタイル。
何分、量が量だからな。
「やらない選択肢はないからなあ」
自分に喝を入れるつもりで呟いた。
「スグサ」
「んお」
「やっと気が付いたのね」
「シク」
「ええ、
「……あ、そっか。そういえば呼んだな」
「……」
叩かれ……ない。
叩かれると思ったのに。
前屈したかと思えば、何かを持ち上げた。
「すー!」
「ぬっ!?」
「ぎゅーーー!!」
状況からしてウーが頭を包むように抱き着いてくる。
これがヘッドロックか。
手加減なしの抱擁に息ができない。
「むー!」
「はい、終わり」
「ぷはっ」
「次は
「んん!?」
ウーが力任せとしたら、次は勢い任せだった。
私様の脇に腕を通して、背中に手を回す。
細いながらも強い力で抱きしめる。
少し震えてる。
「スグサ。スグサ。スグサ」
「……おー」
目下の頭をなんとなく撫でる。
気まずい? 申し訳ない?
どっちもか。
シクはわかってるんだ。
これから起こることを。
「ありがとう。
「頼み……あー、世界に戻してくれってやつ?」
「そう」
「どういたしまして。あれぐらいどーってことねぇよ」
「最高位魔術師だものね」
「だ」
足元のウーが見上げてくる。
口に指を当てて、察したウーは両手で口を押えた。
「ねえ」
「ん?」
「
抱き着いたまま離れないシク。
顔を見せたくないのか、肩に額を当てている。
シクのいう
もうすでに決めている。
「国の方向性が決まったら、な。もう決めてる」
「それは?」
「言わなくてもわかるだろ? シクなら」
この世界で一番信頼を置いているのはシクだ。
弟子も信頼はしているが、どちらかを選べと言われたら相当迷う。
けど、シクは長い付き合いでもあるし、私様に向ける気持ちもストレート。
応えるのは使命感や責任感ではなく、必然。
「……そうよね」
「ああ」
「ずっと一緒にいるわ」
それはできない。
私様がそう言おうとしたこともわかっていたのだろう。
一層強く抱きしめて、さっと離れた。
『聞く耳を持たない』というようにバラファイになって。
一つの溜息。
次のファイルに手を伸ばした。
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