第9話『共闘』
9話
もう聞き慣れつつあるどこかふざけた声が聞こえてくる。声の聞こえる方をむくとそこには想像通りの人物が袴を着てたっていた。そこに居たのは相澤慎也だ。呪術師の袴や陰陽師のスーツというのは正装であり、それを着るだけで少しだけ呪力が上がったり、筋力が上がったりする決戦装備である。この服のことを礼装なんて呼び方をするところもあるらしい。
「そっちも礼装か。いやそうか。普通に考えればこの濃度に君が気づいて、礼装を引っ張り出してくる。うん、納得できるよ。」
「であの白虎どうする?」
「そうだねぇ。多分白虎は使い魔だとは思うよ。さすがに白虎本体に反転の呪術はかけられないだろうし、けど僕には目的が分からないかな」
「そうだな」
体を互いに白虎の方へと向ける。先程一緒に戦っているので、俺は相澤に合わすことができる。言うならば相澤が前衛で俺が後衛。陰陽師後衛のやることは、敵戦力の把握、前衛攻撃とあわせた支援系の陰術、熟練者なら、自分たちに有利な結界の作成などだ。ならばやることは1つ、ここら一体に秘匿の陰術をかける。慎也は腕1本持っていかれているが、以前見たようにすぐさま腕をつくりあげている。無茶な戦い方をする。白虎が手を振りあげる。直接対峙していない俺でもわかる右上から左下への大振りの攻撃。慎也は白虎のする行動をわかった上で、白虎の腕が振り下ろされるところに自分の右腕を差し出した。慎也の右腕に白虎の爪がめり込んでいく。いや慎也がめり込ませていく。呪力でできた右腕だ。あいつの呪力は糸のようなものだ。多分、攻撃をくらった際に呪力の糸で白虎の爪を絡め取り、そのまま下へと白虎を引いているのだ。白虎が腕を取ろうとする事に糸の絡まりは複雑になっていく。
「お返しだよ」
そのまま慎也は、複雑な形をしている腕を1本の太くて長い糸にして、白虎を地面に叩きつける。勢いよく地面にたたきつけられた白虎は、よろめきながらも起き上がってくる。そうとうな威力があったであろう今の攻撃でも白虎にとっては、よろめく程度である。体制を立て直した白虎が、慎也に勢いをつけて体当たりをしてくる。慎也は、先程と同じように、爪で攻撃してくると思っていたのか、その攻撃を交わせなかった。吹っ飛ばされる慎也を後ろに投げながら、俺は前に出た。
「よろしく。」
俺は、白虎の攻撃に合して鎌を振る。右上からの切り裂きには左下からの切り上げで、左上からの切り裂きは右下からの切り上げで白虎の攻撃を受け止める。白虎の攻撃を避けようとは思わない。いや、思えないのだ。この白虎は頭が良い怪異である。俺が回避した先を読んで、攻撃を仕掛けるという手合いを得意とする怪異だと俺の危険信号を無意識下でさえ送り出す本能がそう叫んでいるのだ。
回避して隙を作れないのであれば、相手の隙を作る方法は単純だ。自分の獲物、俺の大鎌の刃で相手の攻撃を受け止め、そのまま思いっきり払い、仰け反った相手の肉体に刃を突き立てる。それだけの事のはずだ。なのになぜ、俺の体は震えているんだろうか。
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