少し過去の話を始めよう。

1話 『雪辱と侮蔑』

1話

少年をベッドの上で目を覚ます。飲みかけのペットボトル、空になったペットボトルが部屋の隅の方に、まとめられている。机の上には乱雑に置かれた本や中学の時に配られた中学最後のプリントが汚く置かれている。さらに、平常運転と言わんばかりのカチ、カチと力ない動きで秒針を動かす時計。

最後に、床に置かれた何も反射しない黒塗りの棒。その棒の先端には三日月状の刃が着いている。この棒は大鎌である。しかも、この少年が扱うにしては大きすぎる大鎌である。けれど少年にとってこの光景は【いつも通りなのである】。

少年、齋藤冬夜はカレンダーを確認する。たしか今日は冬夜の学校の入学式があるはずだ。今の時間は、午前8時前。入学式は確か午後からのはずだ。別にこのまま二度寝をしてもいいのだが、この街に来て、外に出ていないような気がする。

冬夜は外へでて、街の探索を始めた。周りを見渡す。そこは住宅街だ。マンションやアパート、それに加えて一軒家がいくつもたっている。4月ではあるが少々肌寒い。冬夜の服装はパーカーにジーンズとラフな格好であり、あまり防寒に気を配った服装ではない。ぶらぶらと適当に歩いていく。別にあてがあるわけでもない。冬夜はそこで気になるものを見つける。ゲームセンターと書いてある。先程いた場所が住宅街、この街に住む人間の現実であるならば、ここら一体はこの街に住む人間の夢と言ってもいい。なぜなら、ここら辺には、ゲームセンター、ボウリング、カラオケ等子供から大人まで楽しめる店や、パチンコといった大人限定の店などが並んでいる。けれどそれに共通するのは娯楽施設であるということだ。

さらにぶりと適当にほっつき歩いてみる。すると次はひとつの神社へと続く通りに出てしまった。まだ、力は使えないとはいえ、バレてしまえば神社側の人間にどのようなことをされるか分からない。ならばさっさと帰るのが正解だろう。しかし、厄介なことを2つ気づいてしまう。ここら一体、というより神社へと続く一本道が人よけの呪術に包まれていること。呪術とは、人間が本来持っている呪力を使用し、とある人間の敵に対処するために人間がつくりあげ技である。さらにもう一つはその、呪術の対象となる怪異と思わしき者がいること。怪異とは、妖怪だの七不思議だの基本的に科学では証明できない、非科学的なものである。いや、正しくいえば人間がその非科学的存在を恐れることにより出来上がった偶像の生物と言ってもいい。けれど奴らの厄介なところは、恐れられれば恐れられるほどに強さをましていくということ。例えば、とある学校にしかない七不思議のひとつだとかは普通の人間が対処しても何とかなったりするのだが、【死】の象徴でもある死神なんかは、数千の呪術師で凌ぐのがやっとである。

横をちらりと見る。そこには今朝見た黒塗りの大きな鎌が存在している。

どうやら俺の相棒はこの状況を戦い乗り越えようとしているようだ。

人間、呪術師、怪異、さらに区分をするならばもう一つだけ存在する。それは俺のように怪異に取り憑かれ、契約を交わし、それでもなお自我があり、人間のように生活を営むもの達だ。

大半の呪術師は怪異の力を使うことに対して侮蔑と自分らが成し遂げられなかった領域へと足を踏みれたものに対する雪辱を持ってこう呼ぶ。

――『半人半異』と。

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