2話『怪異と怪異殺しと半人半異』
先方約20mと言ったところ。力を解放出来れば2秒あたりで行ける距離。しかし、どうやら怪異は気まぐれのようで鎌だけ力を貸してくれるようである。しかし、鎌を得た所で何が変わるという訳でもない。丸腰よりはいいのはあるんだが、しかしこの鎌を振ろうとして上手く振れたことがないのである。
「半人半異もつれてないこれ。」
楽しそうな口調で近くからそんな言葉が放たれる。俺は辺りを見渡す。自分の真後ろに男がたっていた。男の身長は約170弱。前髪を鬱陶しいほど長く伸ばしたその男はこちらを見て、不気味な笑みを浮かべる。
「フフ、怪異と半異と怪異殺し。この3つが揃ったこの状況やばいの君だよ?」
俺にその男はそうなげかける。呪術師別名、怪異殺し。正しくは怪異を討伐する者がそう名乗るのであるが、基本的には呪術師以外に怪異を殺さないから呪術師を指されることが多い言葉だ。残念ながらその中に例外もいるということで、その例外がここにいるということになる。
「残念、怪異と怪異殺し2人だ。」
はっと驚いたような顔をした男は、すぐに自分の武器である杖を俺ではなく、その奥にいる怪異に向ける。
「半異の怪異殺し。聞いたことあるよ。正しく言うならば陰陽師だっけ?」
陰陽師。神社の人間の俺ら半人半異の事をそう呼ぶのはとてもでは無いが珍しい。しかし、半人半異と陰陽師も違うのである。どちらかといえば陰陽師の中に半人半異がいるようなもの。陰陽師というのは怪異を殺さず生け捕りにし、その怪異と相性の良い人間を選び、人間を半人半異へとしてしまうもの達のことだ。しかし彼らも、神社と目標は似たような物で怪異の討伐である。まあ殺すか倒すかという大きな違いはあるのだが。
「あれはなんの怪異?」
「鬼。それも産まれたばかりの。」
鬼。それは古来より日本にいたとされる有名な妖怪だ。酒呑童子や伊吹童子というのは多くの人は聞いたことがある名前であろう。
「俺の1人でも大丈夫なんだけどね。産まれたばかりの鬼の怪異なんて。」
その時、鬼は男に向かって走り出し、男の右腕を引きちぎり、その腕を捕食していている。鬼の牙は、鋼鉄を貫くほどに鋭く見えた。ふっと男の方に顔を向ける。男は苦悶の表情を数秒うかべたが、すぐに先ほどの奇妙な笑みに戻った。男は右肩に神社特有の御札を張り、目をつぶった。
男が何をしようとしているのかわかった。なので鬼が男に近づかないように拘束の陰術を使い、こちらに来れないようにしてやる。陰術、それは呪術と似て非なるものである。怪異に向けて使うという目的は一致している。しかし、呪術は自分本来の呪力を使うのに対し、陰術は契約した怪異や、周りにいる怪異からの呪力を使う技である。この場合は鬼の呪術を使うことも出来るのであるが、その呪力は元来鬼のものであり、鬼との融合性が高いため、今回は契約した怪異の呪力を使わせてもらうことにした。
全ての力は使えないとはいえ、膨大とも言える呪力のパスは繋がっているのである。
その大きすぎる呪力から放たれた陰術に対して、産まれたての鬼は何もすることが出来ないようだ。
ちらりと男の方を見る。男の腕は再生、作られていた。これは恐らく模造の呪術の応用だろう。腕を作りそれを自身の体に繋ぎ合わせる。こんな無茶なことをするやつを見たことは無いが聞いたことがある。体と呪力で作りあげたものを順応させるには3日ほどかかると。しかし、この男の場合、呪力でできた腕と体の順応が異様だ。
「鬼さんこちら手の鳴る方へ」
男はケラケラと笑いながら、手を叩いている。それを挑発だと受け取った鬼は男に一直線に向かっていく。鬼が腕を出した瞬間男はその腕を掴み、自身の方へ引っ張り鬼を前傾姿勢にさせ、鬼の手を引いてる逆の腕で鬼に肘打ちをくらわす。この間、コンマ1秒。鬼のように速い体術に俺は少しだけ圧倒された。
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