第39話 決闘
少女がぴょこぴょこと駆けてきて、まさかの手摺を飛び越えて広場に着地。
そのまま元気に弟殿下の方へ駆けて行った。
飼い主を見つけたうさぎの様。
その後ろをボリボリと白い短髪を搔きながら、さらには大きな欠伸をしながらのそのそと追いかける、シャツとスラックスとループタイをした男性教師。
うさぎの後ろを追う姿は亀の様。
先程のクザ先生の印象があったせいか、同じ先生としては随分と頼りなさそう。
「ふあー……ぁあ。ったく、何度目だよ」
欠伸と不満を同時に漏らしつつ、通路の真ん中、一番後ろの座席に手をついて体重をかける。
ぐしゃぐしゃの髪には変な癖がついていて、寝てたのだろうかと推察。
「シオン、ロア。ライラから話は聞いてる。時間制限ありの一本勝負。魔法あり。武器の使用を許可。俺が危険な攻撃と判断すればそいつの負けで即終了」
「「はい」」
先生は決して大きくはない声を出し、一方的にルールを提示した。
「何度目」という呟きからして、この二人が決闘を行うことはよくあることなのだろうか。
慣れた様子で弟殿下と青髪さんは広場の中央から距離をとって見合う。
いつの間に手にしたのか、二人の腰には片手剣が備わっている。
「……はじめー」
やる気のない掛け声の後、一瞬で両者が中心に向かっており剣を交えていた。
ギリギリと金属を擦り合わせる音が響き、一見、力関係は互角のように見える。
――― 同級生か。
おや。スグサさん。
―― 面白そうだ。解説してやろうか。
その申し出はありがたい。
最初に渦中の二人が走り出した時、走っているところは見えていなかった。
スグサさんの方が目で追えるだろうか。
「殿下」
後ろの先生には気付かれないよう、決闘に視線を向けたまま小さく声をかける。
こちらを向いた殿下は目を合わせない私に何かを察したのか、すぐに視線を戻す。
「……どうした」
「スグサさんが解説してくれるそうなので、変わろうと思うのですが」
「わかった」
では。お願いします。
―――――……
王子サマや女魔術師たちと遊んで以来だな。
隣には王子サマ。
後ろには男教師。
正面の広場では小童の戯れ。
一応、お隣さんにはアイサツしとくか。
「変わりましたよ」
「久しぶりだな」
どーもどーも。
ということでヒスイもとい弟子のために解説しよう。
片手剣同士で鍔迫り合い状態だった
今は両者距離が開いており、競っていたところの足元が焦げている。
どちらかが火属性魔法を使ったのだろう。
序盤だしいきなりそんなので時間をとってはいられないと判断したか。
「
高らかと叫んだのは
拳大の水玉を操作し、不規則な動きで攻撃。
対する
「っらぁ!」
……力技過ぎませんかね?
剣で玉をぶった切ったよ。まあまあな早さだったと思うが。
よく見れば
見覚えがある。
「弟さんは兄のことがお好きなようで」
「まあ……仲は良いな」
王子サマがやっていた技そのものだった。
兄の方が魔力操作は上だけどな。
水玉をぶった切った
身体能力を上げているようでやたら早い。
慌てることなく
剣を肩の高さに構えているせいで口元が見えないが、詠唱を唱えたようだ。
「
落とし穴の魔法。
落とし穴と言っても大掛かりなものではなく、足が沈む程度のちょっとした穴程度の物だが、想定していなかった相手にはそれぐらいでも十分だろう。
魔力の消費も少ないし、効率的だ。
この使い方は上手い。
走り出していた
「なんのっ!」
前方へツンのめったところ、即座に反応してひっかけた方と逆の足を前に出して耐えた。
よく頑張った。
だが、視線は足元を向いてしまっている。
そしてスピードは殺されていて、姿勢を直した状態からコンマ数秒、止まる。
私様ならそこを狙う。
「…………! ≪地下からの怒号は天をも貫く≫!」
女魔術師も使った、水の上級魔法。噴き上げる水柱一本が、
勢いは広場よりも高い座席にいる私様も見上げるほどで、天井に届きそうなほどだ。
女魔術師は属性文のみの詠唱なし。
対して
そして
これがフルの魔法コンボか。
「……あいつら、強かったな」
独り言。
誰のことかは濁したし反応は求めていなかったが、お隣の王子サマは同情したように肩を落としたようだ。
これが学生の力量か。
となると、今弟子に教えてる魔法は……過剰か……?
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