第6話『田中巻という女』

先程までの呪力が嘘のように全て消え、今自覚できる呪力は自分のものだけとなっていた。

「あいつ置いてきてよかったのか?」

その問いに、相澤は少し考えて言葉を発する。

「うん。あの怪異多分大丈夫だよ。」

そこから、彼は少し言葉を発すると考えては、訂正したり、また考えては言葉を発したりと、会話が少したどたどしくなっていた。

それでも彼の言いたいことを要約すると、あの怪異は昭和からあの学校にいる地縛霊のようなもので、それに関する噂を耳にしていないことから、当分は放置していてもいいとの事。

「まあ、その話はまた今度。今は親睦会だよ。」

今ここは、焼肉屋である。今は相澤と向かい合って座っているのだが、席の移動が自由で話したい人と話すという形式を取っている。しかもここは担任である湯川先生が奢ってくれるらしい。なんとも気前のいい先生である。

ドンと俺の前に1人の女性が座った。顔はどちらかといえば童顔で、髪を肩ぐらいまで伸ばした女性だった。この女性は俺の事を訝しげるような目で、見回して来る。

「呪力が消えた。」

ボソッと彼女が呟き、席を立とうとした。その瞬間俺は彼女の腕を掴み、

「自己紹介くらいしようよ」

と少々キレ気味で言ってしまった。やってしまったと思ったのだが彼女はなんだかんだで話に乗ってくれた。

「それもそうだね。ごめんごめん。私は田中巻。神社育ちだよ。」

神社育ち。そして呪力。この巻という女は怪異殺しである。

「もしかしたら、戦場で会うことになるかもね。」

バイバイといいながら手を振って巻はどこか違うテーブルに行ってしまった。嵐のような女性であった。

「いやー、あんな可愛い子とどんな話してたのよ?」

話しかけてきた相手の顔を見ると、高く整った鼻に大きな瞳、少し明るめの色に髪を染めた男が立っていた。俺がそいつのことを認識するとそいつは俺の前に座ってくる。

「俺は楠木優雅。相澤、田中に続いてめんどそうなやつって思ってんだろ。顔に全部出てるぞお前。」

その言葉にハッとして取り繕うとするが、楠木が砕けた口調で俺に話し続ける。

「いやいや、田中は人気でな、一番最初に話しかけた男子があんただから、ほかの男子に憎まれるかもしれないから気をつけとけ。」

「待ってそれ。俺なんも関係ないじゃん」

少々語気が荒くなってしまうのは仕方ないと思いたいが、楠木がそう言った瞬間に辺りを見渡すと、俺の事を睨んでるやつがそこそこいたし、中にはハンカチを噛んで下に引っ張ってるやつまでいる。なんだか面白いクラスに入ってしまったようだ。

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