やっぱりずぶ濡れ女子高生に家の風呂を貸した俺は間違いだったのだろうか
赤木良喜冬
第1話 水落花火
この日、俺はおかしな女子高生と出会った。
大都会のデッカいショッピングモールの裏にある一見普通の一軒家。ここが俺の家であり、探偵事務所だ。事務所の名前は
調査から帰り、いつも通り鹿撃ち帽とコートを脱ぐと一階の作業用デスクに突っ伏した。
辺りを見渡せば至る所に本棚があり、それらをオレンジに近い電球色が照らしている。窓を見れば、やはり四月、裏庭に生えている綺麗な桜の木が見える。
基本完璧な俺の事務所だが、「依頼をしに来やすいように」という理由だけで、ショッピングモールの裏に事務所を作ってしまった。よって、とんでもなくうるさい。むしろ時々「引っ越したい」とまで思う。
さて、服に空いた穴を縫いますか……。
何で穴が空いたか、それは銃で撃たれたからだ。なぜお前は死んでいないのかと、そう聞かれたらこう答えるしかない。
――そういう体質だから。
なぜか九年前のとある火事の日以降、あらゆる生物・物質が俺に少しでも触れると、触れられている部分だけ俺の身体は空気になるようになった。そして、それが離れると俺の身体も元に戻る。つまり銃で撃たれても銃弾は俺に当たらないし、刀で切られてもまず刀が俺に当たらない。
要するに、不死身だ。まぁ寿命が来たら死ぬのかもしれないけど。
全く、おかしな話である。だが、事実だから仕方がない。ちなみに自分からなら何にでも触れる。それが唯一の救いと言ったところだろうか。
まぁとにかくだ、俺は今日、調査中に撃たれたのだ。身体は無事でも着ている服はダメージを受けてしまう。
俺は毛糸と針を取りに立ち上がった。「彼女」がやってきたのは、その時だった。
ドンッと玄関のドアが勢いよく開く。
そこには、ずぶ濡れの女子高生が一人。取り敢えず俺はすぐに玄関へ向かう。
「……大丈夫、ですか?」
身長は160センチくらい。ブレザーを着ていて、髪は肩までの黒いセミロング。左上には黄色と緑色のチェック柄のヘアピンをしている。手に持っているのは通学バッグだろう。と言っても、現在はどれも水浸しなのだが……。しかもそのせいで、そこそこある胸がさらに強調されている。
彼女は整った可愛らしいその顔を、175センチの俺を見上げるようにして向けてきた。
と、次の瞬間。
「あ……」
俺の顔を見た彼女は、口をぽかんと開けて突然固まった。何かに驚いているのだろうか。それとも、俺の顔が不愉快だったのだろうか。いや、それは無いと自分に言い聞かせよう。
そして数秒経つと、今度はなぜかみるみる顔を綻ばせ、俺に小悪魔めいた視線を向けてきた。
「
彼女の間延びした声が、室内だけでなく俺の脳内でも反響する。
「ど、どうしたんですか急に!? それに何ですか、その呼び方……?」
「あ、やーですか〜? なら、探偵さーん、依頼に来ましたぁー!」
元から別の候補も用意してあったかのように彼女は言った。なんかすごい子来ちゃったよ……。
「じゃあ……、それでいいです。探偵の
「私は
そして明るい笑顔を見せると水落花火は、靴を脱いで事務所へ上がろうとした。
俺は慌てて声を掛ける。
「ちょっと、その前にいいですか? なんで水浸しなんです?」
「いや〜急に夕立が……。めっちゃ寒いです……」
俺が帰って来た時はまだ降ってなかったが、確かに耳を済ますと外から水滴が地面を打つ音が聞こえてくる。これはこれはお気の毒に。
「タオル、要りますか?」
「いえいえ〜、……そうだ!」
水落がニヤついた。嫌な予感がするのはなぜだろう……。
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