第16話 むしろちょっとラッキー
「まず、こんなに食べれるのか?」
「問題なし!」
花火は自信たっぷりにガッツポーズで答えた。
俺は即反論しようと思ったが、まぁ一度いいと言ってしまったものは仕方ないか……
まぁ金はそこそこ持っているので問題はない。稼いでもほとんど使わないからなー俺。
そして呼び出しボタンを押す。やけに重く感じたが、気のせいだろう。
俺はその後、やって来た店員さんに訝しげな視線を向けられながらも花火に言われた通りに注文をした。
店員さんは俺の方ばかり見ていたので、おそらく俺が女子高生を餌付けしてるとでも思ったのだろうか。
こういう時にやっぱ男って不利だよな〜。普通は俺のことじゃなくて俺たちのことを訝しんで欲しいものだ。こんなに大量に食う女子高生なんておかしいだろっつーの。
「いっただっきま〜す!」
「頂きます……」
料理が届くと、花火はまるで分身しているのではないかというほどのペースで食べ始め、どんどん平らげていった。
そんな量、その体の中にどうやって収まっているのだろう。逆に不思議で仕方ない。俺はもう、花火の食いっぷりに感動すら覚えていた。
俺も自分の頼んだドリアを頂くとする。うん、美味いわ。なんて言うんだろうか、ファミレスのこの「ジャンクフードと高級料理店の間」みたいな感じ、いいよね。
「これで最後かぁ……」
花火が悲しげに呟いた。もうパフェまで辿り着いたのね……やだ! 信じられないスピード! というかまだ食べれるんですか、あなたは。
「ごっちそうさまでした〜!」
「ご馳走様でした……」
食べ終わると、テーブルには食器が何皿も敷き詰めて置いてある。こんな光景、初めてだ。もちろん俺のは一皿だけ。
「探偵さんありがと〜!」
「いえ、俺もすごいものを見せてもらったので」
すると、花火は伝票をつまみ上げてゆらゆら揺らした。
「じゃあ、払ってきますねー」
「え、なんでお前が……!?」
花火はこともなげにそう言うと、俺の言葉は無視して帰る支度を始めた。
なんで花火はそんなことを言うんだ? これは本日の協力のお礼のはず……
花火は財布を確認しながら、業務連絡のように呟いた。
「私は探偵さんとご飯が食べたかっただけだからー、気にしないでくださーい」
「そう言われてもなぁ……」
なんだよそのセリフ。そんな明らかに別の意味を含んでる言葉言われたら照れるでしょ? こっちが。あ、でももしかしたら今のも何かの聞き間違いなんじゃ……、例えば「私は探偵さんのマネーで食べたかっただけだからー」とかの。
そして花火は通学バッグを持ち、俺の目の前にすてすてやって来て軽く頭を下げてきた。
「明日からよろしくお願いしますねっ!」
なんだかこのままだと大人として気が済まない。こっちが奢ってもらった気分、いや、実際に奢ってもらっただけだ。その伝票には、俺の食ったのも入ってるからな。
やっぱり俺が払わなくては。
「飯の分は気にするな。俺も久しぶりに人と食べれて楽しかった。こちらこそ明日からよろしく」
完璧な返答だろう。浪費しなさすぎというだけのウルトラ節約家な俺にとって、今日はいい経験になった。
すると花火は不満げな顔をすることはなく、むしろちょっと「ラッキー!」みたいな顔をしやがった。やっぱり奢ってもらいたかったのかよ……
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